2022年1月号Vol.125
【デジタル・ガバメント ここがポイント!!】自治体のDX推進計画
株式会社TKC 自治体DX推進担当部長 松下邦彦
総務省は『自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画』に続いて、2021年7月に『自治体DX推進手順書』を公表しました。自治体がDXを推進すること──すなわち、デジタル技術によって業務を改革し、行政サービス向上と業務効率向上を推進することは喫緊の課題となっています。
『自治体DX推進手順書』の一部をなす『自治体DX全体手順書』では、DX推進の手順として以下を掲げています。
ステップ0 ▼ DXの認識共有・気運醸成
ステップ1 ▼ 全体方針の決定
ステップ2 ▼ 推進体制の整備
ステップ3 ▼ DXの取り組みの実行
ステップ1では〈ビジョンと工程表で構成される「全体方針」を決定・広く共有〉とあります。これはDX推進計画を策定してオーソライズすることにほかなりません。本稿では、自治体がDX推進計画を策定するにあたって留意するポイントを解説します。なお、DX推進計画は、情報技術を行政で活用するという点において従来の情報化推進計画等を継承するものになります。
総合計画との連携
自治体の基本的な運営方針は、一般に総合計画として策定されます。DXの推進は重要な施策であり、総合計画に記載する必要があります。推進手順のステップ0では〈首長や幹部職員によるリーダーシップや強いコミットメント〉を求めています。強いコミットメントは総合計画に記載されることによって自治体の内外に周知されます。
また、DX推進計画に記載する施策は、総合計画に記載された政策や施策と関連付ける必要があります。DX推進計画は、総合計画に記載された政策や施策をデジタル技術によって実現するための実施計画に位置付けられるからです。総合計画の政策や施策と関連付けておくことは、DX施策を実施する上での裏付けや根拠ともなります。
総合計画に記載された施策の中には、最初からDXを前提としたものもあれば、そうでないものもあるでしょう。情報部門は、総合計画の施策の中でデジタル技術が活用できるものについて担当部門を支援することが求められます。全庁的にDXを推進するには人材の確保や体制強化も必要であり、これは首長や幹部職員のコミットメントがなければ実現できません。
なお、総合計画は5年または3年程度の期間にわたることが一般的です。DX推進計画の策定とタイミングが合わない場合は、重要な政策として総合計画を改定する必要があるでしょう。
自治体DXの施策
DX推進計画では、何を、いつまでに、誰が実施するかを記載し、工程表にまとめます。
国は、自治体DXについて六つの重点取組事項を定めています。
❶自治体の情報システムの標準化・共通化
❷マイナンバーカードの普及促進
❸行政手続のオンライン化
❹AI・RPAの利用推進
❺テレワークの推進
❻セキュリティ対策の徹底
この中で❶は法律で義務とされており、❷と❻はDXを推進するにあたっての前提事項です。残る❸❹❺の他にも、DXで推進する施策にはさまざまなものがあります。自治体DXで目指す業務効率の向上と住民サービスの向上のどちらに関わるかに留意しながら、施策の例を掲げます。
◯行政手続きのデジタル化
手続きをデジタル化して住民サービスを向上するには、重点項目にある〈行政手続のオンライン化〉だけでなく、庁内窓口のデジタル化も併せて推進する必要があります。手続きをオンライン化しても、情報機器の操作に不慣れな住民は来庁して窓口で手続きすることになります。また、転入やマイナンバーカードの記載事項変更のように、窓口に来庁しなければ手続きできないものもあります。
◯デジタル技術を活用した業務改善
ICTツールを導入して主として業務効率の向上を図る施策です。重点項目の〈AI・RPAの利用促進〉もこれに含まれます。ICTツールは新しい技術に限りません。従来から一部の自治体で導入している文書管理や電子決裁といった内部管理系のシステムも、未導入の場合は検討に値するでしょう。
また、ノーコード/ローコードツールを導入すれば、現場職員が業務で必要とするアプリケーションを容易に作成できます。ただし、RPAのシナリオと同様に、作成したアプリケーションを継続して利用するには、組織として運用し維持する仕組みが必要です。
◯データ分析・活用
住民サービスを向上するには、データを分析してより効果的な施策を立案するEBPM(証拠に基づく政策形成)が求められます。介護予防のような特定分野での活用事例もあれば、基幹システムの情報をプライバシー保護に留意しながら分析するための基盤を構築した事例もあります。
◯地域課題の解決
住民サービスの向上については、住民一人一人にサービスを届けるだけでなく、デジタル技術を活用して地域全体の課題を解決するアプローチもあります。地域が抱える課題は多岐にわたるため、防災、防犯、地域振興、コミュティ交通等のさまざまな事例があります。これは総合計画における各部門の施策と密接に関連するDX施策です。
◯その他
業務効率の向上に寄与する施策として、電子契約や電子請求書の実現が近い将来に見込まれます。とくに電子請求書については、消費税のインボイス(適格請求書)制度開始に伴って民間企業での導入が進展すると予想されるため、それに応じて自治体でも導入が求められるでしょう。自治体だけでなく、自治体と取り引きする民間企業の事務効率向上にもつながります。
◇ ◇ ◇
自治体DXでは、まず法律に定められた義務としてシステムの標準化を実施しなければなりません。このためには、業務フローの見直しや外字の同定などさまざまな作業が必要となります。これは基本的には自治体内部のコスト削減をもたらすものであり、全国の自治体が横並びで実施するものです。
自治体DXを推進するにあたっては横並びを目指すだけでなく、自治体の状況や課題に応じて住民サービスの向上を目指すべきです。政府は「デジタル田園都市構想」を打ち出して検討に着手しました。今後、デジタルによって自治体の活性化を図る動きがますます強まります。当社はお客さまのシステム標準化をご支援するとともに、自治体がDXを推進するためのサービスを検討し提供してまいります。
掲載:『新風』2022年1月号