2022年4月号Vol.126
【ユーザー事例】財務会計事務の電子決裁化で、BPRに挑む
公会計システム(電子決裁)> 栃木県矢板市
デジタル戦略課 課長 石川民男 氏 / 副主幹 阿美伸幸 氏 / 総務課 主幹 松本一裕 氏 / 主査 小林佑馬 氏 / 出納室 室長補佐 阿久津順子 氏 / 主査 樋口 薫 氏
- 住所
- 栃木県矢板市本町5番4号
- 電話
- 0287-43-1111
- 面積
- 170.46平方キロメートル
- 人口
- 31,327人(2022年2月1日現在)
浸透・定着へ工夫さまざま
──2022年1月から財務会計事務の電子決裁を開始されました。
阿久津 矢板市では年間の会計処理が約4万件あります。関連する証憑書類も相当数に上り、保管場所を圧迫するとともに会計検査などで原本を探すのに多くの時間と手間をかけていました。
松本 これら長年の課題に加えて、昨今のコロナ禍で非対面による承認・決裁の検討を余儀なくされたこともあり、デジタル化で一気に問題解決を図りたいと考えました。小規模な市役所で「本当に電子決裁まで必要なのか」という迷いもありましたが、職員が抱える業務が年々増加する中、やはりDX推進による業務効率化・生産性向上は避けて通れません。ただ、いきなり従来の“やり方”を変えると大きな混乱も予想されます。そこで一つのモデルケースとして、財務会計事務の電子決裁化に挑戦することとしました。
──業務改革にあたり、どのような取り組みをされたのでしょうか。
松本 まずは例規(文書取扱規程と財務規則)を改正し、①電子決裁の有効性、②証憑データの原本性、③電子決裁の及ぶ伝票の範囲、などを明記しました。その検討のために全庁的な連絡会議を立ち上げました。ここで問題提起されたのが、会計実地検査・現金出納検査等への対応です。22年1月以降に処理したものは、システム上で原本確認することを基本とし、検査会場が市役所以外の場合など、その場でシステムを利用できないケースに備え、印刷した紙を証拠書類として提出できるよう柔軟な対応としました。
阿美 また、電子決裁では請求書原本などの紙を電子化文書にする必要があります。これについては、LGWAN系ネットワークに接続された複合機のスキャナー機能を使ってデータ化し、共通フォルダに保存する運用としました。ただ、近くの複合機にスキャナー機能がない例もあり、作業の分散化を図るためスキャナーを要所に配備しました。その際にはデータ改ざん防止のため、国税庁告示を参考に解像度200dpi以上でカラー画像が読み取れることを要件としました。
小林 他には、職員がスムーズに電子決裁へ移行できるよう、従来の申請・承認の流れを極力再現するようにしました。ここで課題となったのが〈決裁ルートの設定〉でした。矢板市では、主幹はグループリーダーに位置付けられ、同じ課に複数の主幹が存在するなど単純な組織階層では再現が難しく、また導入後のメンテナンスも簡素化したいと考えました。そこで、システムに職員情報を登録する際には最低限の区分けとし、役割権限による合理的な決裁ルートを設定しました。さらにシステムでは歳出(歳入)科目ごとの決裁ルートを細かく設定できるため、電子決裁への移行を機に一般的な決裁ルートを作成し、決裁業務を自動化することで効率化も図りました。
──電子決裁の定着へ、さまざまな工夫を凝らしていますね。
松本 長年のやり方を変えるには、やはり全庁的な合意形成が不可欠です。そのため、各部署の意見を踏まえて課題を洗い出し、関係者が集まって検討した結果をQ&A集にまとめ、さらに会議で検討する──ことを繰り返しました。また、市長、副市長も参加する操作研修を実施しました。市長から運用の提案などもいただいたことで、操作方法の習得とともに、決裁権者の意識改革にもつながったと思います。その結果、いまや現場の職員から市長まで電子決裁を日常的に利用しています。
石川 また、LGWANを活用した自治体テレワーク推進実証実験で、実際に幹部職員が自宅から庁内の財務会計システムに接続し、電子決裁を行っていますが、全く問題ないですね。
新時代ひらく重要な一手
──活用の効果はいかがですか。
阿久津 第一が「ペーパーレス化」で、派生効果としてコスト削減が挙げられます。用紙代はもちろん、決裁のために庁内を歩き回るといったムダな時間・労力など人的コストの削減にもつながると期待しています。第二が、原本データの保管や管理、検索が容易になりました。これからは、残業して大量の資料を探すこともありません。
樋口 第三が、申請~承認の過程における〈ヒューマンエラー防止〉と〈時間短縮〉です。最終的には審査時間の短縮につながることも期待しています。
松本 将来に向けては電子請求書・電子帳簿保存法への対応や、保管したデータの財政分析での活用なども視野に入れています。ぜひ、この点でも公会計システムの強化拡充を期待します。
石川 いま、矢板市でもデジタル戦略を策定していますが、DX推進は単に新たな技術を導入したり、業務プロセスの一部をデジタル化することではありません。重要なのは、それによりBPRを進めること。この点、ペーパーレス化は仕事のやり方を抜本的に変える業務改革にほかならないと考えています。BPRは事業を限定してスモールスタートし、そこで見えた課題を改善しつつ全体に展開することが成功のコツです。財務会計事務の電子決裁化は、ファーストステップとしては少し難題かとも思いましたが、予想以上に上手く動き出すことができました。
自治体DX推進の先には、『デジタル田園都市国家構想』が目指す〈暮らしの変革〉〈知の変革〉〈産業の変革〉の実現が控えています。電子決裁への取り組みは、そうした新しい時代を切り開くための重要な一手となるのではないでしょうか。
掲載:『新風』2022年4月号