事務所経営

職員と一体で全関与先に自計化推進 黒字割合6割以上を目指す

【成長する事務所の経営戦略・事務所承継編】
税理士法人やちよ経営山﨑事務所 山﨑賢治会員(TKC関東信越会)
山﨑賢治会員

山﨑賢治会員

平成24年に33歳で親族外承継した山﨑賢治会員。承継後に自計化・巡回監査体制の事務所構築を決意し、職員と一体となって自計化を推進し、5年でほぼ移行を完了。黒字化支援に力を入れられるようになり、金融機関からの評価も向上したという。自計化推進のポイントや効果について語ってもらった。

入所3年目に急遽親族外承継することにTKCの先輩・仲間が支えてくれた

 ──山﨑先生は、監査法人に勤務されていたご経験がおありと伺いました。税理士登録された経緯について教えてください。

 山﨑 大学卒業後に公認会計士試験の第2次試験に合格し、監査法人に入社して、8年ほど上場企業等の監査業務に従事していました。
 税理士登録したきっかけは、妻の実家が群馬県にあり、1人で税理士事務所を経営していた義父から「こちらに来て事務所を手伝ってくれないか」と誘われたことでした。それで平成21年に監査法人を退職して群馬に腰を据えようと思って来たのですが、義父から「税務の経験を積むために、少し大きな事務所で修業をさせてもらいなさい」と言われまして。それで、義父が親しくさせてもらっていたTKC会員の関口要一先生の事務所で修業させていただくことになりました。入所後に税理士登録をして、Ⅲ型会員としてTKCへ入会しました。
 関口先生は、当時年齢が80歳代半ばでご高齢でしたが、非常にお元気で、税理士・所長として第一線で働いておられました。大変苦労をされて税理士になられた方で、経営者の身近で最善のパートナーとなることを目指されており、私たちによく、「常にお客さまのために考え行動しなさい」とおっしゃっていました。その言葉は、今も事務所の理念として私も職員に常に言っています。

 ──平成24年に事務所を承継されていらっしゃいます。

 山﨑 入所3年目のある日、関口先生がお亡くなりになったとの連絡がありました。その日、私は税理士会の旅行で東京に出かけていました。関口先生とはその前日に事務所でお会いし、「私も明日は昔の友人と温泉に行ってくるから」などと会話をしていましたので、本当に信じられませんでした。
 当時、私はまだ一職員、一監査担当者でした。職員は私を含め5名いましたが、年齢も私が一番年下の33歳で、他の方は30歳代から70歳代のベテランの方まで幅広かったですね。会計事務所勤務の経験もまだ浅かったのですが、先生のご親族や職員に税理士資格を持っている方はおらず、先生の親族の方から、「山﨑先生に事務所をお任せしたい」と言っていただき、山﨑賢治税理士事務所としてスタートすることになりました。けれども突然のことでしたので、事務所の経営状況も分からず、今後事務所をどうしていけばいいんだろうと本当に悩みました。
 ただ、今あらためて承継当時を振り返ってみると、確かに苦労もありましたが、職員とお客さまのために事務所を継続・発展させるという使命感を持って必死で取り組んでいましたね。TKCの先輩会員や仲間、群馬SCGサービスセンターの皆さんにも相談に乗っていただき、教わったことを素直に実践してきたことで乗り越えられたことが多くありました。

 ──事務所承継後の経営について教えてください。

 山﨑 承継後は、FX2を中心とした自計化推進事務所を目指すことから始めました。担当のSCGさんに、「今後何から手をつければいいのか……」と話をしたときに、「まずは『TKC方式の自計化』に取り組まれるといいですよ」と助言をもらったのがきっかけの一つです。
 実は、Ⅲ型会員としてTKCに入会したときからTKC主催の研修によく参加していましたので、自計化や継続MAS、書面添付の取り組みについては知ってはいたものの、事務所全体で取り組むまでには至っていなかったのが事実です。ですが、事務所を承継してこれから自分が所長として事務所経営をする上で、「本当にお客さまの方向を向いた仕事とは何か」を考えたときに、やはり自計化に取り組むことが必要不可欠だと思いました。そして、事務所の中で年齢の近い職員に話をしてみました。彼らは非常に前向きで、「一緒に取り組みましょう」と言ってくれました。その言葉が決断の最後の一押しになりましたね。

