2026年1月号Vol.141
【スマート行政最前線】DX、これからは「職員の時間確保」が軸に
株式会社TKC 自治体DX推進本部 編集班
『自治体DX推進計画』の対象期間が3月末までとなる中、市区町村のDX推進は新たな局面を迎えています。
特集記事(2~5ページ参照)でも触れたように、書かない窓口やオンライン申請など〈住民との接点の多様化〉により住民の利便性が向上する一方で、職員の負担が増す例は少なくありません。しかし、総合的なフロントヤード改革で目指す〈住民へのきめ細かな対応〉の実現には、業務の効率化・人的配置の最適化により〈職員の時間を確保〉することが大前提となります。
そのため、今後の取り組みの方向性として、①バックヤードまでを含めたオンライン手続きの徹底、②共同BPO*1の創出、の二つが示されました。
申請手続きはデジタル完結へ
第一が、「オンライン申請の原則化・認知度向上等を通じ、バックヤードまでを含めたオンライン手続きの徹底」で、すでに先進団体では取り組みが始まっています。一例として、今号では栃木県足利市や大阪府泉南市の事例を取り上げました。いずれもバックヤードも含めた業務改革に向け、オンライン申請など住民が窓口に〝行かない〟状況を実現し、職員の時間確保につなげるよう努めているケースです。
足利市では、窓口受付時間の短縮と合わせて「行かなくてもいい=有人対応しなくてもいい窓口」の推進に取り組んでいます。例えば、コンビニ交付の利用拡大では住民への告知に加えて、自動車販売店や金融機関、不動産会社など証明書等の提出先も巻き込んだ認知度向上策をとっています。
泉南市では、給付金事業でオンライン申請に誘導するとともにバックヤード連携に挑戦。その結果、紙の申請に比べて受付~審査にかかる期間が半分程度となり、市民サービスの向上とともに職員の負担軽減を実現しました。これを成功例として効果が見込めるオンライン申請を拡大する考えです。
データ連携等によるバックヤード業務効率化は、今年度の「自治体フロントヤード改革モデルプロジェクト」でも重点テーマです。モデル団体の一つが兵庫県神戸市で、TKCは市の委託を受けて「パーソナルデータを活用したオンライン申請」の実証実験に協力。その成果は、今春以降に広く情報提供される予定です。
第二が、「複数の自治体が同一の事務を共同でアウトソーシングを行う取り組み(共同BPO)の創出」です。
これは中小規模団体の業務効率化において、有効な選択肢の一つとして注目されます。実現には、業務フローの標準化や個人情報の取り扱い、契約主体の整理など検討すべき課題が多くありますが、今後予定されるモデル事業に期待が高まります。
共同アウトソーシングの新潮流
共同BPOとともに、利用が進むと考えられるのが「BPaaS*2」です。
これはBPOとSaaS*3を組み合わせたものです。BPOが職員の指示の下で外部事業者の 〝人〟が業務を代行するものであるのに対し、BPaaSは標準化された業務プロセスの〝クラウドサービス〟を利用するという違いがあります。職員は既製の外部サービスを利用するため、業務フローが統一され、人為的ミスや属人化も防ぐなど効率化と品質向上を同時に実現できます。また、人員の確保に加えて作業者用のパソコン・執務スペースなどが不要となり、コスト削減効果も大きいといわれています。
TKCは、1980年に窓口専用システム「TASK80」を提供するとともに分散処理方式*4を提唱。以来、お客さまの〈行政効率の向上による住民福祉の増進〉を支援するため、業務システムの提供とともに、大量一括印刷・封入封緘等のアウトソーシングサービスも手がけてきました。現在、基幹業務システムのお客さまの約9割が同サービスを利用しています。なお、こうした長年の実績と知見を生かし、当社も新たなサービスとしてBPaaSの検討を開始しました。
では、市区町村ではどのような活用方法が想定されるのでしょうか。例えば、住民票の写しの発行や申請受付をオンライン上で完結するほか、当初課税業務への活用も想定されます。
現在、地方税申告・申請手続きの多くで電子化が進む一方、市区町村では未だに受信した課税資料の確認・修正等をアナログで対応しています。これについて、複数団体の業務を一括で処理する仕組みやAI技術の活用により、職員の確認作業を最小限にします。
さらに、納税通知書等の電子化に伴い、市区町村では紙と電子の両方への対応が必要となります。その時、通知書発送や住民からの問い合わせ対応などプロセス全体をカバーするサービスとして活用できれば、職員の時間確保という点でも有効でしょう。
とはいえ、BPaaSもその実現には業務プロセスの整理や標準化、承認プロセスの決定など多くのハードルがあります。市区町村は、BPOとBPaaSのどちらを選ぶかではなく、業務内容や団体特性などに応じて適切に使い分けていくことになるでしょう。
TKCでは、国や民間の動向も見据えながら数年後のサービス実用化に向けた検討を進め、お客さまが限られた人的資源をよりコアな業務に集中できるよう、積極的に関わっていきたいと考えています。
市区町村では5年の歳月をかけてDXの基盤を整備してきました。いま、業務効率化・人的配置の最適化に向けた新たな動きも始まったことで、総合的な改革が目指す〈住民へのきめ細かな対応〉実現への道筋がはっきりと見えてきたのではないでしょうか。
*1 BPO:Business Process Outsourcingの略 *2 BPaaS:Business Process as a Serviceの略 *3 SaaS(Software as a Service):システムをクラウドサービスとして利用する仕組みのこと *4 分散処理方式:日々の処理は業務システムで、大量一括処理はTKCのホストコンピュータで行い職員負担とコスト軽減を図る考え方
*上図の「賦課決定」などの公権力の行使にあたる業務は原則として業務委託ができないため、BPaaSを実現するにはこれらの課題解決が必要となります。
掲載:『新風』2026年1月号