2026年1月号Vol.141
【特集】自治体DX、次の一手総合的なフロントヤード改革
総務省自治行政局行政経営支援室長併任地域DX推進室長 村上仰志氏
インタビュアー 本誌編集人 飛鷹 聡
撮影 中島淳一郎
2026年3月末、いよいよ『自治体DX推進計画』が期限を迎える。今後、自治体DXはどんな方向へ向かうのか、そこで市区町村がとるべき“次の一手”とは何か──総務省の村上仰志行政経営支援室長併任地域DX推進室長に聞く。
なぜ、フロントヤード改革なのか
──『自治体DX推進計画』が今年度末で期限を迎えます。
村上仰志(むらかみ・たかし)
2002年総務省入省、18年4月茨城県総務部長、21年7月内閣府野田聖子大臣秘書官(地方創生担当)、23年7月 総務省大臣官房広報室長などを経て、25年7月より現職
村上 『自治体DX推進計画』は、2020年12月に策定されました。しかし、わが国の出生数は当時の推計予想を上回るスピードで減少し続け、2040年代には深刻な労働力不足がより顕著になると予測されています。これは地方公共団体も例外ではありません。そうした行政資源の制約に対応するため、この5年間で地方行政のデジタル化や地方公共団体の相互連携のあり方などの議論が重ねられてきました。
これを受けてDX推進計画も改定されてきましたが、〈定型的な業務や事務作業はデジタルを活用して効率化を図り、政策の企画立案等の創意工夫を要する業務、相談業務等きめ細やかな業務に人的資源を集中して、質の高い行政サービスの提供体制を維持する〉という基本的な考え方に変わりはありません。
そうした中、23年の改定で重点取組事項へ新たに盛り込まれたのが「フロントヤード改革」です。
フロントヤード改革とは、オンライン申請や窓口対応など、行政と住民との接点部分を改善する取り組みを総称するものです。
それまで重点取組事項には「行政手続のオンライン化」が掲げられていましたが、自治体DXの議論が進む中、住民との接点(フロントヤード)からデジタル技術を活用して住民サービスの向上、効果的・効率的な行政事務の推進を図ることとされ、23年4月の経済財政諮問会議でその全体像が示されました。
これにより目指すのは、①住民目線に立った創意工夫によるフロントヤードの改革(オンライン申請、ワンストップ窓口、マイナンバーカードの利活用等)を通じた住民サービスの利便性向上、効果的・効率的な行政事務の推進、②創意工夫を要する業務等へのシフトによる人的リソースの最適配分やデータドリブンの意思決定による政策企画立案の向上──です。
総務省としても、これに沿ってフロントヤード改革の支援へ積極的に取り組んできているところです。
──現在の推進状況を教えてください。
村上 オンライン申請や書かない窓口、リモート窓口など、住民との多様な接点を活用する動きは順調に広がっています。ただ、個別の取り組みにとどまっているものもあり、業務フローの見直しや業務全体の最適化、データ対応の徹底といった〝総合的な改革〟という点では不十分なケースも見受けられます。また、自治体間で進捗に大きな差が生じており、特に人口規模の小さな団体ではなかなか進まない現状があります。
総務省調査(いずれも4月1日時点)では、総合的なフロントヤード改革を実施しているのは、24年に195団体だったものが25年では262団体へと増加しました。これを人口規模別に見ると、10万~30万人の団体では51から67に増えていますが、1万人未満の団体では9から14と微増にとどまっています。小規模団体で取り組みが進まない要因には、「改革の必要性を感じつつも、どこから着手すればいいか分からない」などが挙げられます。
そこで総合的な改革を推進するため、昨年度から「自治体フロントヤード改革モデルプロジェクト」事業を進めています。これは、人口規模別等の先進的なモデルを創出し、改革実現までのプロセスやその効果などを手順書に取りまとめ、先進事例の横展開を図るものです。
手順書では、行政改革・DX推進の担当部門だけでなく窓口業務担当部門にも参考となるよう、改革の進め方や実施手順、各工程での留意すべき事項などを示しています。
本編でさまざまなモデル団体の実例を紹介するほか、別紙「付録1・人口規模等に応じたフロントヤード改革の取組例」では人口規模別(1万人、5万人、20万人)に想定ケースを挙げ、取り組み内容や概算運用経費などを例示しています。これは自分たちの将来像を鮮明にイメージするのにも役立つと思われ、ぜひ参考としていただければと考えています。
データ対応の徹底で職員も楽に
──システム標準化対応が一段落を迎え、今後は小規模団体でも取り組みが本格化すると想定されます。現状の課題は何でしょうか。
村上 これまでは、紙とデジタルの申請が混在したまま住民との接点だけを複数用意する「マルチチャネル化」でした。しかし、最終的に目指すべきはデータ対応を前提とした「オムニチャネル化(住民との接点の多様化・充実化)」です。
書かない窓口を導入しても、申請書を一度紙で打ち出して、それを見ながら職員が基幹業務システムに入力する──というのでは、住民は便利になっても職員の業務負担は増えてしまいます。そのため、対面・非対面を問わずフロントヤードでの申請手続きはデータで受け、基幹業務システムとのデータ連携を徹底することで、バックヤードの業務効率化・集約化を進めることが大切です。
