2023年4月号Vol.130
【ユーザー事例】国内最大級の共同事業で、DXへ挑む
自治体DX推進 > 鹿児島県自治体情報処理連絡協議会(鹿児島県市町村情報センター)
鹿児島県自治体情報処理連絡協議会 (鹿児島県市町村情報センター) 顧問 横内宗人 氏
事務局長 正留良実 氏 / 統括リーダー 是枝 学 氏 / 永里修一 氏 / 山口七緒 氏
- 共同利用団体:鹿児島県、長崎県、熊本県内30市町村
- 事務局住所:鹿児島県鹿児島市鴨池新町7-4
- 電話:099-206-1050
──鹿児島県自治体情報処理連絡協議会について教えてください。
横内 市町村の情報化推進と導入・運用にかかるコストの抑制・適正化を目的として各種共同事業を展開する組織で、現在、鹿児島県と長崎県、熊本県内の30市町村が参加しています。もともとは鹿児島県町村会の内部組織として県内町村の情報化を支援していましたが、市町村合併等を経て市や他県団体が加入し、2020年4月1日からは独立組織として活動しています。
振り返ると昭和40年代に事業を開始して以来、国に先駆けて基幹系システム等の共同利用・業務の標準化、システム改修費の削減に取り組んできました。特に昨今の自治体クラウドでは、京都府自治体情報化推進協議会など他府県の共同組織とも連携して、基幹系業務システムや証明書コンビニ交付サービスなどの共同利用を推進しました。
「TASKクラウド公会計システム」の共同利用もその一つで、19年10月にファーストユーザーで稼働を開始し、いまでは鹿児島県・熊本県・福岡県・京都府・長崎県の5府県において58団体が利用しています。
小規模団体こそ
デジタル化が不可欠
──システム選定の決め手は何だったのでしょうか。
正留 それまでも別の財務会計システムを共同利用していましたが、クラウド化とともに地方公会計制度への対応が課題となっていました。
選定に先立ち参加団体の状況を調べたところ、公会計制度対応ではほとんどの団体が「地方公会計標準ソフトウェア」を使用し、また財務書類等の作成は外部委託をしていることが分かりました。これに年間500万円程度の外部委託費が発生していた上に、公会計情報を行政経営に生かすという点で職員に知識やノウハウが蓄積されないのは非常にもったいない話です。加えて、職員の多くが業務を兼務する小規模団体では、最先端のパッケージシステム導入による効率化が急務だという現実的な課題もありました。
その解決策として選択したのが、原課職員が複式簿記を意識しなくても導入できる日々仕訳機能を持ち、かつ地方公会計と一体となった財務会計システムの採用でした。
──鹿児島県市町村情報センター(*協議会が運営する共同事業の実務組織)が中心となって、わずか3年で全団体のシステム移行を完了したのは驚異的でした。
是枝 第一に、参加団体の協力が挙げられます。長年の共同事業の成果として、会員に〈市町村が主体的に動く〉という意識が定着しています。特に今回の移行作業では、後半の2年間はコロナ禍でセンターのSEが現地を訪問することもままならない状態でした。そうした中でも、リモートによる操作説明や研修動画のオンライン配信などサポートを工夫し、一度も現地を訪問せずにシステムが本稼働を迎えたところもあったほどです。
第二が、最初にTKCとセンターとの間でシステムと業務プロセスのフイット&ギャップ分析を徹底して行ったことです。これにより、システムの機能強化を求める部分と運用で対応する部分を明確にしました。ピーク時にはひと月に数団体を移行する併行作業となりましたが、特段の苦労もなく完遂することができました。
正留 その背景には支援企業の存在も挙げられます。実は、鹿児島県市町村情報センターには「支援企業」として地元のシステムベンダーなど複数社のSEが常駐し、財務会計システムをはじめ他社製品の導入・運用をサポートしています。これは全国でも他に類を見ない取り組みといえるでしょう。その中で数多くのデータ移行の経験やノウハウが蓄積され、今回の移行でもこれが生かされたと考えています。
支援企業は共同事業以外では競合関係にありますが、皆さんの協力により長年この体制を維持し続けてきました。
総力戦でDXの波を乗り越えろ
──システム活用の効果など、参加団体の反応はいかがでしょうか。
永里 稼働直後は多くの問い合わせがありましたが、2週間ほどで落ち着きました。また、決算統計処理が楽になったという声も聞いています。本格的な活用はまだこれからですが、地方公会計と一体となったシステムにより財務書類の作成は着実に外部委託から内製に切り替わってきています。
さらなる業務の効率化という点では、システムの切り替えを機に電子決裁を導入・検討する団体も増えています。実現には運用ルールの変更なども伴いますが、この点でも先行団体の知識やノウハウの共有という〈共同事業の効果〉に期待しているところです。
──自治体DX推進はいかがですか。
山口 まずはシステム標準化への対応が最優先課題です。県内では、共同事業により証明書コンビニ交付サービスが広く普及しています。最近ではRPAやAI-OCRに取り組むところも増えており、参加団体の意向を受けてこれらについても協議会でどんな支援ができるのか検討を始めました。
横内 鹿児島県は南北に600キロと広く、県内市町村の3分の1が離島という地理的条件を有しています。小規模団体も多く、厳しい財政事情を背景として情報化に限らず共同で取り組む〈素地〉があります。また、センター開設当初は参加団体の職員もSEと一緒になって情報化に挑んできた〈歴史〉があり、そうした職員がいまでも共同事業を応援してくれる〈人の絆〉がある。これらの特性は大きな〝強み〟であり、これを武器としてこれからも自治体のDXへ挑戦し続けていこうと考えています。 (岡村さやか)
掲載:『新風』2023年4月号