2021年1月号Vol.121
【デジタル・ガバメント ここがポイント!!】デジタル化の真価を発揮させるワンスオンリー原則
株式会社TKC 地方公共団体事業部 システム企画本部 部長 松下邦彦
「ワンスオンリー」は、デジタル手続法に定められた行政手続きデジタル化3原則の一つです。
1.デジタルファースト
個々の手続き・サービスが一貫してデジタルで完結する
2.ワンスオンリー
一度提出した情報は、二度提出することを不要とする
3.コネクテッドワンストップ
民間サービスを含め、複数の手続き・サービスをワンストップで実現する
3原則の中で、ワンスオンリーは得られるメリットがささやかに見えます。実は、このワンスオンリーこそが、行政手続きのデジタル化において、オンライン申請の使い勝手や自治体の業務効率を決する重要なものなのです。
ワンスオンリーで実現されるもの
「一度提出した情報は、二度提出することを不要とする」というワンスオンリー原則には、大小二つのレベルがあります。
一つ目の小さなレベルは、行政機関の窓口におけるワンスオンリーです。
例えば、転入の場面を考えてみましょう。転入では、転入届だけでなく国民健康保険、児童手当、医療費助成といった手続きが必要となり、手続きごとに申請書を作成する必要があります。そのとき、住所、氏名、生年月日といった情報は、申請書ごとに何度も記入しなければなりません。こうした情報を一度入力すれば、複数の申請書に自動的に転記されることが窓口におけるワンスオンリーといえます。これは、すでにさまざまな窓口業務支援システムで実現されています。
二つ目の大きなレベルは、個別自治体の窓口だけでなく、全ての行政機関を対象とします。この大きなレベルこそがワンスオンリー原則が本来目指すものです。
「行政機関に一度提出した情報」は、行政機関の基幹系システムが保有しています。例えば転入であれば、氏名・住所・生年月日といった情報は基幹系システムにあり、本人が確認できればそもそも入力する必要がありません。また、世帯員、収入、国保の資格等の情報もすべて基幹系システムが保有しています。さらに、番号制度で構築された情報提供ネットワークシステムの情報連携によって、他の行政機関が保有する情報を取得することも可能です。このように行政機関が保有する情報を活用すれば、オンライン申請で入力する項目を減らすことができます。
申請における入力が不要になるメリットは、住民が便利になるだけではありません。申請データを確認する作業も不要となり、自治体職員の業務効率を向上することが可能となります。このように、住民サービスの観点でも、業務効率向上の観点でも、行政手続きのデジタル化によるメリットを十全に発揮させるには、ワンスオンリー原則が不可欠なのです。
実現の課題
ところが、基幹系システムの情報をオンライン申請で活用するにはいくつかの課題があります。まず、自治体の情報セキュリティー対策です。ネットワーク強靭化によってインターネットとマイナンバー利用事務系ネットワークは分離されています。
本号14~15ページに、「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン改定のポイント」の記事が掲載されています。また、2020年12月にガイドライン改定案に対する意見が募集されました。改定案には、インターネットからマイナンバー利用事務系へのデータ移送は「国等の公的機関が構築したシステムなど、十分に安全性が確保された外部接続先(例、eLATX、ぴったりサービス)に限る」こと、および「片方向」とすることが明記されています。したがって、改訂後のガイドラインでも、基幹系システムの情報をインターネット上のオンライン申請システムに提供することはできません。
次に、マイナポータルです。マイナポータルには中間サーバーの情報を本人が取得する自己情報表示という機能が備えられており、外部のシステムからこれを利用するAPIも用意されています。これを使えば、基幹系システムから中間サーバーに登録された情報を、本人の同意によってインターネット上のオンライン申請システムで利用することが可能です。
ところが、この自己情報機能には大きな制約があります。まず、基本的に取得できるのは本人に関わる情報だけであり、世帯員に関わる情報は取得できません。また、中間サーバーには世帯員の情報がなく、世帯員が誰であるかを検索できません。さらに、中間サーバーには、氏名・住所・生年月日・性別という基本4情報がありません。こうした制約によって、現時点のマイナポータルでワンスオンリー原則を実現することは不可能です。
今後の見通し
ワンスオンリー原則を実現することは国も重要な課題と捉えており、本稿執筆時点でデジタル・ガバメント閣僚会議のワーキンググループやタスクフォースでワンスオンリーを実現する仕組みの検討が進められています。
「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」では将来像として〈公共サービスメッシュ〉が提示されています。公共サービスメッシュには国や自治体のシステム、戸籍・住基、〈民間タッチポイント〉等が接続され、民間タッチポイントにおいて行政機関が保有する情報を活用してワンスオンリーを実現することが想定されています。
一方、「データ戦略タスクフォース」では〈ベースレジストリ〉の構築が検討されています。これは、「公的機関等で登録・公開され、さまざまな場面で参照される、人、法人、土地、建物、資格等の社会の基本データであり、正確性や再申請が確保された社会の基盤となるデータベース」と定義されています。ベースレジストリが必要になる背景として、まさしく「行政手続でのワンスオンリーの実現」が明記されています。
こうした検討資料を見る限り、ワンスオンリーを実現する仕組み、すなわち、基幹系システムの情報をインターネット上のオンライン申請システムに提供する仕組みは、自治体個別ではなく、国が一括して整備する模様です。
当社は、総合的なオンライン申請システムとして「TASKクラウドスマート申請システム」を提供しています。業務システムを手掛ける事業者としての強みを生かし、ワンスオンリーによって住民が使いやすくなり、また、自治体の業務効率が向上するという、行政手続きデジタル化の真価を発揮させるべく機能を強化してまいります。
掲載:『新風』2021年1月号