そこで、今年度のモデル事業では、フロント/バックヤード連携により人手を介さない業務フローを実現するなど、「住民の希望に沿った窓口の実現」と「職員の時間を生み出す業務フロー」に重点を置いた改革モデルの構築に取り組んでいます。人手を介さないことで人的コスト削減に加えて、人為的ミスを減らす効果も期待できるでしょう。
これらモデル事業の成果を踏まえて手順書も改定し、業務効率化の好事例として横展開を図る予定です。
──確かに、さらなる業務効率化にはデータ対応の徹底が不可欠ですね。
本誌編集人 飛鷹 聡
村上 また、昨年度のモデル事業の結果、最も費用対効果が高いのはオンライン申請であることが明らかとなりました。
書かない窓口の場合、どうしても窓口対応に人手がかかり、バックヤードとの連携もRPA等を活用するケースが多いです。この点、オンライン申請であれば、例えばマイナポータルの「ぴったりサービス」から基幹業務システムへ申請データが自動連携され業務効率化が図れます。そのため、これからは諸手続きをオンライン申請へ誘導していくことが肝要でしょう。
こうしたことから、今後、モデル事業では二つのテーマに取り組む方針です。一つがオンライン申請の原則化・認知度向上等を通じて、〈バックヤードまでを含めたオンライン手続きの徹底による改革効果の向上を目指す〉ことです。
もう一つが、〈複数団体が同一の事務を共同でアウトソーシングする取り組みの創出〉です。これは中小規模団体の業務効率化を狙った共同BPO(*)で、民間事業者などにバックヤードも含めた業務を委託し、自治体職員がそれを適正に管理するイメージです。複数団体が集まって一定の業務量を確保することで単独で委託するよりも費用対効果が高まり、業務効率化や住民サービスの向上なども期待できます。ただ、実現には業務フローの統一が不可欠で、ハードルは高いでしょうね。
なお、これらについては来年度のモデル事業での実施を見据えて補正予算案を提案しているところで、成立すれば速やかに全国の自治体に募集をかける予定です。
人とデジタルが共生する未来へ
──今後、フロントヤード改革へ取り組む自治体が留意すべき点は何ですか。
村上 自治体にとって、「住民サービスの向上に向けた業務改革」は、いつの時代も変わらぬ普遍的なテーマです。そのためには、住民との多様な接点の拡充とともに、バックヤードの業務も含めて全体最適を図ることが大切です。
例えば、人員配置の最適化により住民との対話・相談などきめ細かな対応が可能となります。その結果、住民から「役所・役場が変わった」と喜んでもらえることは、職員のやりがいにつながるでしょう。あるいは、バックヤードとのデータ連携により、申請データを活用して処理状況(処理件数・時間、住民の待ち時間など)の把握・分析が行えます。そこで発見した業務・サービス上の課題は、PDCAサイクルを回して継続的な改善を図る──など、データドリブンな行政経営にもつながります。
そのため、総合的な改革へ取り組む自治体の裾野拡大に加えて、すでに推進中の自治体でも取り組みをブラッシュアップしながら全体最適を目指すようサポートしていく考えです。
さらに、中小規模団体では単独でデジタル人材の確保・育成が難しいという課題もあります。これについては、今年度末までに全ての都道府県において市区町村と連携した推進体制を構築し、その枠組みの中で取り組む予定です。そうした支援を通じて、全体の底上げにつながることを期待しています。
──自治体DXについて、今後の展望をお聞かせください。
村上 現在のDX推進計画は今年度末で終期を迎えますが、これまでの取り組みによって自治体DXの基盤は整いつつあります。よく「デジタルの導入は目的ではなく手段」といわれますが、同様にここまで取り組んできたDX基盤の整備はゴールではありません。ここから一歩踏み出すことでDXの成果を実感できる──そうした時期が到来したのです。
標準化・共通化されたバックヤードをベースとして、接点の多様化による住民の利便性向上、AI等の活用による業務の効率化、データの利活用によるデータドリブンな意思決定を実現していく──これにより、自治体DXが漠然としたイメージから具体的な施策へと進化していくことでしょう。
持続可能な行政サービスの提供へ、デジタル活用による人的資源の代替や業務改革は待ったなしです。
デジタル技術はAIエージェントの登場など急速に進展しています。これにより、これまで考えられてきた人間とデジタルとの〝役割〟の線引きも曖昧となり、企画立案や創意工夫を要する業務、対人業務など人間の得意分野とされてきた業務でも、あくまでも人間の業務をサポートするという形ですが、デジタル技術が活用できる時代となりました。
人間とデジタルが共生する社会へ。すでに民間では、さまざまな分野で人間とデジタルの融合により新たな価値を創造する動きが始まっています。
そうした時代の流れの中で、自治体はDX基盤をもとにどのように新たな人的資源や価値を生み出していくのか。いま、不断の改革と挑戦が求められているのではないでしょうか。
*BPO(Business Process Outsourcing/ビジネス・プロセス・アウトソーシング):業務プロセスの一部を、外部の事業者等に委託すること
掲載:『新風』2026年1月号