2022年1月号Vol.125

【座談会】“住民も行政ももっと便利”な未来へ自治体DXへ舵を切る!

埼玉県町村情報システム共同化推進協議会 会長/美里町長 原田信次 氏
埼玉県町村情報システム共同化推進協議会 副会長/川島町長 飯島和夫 氏
埼玉県町村会 情報システム共同化推進室長 本山政志 氏
本誌編集人/株式会社TKC 代表取締役専務執行役員 飛鷹 聡

いま、市区町村にはかつてないほど大きな変革が迫られている。
中でも重要な課題が〈基幹業務システムの標準化〉と〈ガバメントクラウドへの移行〉だ。
課題検証のため、デジタル庁は先行事業をスタートした。
この実証に、埼玉県町村情報システム共同化推進協議会を代表して
美里町と川島町も共同参画する。
埼玉県から、全国へ──先駆者としてDX推進へ取り組む思いを聞く。

原田信次(はらだ・しんじ)

原田信次(はらだ・しんじ)
1959年生まれ、東京農業大学農学部卒、81年美里町役場へ入庁、94年退職。民間会社勤務を経て、96年美里町議会議員に。08年から現職

飯島和夫(いいじま・かずお)

飯島和夫(いいじま・かずお)
1948年生まれ、東洋大学卒、66年埼玉県庁へ入庁、危機管理防災部長、産業労働部長など歴任、11年川島町副町長に就任。15年から現職

本山政志(もとやま・まさし)

本山政志(もとやま・まさし)
1976年、川口市役所へ入庁、納税課等を経て、水道課ではGIS事業、情報政策課では自治体EA事業、各種システムの構築・運用やセキュリティー対策等に携わる。18年から現職

飛鷹 市区町村におけるDX推進は、「地方自治体における業務プロセス・システムの標準化及びAI・ロボティクスの活用に関する研究会(スマート自治体研究会)」をきっかけに本格検討が始まり、新型コロナウイルスの感染拡大で一気に加速しました。2020年には『自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画』も策定され、全ての市区町村に対して足並みを揃えて「情報システムの標準化・共通化」や「行政手続きのオンライン化」などを実現することが求められています。
 埼玉県町村情報システム共同化推進協議会では、これまでも自治体クラウドをはじめ積極的にデジタル化を推進されてきました。最近の取り組み状況はいかがでしょうか。

原田 埼玉県町村情報システム共同化推進協議会は12年5月に設立され、現在、県内21町村が参加しています。13年10月からは基幹業務システムの共同利用を行ってきました。
 自治体DXの推進については、参加団体がそれぞれの実状に応じて取り組んでいるところで、協議会としても情報交換や共有などを進めています。

飯島 コロナ禍で、われわれも行政のデジタル化の遅れを痛感しました。
 昨今、人々の価値観や暮らし方が多様化し、行政に求めることの幅も広がっています。人口減少を背景に人手不足がますます深刻化する中、限られた人員で社会や地域の諸課題をいかに解決していくか。それにはデジタル技術やさまざまなデータの活用により、生産性向上を図るとともに、業務改善の実施が不可欠です。
 その結果、〈住民の利便性〉を向上し、業務の改善・効率化で浮いた人的資源を〈住民一人ひとりに寄り添ったサービスの強化〉につなげていく。そのために、組織の体質から変えたいと考えて、川島町では21年4月にDX推進室を新設しました。また、9月には『川島町DX推進計画』を策定し、現在、優先度の高いものから取り組みを進めているところです。
 一例が、「マイナンバーカード普及率UPキャンペーン」です。行政手続きのデジタル化に不可欠なマイナンバーカードの普及率向上と地域経済の回復を目的とするもので、カードを申請した方へ地域商品券を交付しています。今年度中に普及率50%を達成するという目標を立てていますが、すでにこれを上回る申込件数となっています。

飛鷹 美里町でも、カードの普及促進を積極的に進めていると伺いました。

原田 そうですね。美里町でもカードの普及促進と地域経済の活性化を目的として、23年3月末までの対象期間中にカードを取得した方と、すでに取得している方を対象に、地元で使える商品券「みさと元気チケット」を差し上げています。
 「自治体も変革を迫られている」という飯島町長のご指摘は、私もまったく同感です。住民のライフスタイルや価値観の多様化などの変化に加えて、今後はWithコロナにより新しい生活様式が急速に浸透していくでしょう。このように時代が大きく変化する中で、自治体も仕事のやり方や組織のあり方を積極的に変えていかなければ! 業務を効率化して、住民に向かい合う、社会や地域の課題をどう解決・軽減するかに知恵を絞る──そのための時間創出が急務と考えています。

