TKC法律事務所実務セミナー2016
最新判例から学ぶメンタルヘルス問題と対応策
開催のご報告
平成28年4月15日(金)、4月26日(火)の計2回、加茂法律事務所代表の加茂 善仁(かも よしひと)先生を講師にお招きし、「メンタルヘルス問題と対応策」をテーマとしたTKC法律事務所実務セミナーを開催しました。
加茂先生は、経営法曹会議常任理事等をお務めになられ、また多くの人事労務事案を担当し第一線でご活躍されている著名な弁護士です。近年増加しているメンタルヘルス問題に対する実務上の対応策を、加茂先生の豊富な経験を交えながら、最新事例と判例を基にご講演いただきました。
メンタルヘルス起因の休職・休業をめぐる問題と対応
~解雇か休職発令か~

メンタルヘルス不調者への対応として、初めに問題となるのが解雇か休職発令かというところです。
就業規則にて傷病休職制度を設けているにも関わらず、いきなり解雇をした場合には、解雇権濫用の法理(労働契約法16条)により、解雇は無効となる可能性が高いです。
休職期間中に回復の見込みがないような場合には休職発令を経ないで解雇をすることも可能ではありますが(岡田運送事件・東京地判平14.4.24)、将来回復の見込みがないことについて専門家の判断が必要となることが多いため、実務上は、まずは休職を発令し休職期間満了時に復職の可否を判断することが適当であると考えます。
なお、休職発令の要件は、就業規則の定め如何によるため、発令の要件を見極める必要があります。
また、メンタルヘルス不調者も懲戒処分の対象になりますが、懲戒処分は制裁罰の性質を有するため、精神疾患によって責任能力がない場合には懲戒処分を課すことはできません(大分県警察本部事件・大分地判平8.6.3)。また、事情によっては懲戒権の濫用だと判断されることもあります(日本ヒューレットパッカード事件・最判平24.4.27)。
復職・再休職と退職・解雇等の処遇をめぐる問題と対応
~メンタルヘルス不調者の復職の判断~
【サブテキスト】
「最新判例から学ぶ メンタルヘルス問題とその対応策Q&A」
(労働開発研究会・定価1,600円+税)
私傷病により休職していた労働者が復職するためには当該傷病から「治癒」したことが必要ですが、治癒の判断については当該労働者の職種・職務内容が特定されている場合とそうでない場合で判断基準が異なります。
職種・職務が特定されている場合は、原則として従前の業務を通常通りなしうることが判断基準となります(昭和電工事件・千葉地判昭60.5.31 等)。
職種・職務が特定されていない場合には、従前の職務を基準とするか、他の軽易な業務を視野に入れて検討すべきかが問題となりますが、復職に際して配置可能な他の職種の有無の判断は「労働契約で予定されている職種」についての遂行可能性を検討すべきだと考えます(西濃シェンカー事件・東京地判平22.3.18 等)。
また、復職の判断については医師の診断が重要な意味を持ちます。当該労働者に対する主治医と産業医の関与(理解)の程度を見たうえでいずれの意見を採用するかを決定して、復職の可否を判断すべきであります。
なお、復職後まもなく再発したような場合も、就業規則の定めや疾病の治癒への配慮等をした上で休職の継続や再度の休職発令を検討すべきであり、解雇については慎重に判断しなくてはなりません。
参加者の声
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最近メンタルヘルス関係の相談が多いので参考になりました。
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依頼者から日常的に受ける相談事例に対するアドバイスをするにあたって、非常にヒントとなるものが多い講演でした。
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会社の法務担当として、社員のメンタルヘルス問題には大変興味があり、勉強になりました。
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事例に基づき、判例や規定も踏まえた講演で、とても分かりやすかったです。
- 具体例をたくさん説明いただき、実務を行うにあたり非常に有用でした。
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メンタルヘルスを切り口に労働法、判例の現在が分かりました。