2022年4月号Vol.126

【デジタル・ガバメント ここがポイント!!】デジタル田園都市国家構想と自治体DX

株式会社TKC 自治体DX推進担当部長 松下邦彦

 岸田文雄首相は就任後、新しい資本主義の実現という政策を打ち出しました。これは成長と分配の二つの戦略からなり、成長戦略では「デジタル田園都市国家構想」が第二の柱に位置付けられています。さっそくデジタル田園都市国家構想実現会議(以下、実現会議)が設置され、補正予算や当初予算が編成されました。この構想において、自治体は何ができ、また何をやるべきでしょうか。

田園都市と田園都市国家

 2020年に刊行された『岸田ビジョン』にデジタル田園都市国家構想が掲げられており、同じ年に自民党デジタル社会推進特別委員会が『デジタル・ニッポン2020──コロナ時代のデジタル田園都市国家構想』という提言を発表しています。
 田園都市というと緑豊かな住宅都市、特に大都市の職場に通勤する近郊のベッドタウンを想起することが多いでしょう。しかしながら、田園都市というコンセプトは、誕生した時点では職場と住宅地を兼ね備えた自立的な都市を目指していました。
 時は19世紀末。英国では工場と住居が大都市に集中し、生活環境の悪化が大きな問題となっていました。これを解決するために、エベネザー・ハワードという人が提唱した都市構想が「田園都市(ガーデン・シティ)」です。職場と住宅の双方を備えた小規模の都市を、農村を間に置いて分散的に配置し、良好な生活環境と都市の利便性を同時に実現するというものです。この理想はなかなか実現されず、日本でも大都市とその周辺の郊外住宅地が拡大し、大都市圏域への人口集中が進んでいきました。
 1980年、当時の大平正芳首相が「田園都市国家構想」を公表しました。これは〈都市に田園のゆとりを、田園に都市の活力を〉という基本方針の下に、職住を兼ね備えた自立的な田園都市圏が全国に点在する──という国家像です。大平首相が任期途中で病に倒れたため、構想を具体化する施策は展開されませんでした。デジタル田園都市国家構想は、この精神を継承し、道路や鉄道や工業団地ではなく、デジタルによって構想を実現しようとするものです。

デジタル田園都市国家構想

 デジタル田園都市国家構想の概要は、岸田首相の施政方針演説で簡潔に語られています。5G網、データセンター、光ファイバーといった「インフラ整備」、「規制・制度見直し」による新しいルール作り、さらに「デジタルサービスの実装」の三つを一体的に動かすことで、地域の課題解決とともに、地方から全国へのボトムアップでの成長を実現する、というものです。
 第1回実現会議の牧島かれんデジタル相提出資料では、構想の目指すべきものとして「地方の魅力をそのままに、都市に負けない利便性と可能性を」という過去の田園都市国家構想を継承するモットーが示されました。また、実装するデジタルサービスの分野としては、スーパーシティ/スマートシティ、MaaS(交通)、地域経済循環型、防災レジリエンス、スマートヘルスケア、スマートホーム等が掲げられています。これらは従来から各省庁が推進してきたデジタル関連施策であり、それをデジタル田園都市国家構想として横断的に統合する狙いが見えます。
 第2回実現会議の若宮健嗣担当相提出資料では、関連施策の全体像が示されました。これは令和3年度補正予算と令和4年度当初予算にかかる施策をまとめたもので、①デジタル基盤の整備、②デジタル人材の育成・確保、③地方の課題を解決するためのデジタル実装、④誰一人取り残されないための取り組み──の四つに分類されています。内容は、従来の「まち・ひと・しごと創生」やスマートシティ・スーパーシティの推進、マイナンバーカードの普及促進等の施策を中心として、新規に海底ケーブルの敷設といった大規模のインフラ整備が追加されています。
 同資料では「デジタル田園都市を支えるデジタル共通基盤(イメージ)」を示し、これを〈行政機関間のデータ連携基盤(公共サービスメッシュ)を国が主導して整備〉としています。これは、マイナンバー制度および国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループで議論されており、行政機関が保有する個人の情報を行政サービス等で活用するための基盤として注目されます。なお、実現会議は今後デジタル実装について議論を進め、最終的に『デジタル田園都市国家構想実現基本方針案』を策定する予定です。

自治体はまずDX推進

 構想で提示されているデジタルサービスの分野は、MaaSやスマートヘルスなど、個別の基礎自治体が単独で推進するには大きなものが並んでいます。これらを実現するには、自治体内のみならず民間企業・団体との協業、また広域的なサービスでは他の自治体との連携や調整も必要です。
 一方で、田園都市構想の取り組みイメージには「行かなくて良い市役所」といった小規模のDX事例も提示されており、構想の射程には大規模のサービスだけでなくコンパクトな施策も含まれています。したがって、自治体がデジタル田園都市国家構想を推進するにあたっては、大規模なサービスは長期的に推進する一方で、自治体が単独で推進できるDXは早期に着手することが望まれます。
 第2回実現会議の牧島デジタル相資料では、構想推進の取り組みを三つのタイプに分けています。「タイプ1(スターター)」は、他の地域ですでに確立されている優良事例を活用します。「タイプ2(プレイヤー)」は、データ連携基盤を活用して複数のサービスを組み合わせます。そして「タイプ3(リーダー)」は、全国の取り組みをリードするものとされています。2月に創設されたデジタル田園都市国家構想推進交付金では、タイプ1の取り組みについて窓口システムやオンライン申請等、既存のDX関連サービスを活用することが可能となっています。この募集はすでに終了していますが、今後も同様の補助が設けられることが予想されます。
 デジタルサービスによって地域の課題解決とボトムアップの成長を実現することを目指すデジタル田園都市国家構想において、自治体は大規模のサービスを長期的に取り組む一方で、まず庁内のDXを進める必要があります。これは、今後、人口と職員数が減少する中で住民サービスを維持し向上するために、事務の自動化・省力化が不可欠であることが理由です。また、地域に対して、自治体自らがデジタル化に積極的であるというメッセージを伝えることにもなるでしょう。

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