DX推進の〝先鋒〟として
2町で先行事業に挑む

飛鷹 美里町と川島町は、デジタル庁の「ガバメントクラウド先行事業」に共同提案し、応募総数52件のうち採択された8グループの一つに選ばれました。公表結果を見ると、〈クラウド移行について、複数の方式を検討・試行し、費用、移行時間、品質、セキュリティ、作業負担等の観点から比較を行うことで、他団体が移行方法を検討する際のモデル〉となりうる提案内容であることが評価されたようです。
 計画では美里町が22年10月に、川島町が同年12月に、それぞれガバメントクラウド上で基幹業務システムの稼働を開始します。これは先行事業の採択団体の中で最も早いスケジュールです。当社も基幹業務システムの開発事業者として、〈最小限の職員負担で、安全・確実な移行方法、安定した運用の実現のための手法の確立〉に向けて協力してまいります。

本山 今回の共同提案については、国も大いに注目しているようです。
 私自身、以前は情報システムの担当職員として「地域情報プラットフォーム」へ取り組むなど、さまざまな先行事業を経験してきました。そうした施策でも標準化が進められてきましたが、残念ながらこれまでは広く普及するには至りませんでした。しかし、今回は違います。省庁横断で国・地方のデジタル化を担う「デジタル庁」を設置し、DXを強力に推し進めようとしています。実現には、住民に最も身近な行政を担う市区町村の役割が極めて重要です。全団体が足並みを揃えて取り組むためにも、システムの標準化は欠かせないテーマといえるでしょう。
 この点、先行事業に関われることを誇らしく思う一方で、絶対に失敗できないとも感じています。

飯島 DX推進の“先鋒”として皆さんの期待にしっかりと応えていきたいですね。いいものを創り上げ、その成果を全国の市区町村に広く活用していただくことを願っています。

原田 ぜひとも、成功させたいですね。

本山 同じ埼玉県内の町村でも、それぞれに自治体DX推進に対する考え方は異なります。協議会としては、原田会長、飯島副会長を中心にベクトルを合わせて、自治体クラウドグループとして“全国最先端のモデルケース”を目指したいですね。

飛鷹 当社にとっても、先行事業に協力させていただくのは非常に幸運なことと感謝しています。検証を通じてガバメントクラウドへの移行経験やノウハウを蓄積できるとともに、その成果をもって全国の市区町村のDX推進に貢献できる。これは当社社員のモチベーションアップにつながると確信しています。
 一方、職員の皆さんにとっては標準化により業務の流れや仕事のやり方が大きく変わることも想定され、この点でもしっかりサポートしてまいります。
 標準化は目的ではなく、あくまでも手段です。他にも喫緊の課題としてマイナンバーカードの普及促進や、行政手続きのオンライン化・デジタル化などがありますが、これらはデジタル社会の実現に必要な“基盤整備”であり、一体的な推進が不可欠です。当社は標準化を絶好の機会とし、フロント(申請受付)からバック(業務システム)まで一貫したデジタル化により“住民も行政ももっと便利”の実現を支援したいと考えています。

原田 現在、標準化の対象となっているのは17業務だけですが、実務面ではさまざまな業務システムが住民情報とデータ連携しています。われわれとしては、これらのデータ連携をいかに実現していくのかも気になるところです。また、DXが進むと利用するシステムやツールなどが多様化し、複数メーカーの製品を組み合わせていくことも考えられます。さらに、デジタル技術はこれからも進化し、職員だけでそうした変化に追従していくのは、ますます難しくなっていくことでしょう。
 そうした中で、TKCにはシステムの標準化対応やガバメントクラウドへの円滑な移行に加えて、さらに一段上の支援を期待しています。基幹業務システムと各種業務システムとのスムーズな連携は当然のこととして、他社製品も含めた多様な連携や、クラウド化による価値創出の提案など、まさにDX推進の“伴走者”として新たな共創関係を築けるといいですね。

飛鷹 ありがとうございます。当社としても、ぜひ、職員の皆さんと一緒に〈真のDX推進〉の実現に貢献していきたいと考えています。

成功の鍵は
職員の意識改革

本誌編集人 飛鷹 聡

本誌編集人 飛鷹 聡

飛鷹 DXで期待することや推進の課題について、いかがお考えでしょうか。

原田 いま、組織のトップとして重要課題の一つと考えているのが〈ガバナンスの維持・向上〉です。ご承知のとおり、地方公共団体の基本的な役割は住民の福祉増進を図ることです。その達成に向けて、行政サービスの提供など業務をいかに正しく効率的に遂行できるようにするか──これは自治体にとって不変のテーマでしょう。
 例えば、うっかりミスの防止という点ではダブルチェックの徹底が有効ですが、それを行うのが人間である以上、ミスが発生する可能性をゼロにすることはできません。この点、システムの標準化によって事務処理が統一化されることで、業務の効率化や適正な執行にもつながっていくのではないか、と期待しています。
 また、新型コロナによって、多くの職員が「デジタル改革が大事だ」という共通認識を持ったと思います。ただ、大切なのは「それで何をするのか」です。DXは、従来のIT化とは意味合いが全く異なり、〈デジタルを活用して新たな付加価値を生み出すこと〉です。そのためにも、職員は広い視野を持つことが必要でしょう。
 そうしたスキルの育成には、協議会などを通じて多くの人と交流し、他団体や民間企業などの取り組みに接する中で、知見を深め、それを実現していくのが近道かなと考えています。黒船来航で日本人の意識が大きく変わったように、外部からいろいろな影響を受けることで、職員に気付きが生まれ、行動につながることを期待しています。

飯島 私も同感です。DXの成功には、職員の意識改革が欠かせませんね。
 川島町がDX推進で目指すのは、①「いつでも・どこでも」利用可能な暮らしの利便性向上、②ICTを活用した行政手続きの効率化、③ICTを活用した社会課題の解決・新たな価値の創造──です。そのためには、これまでのやり方にこだわるのではなく、新しい時代に向かって職員が意識を変え、柔軟かつ能動的に行動することが重要です。そうした組織文化を醸成したいと考えDX推進室もつくりました。
 その点では、システムの標準化も行政体を変えていくための取り組みの一つと捉えています。いま町村は全国に926団体あります。それぞれ抱えている課題が異なり、悩みや考えもいろいろですが、停滞は許されません。デジタルを梃子(て こ)に自治体自身も変わっていかなければ! 今回の先行事業への取り組みを通じて、原田町長とともに埼玉県から全国へ「みんなで変わっていこう」と、メッセージを発信していきたいですね。

本山 おっしゃるとおりですね。標準化対応や行政手続きのオンライン化など、DX推進で「やっかいな仕事が増えるな」と思っている職員もいることでしょう。しかし、これらはゴールではありません。その先どうするのか、が重要なのです。意識改革により困難を乗り越え、未来への跳躍につなげてくれることを切に願います。

真のDX実現へ
困難の中でも跳躍を

飛鷹 市区町村の皆さんにとって、システムの標準化は法制化され期限内にやらなければいけない義務です。これについては、当社も基幹業務システムを提供する事業者の責務として、しっかりご支援させていただきます。
 そのため、21年11月1日付で自治体DX推進本部を新設しました。ここで標準化への円滑な対応を支援するとともに、“真の自治体DX”実現へ、お客さまと一緒に新サービス創出に向けた研究・開発にも取り組む考えです。

飯島 今後の活躍を大いに期待しています。川島町でもマイナンバーカードの普及促進に加え、今後は手続きのオンライン化やICTを活用した災害対策などにより、住民サービスの一層の向上へ取り組みます。加えて、業務改善や効率化により、さまざまな変化に対応していきたいと考えています。
 繰り返しになりますが、われわれが目指すのは〈よりよいまちづくりや住民の利便性の向上〉であり、TKCにもその実現へぜひ力を尽くしていただきたいと思います。

原田 自治体DXの実現には、まだまだ課題山積です。特に行政サービスの質の向上という点ではデータの利活用が重要で、そのためにシステムやアプリケーションの垣根を越えてどのようにデータ連携を実現させていくか…。データ連携には多くのメリットがある反面、留意点も多く、ぜひITの専門家として一緒に取り組んでいただくことを期待しています。

本山 自治体にとっても、TKCさんをはじめ基幹業務システムの提供事業者にとっても、ここが正念場ですね。ぜひTKCさんには視野を広げてもらい、行政経営の全般を見据えて積極的に取り組んでいただきたい。

飛鷹 事業目的に〈行政効率向上〉と〈住民福祉増進〉を掲げる当社にとって、あらためて企業としての真価が問われていると感じています。「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」の実現へ、職員の皆さんとともに挑戦し続けてまいりますので、今後ともよろしくお願いいたします。

写真左2人目から、原田町長、飯島町長、本山室長

写真左2人目から、原田町長、飯島町長、本山室長



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