自計化を「まず1件やってみよう」で始めメリットを実感した職員が旗振り役に

 ──自計化推進への具体的な取り組みについて教えていただけますか。

 山﨑 どうやって自計化を進めていくか、その方法を考えていたときに、研修会などで先輩会員が言われていた「まず1件やってみよう」の言葉を思い出しました。そして、お客さまの中で唯一、三枚複写伝票を手書きで作成していた関与先に自計化を提案しました。その会社では社長の奥さまが経理を担当されていて、仕訳をご自身で切れる方でしたので、自計化のメリットを詳しく説明するとすぐに同意していただけました。
 そこからは私たちも初めてのFX2導入だったので、事前準備やお客さまへの初期指導など覚えることが多くて四苦八苦していましたが(笑)、導入後は奥さまがパソコンに慣れていたこともあり、想定していたよりも順調にFX2への切り替えができました。「まず1件やってみよう」の言葉は本当だなと実感しましたね。
 この時のFX2導入の成功体験は事務所に大きな影響を与えました。これ以降、職員の自計化推進に火が点いたように思います。
 というのも、自計化すると、数字のチェックや資料集め・返却などの単なる「作業」の時間が大幅に短縮することが実感できたからです。月次巡回監査の現場でも、仕訳の入力内容やFX2で計算された数字のチェックが1~2時間で終わるので、そのあと社長や経理担当者と話をする時間に充てられるようになりました。作業時間が減ってやりがいのある仕事ができるようになった一方で、残業は少なくなりました。ですから自計化を経験した職員は、「自計化は良いこと尽くめ。絶対に推進しないとダメ!」と、事務所全体で自計化推進するよう、自らが旗振り役を買って出てくれました。

 ──職員さんが主体となって自計化を推進されたのですね。所内での具体的な取り組みをお聞かせください。

 山﨑 毎月1回、3時間の所内勉強会をスタートし、その中で進捗会議を行うようにしました。この会議では、お客さまのリストを見ながら、一人ひとりの職員から担当先の進捗状況とともに抱えている悩みなどを話してもらいました。続けているうちに、ある職員の悩みに対して、別の職員が自分の経験をもとに解決策を提示するといった光景が見られるようになりました。所内で成功体験やノウハウが共有されるとともに、自計化推進に向けた事務所の一体感も、その頃から出てきたように思います。
 所内勉強会の場では、SCGさんに講師となってもらい、TKCシステムの使い方や自計化導入の方法などを講義してもらいました。自計化・巡回監査体制が軌道に乗るまで根気強く丁寧に教えていただき、本当に感謝しています。
 そのほか、職員にはTKCが主催する研修会に積極的に参加してもらうようにしていました。

経営に前向きな経営者が増え金融機関の事務所評価も向上

 ──最初の導入後、他のお客さまへはどのような提案をされたのでしょうか。

 山﨑 関与先との関係性がしっかりできていて、お願いをしやすいお客さまから決算のタイミングで提案したというのが正直なところです。最初は、「事務所が楽をしたいだけじゃないの」「うちには経理担当者はいないよ」などと断られることも少なくなかったですが、経営者が自社の数字を把握することの大切さや経理業務の効率化ができることを何度も説明して、少しずつ同意を得ていきました。
 また、最初からFX2で全ての入力をお客さまへお願いするのではなく、まず、できるところから入力してもらいました。例えば、お客さまの多くは、現金出納帳をご自身で手書きしていましたので、まず現金取引が多く、現金出納帳を書くのが大変なお客さまから提案しました。すると業務時間のスピードや計算の正確さという点で、「手書きよりもFX2は楽だね」と言ってくれる。現金出納帳が慣れてきてうまくいくと、「次は預金出納帳も入力しましょう」という具合に徐々にその範囲を広げるようなかたちで進めていきました。
 その後は徐々に増えて、3年目に5割を超え、5年目を過ぎた頃に9割近くになりました。現在、新規のお客さまは自計化を前提に契約しています。

 ──自計化推進後、どのような変化を感じていらっしゃいますか。

事務所外観

2019年9月に新築・移転した事務所。
JR両毛線「新前橋駅」から車で20分の閑静な住宅街にある。

 山﨑 経営に前向きに取り組む経営者が増えたと思います。自分の会社で入力して出てきた数字を見ると、社長さんに当事者意識が芽生えます。そこで月次巡回監査のときに、私たちの方から数字の説明をしたあと、社長さんに「次に何をやりますか」とお聞きすると、気づいたことやアイデアを私たちに話したくなるのですね。だから私たちの訪問を喜んでくれるようになりました。この点が大きな変化です。職員も、お客さまが一生懸命に数字を基にした経営改善に取り組み、業績が改善していく姿を目の当たりにして、自分たちの仕事に誇りとやりがいを感じてくれていると思います。
 一番変化を感じたのが、金融機関との関係です。以前は、金融機関から試算表提出を求められても、提出できるのは数カ月後だったので、それほどお付き合いもなかったのですが、自計化推進後は、金融機関の求めがあれば、翌月には試算表を出せるようになりました。ある時、金融機関の担当者から、「先生の事務所は対応が早いですね」と言われました。そこでFX2をお見せして、試算表だけでなくPLや仕訳もいつでも確認できることを説明しました。すると、「この仕組みを他のお客さまにも取り入れてほしい」と大変評価していただき、おかげさまでご紹介もいただけるようになりました。

黒字割合6割以上の実現とDX対応でお客さまの永続的な発展を支援したい

 ──今後の抱負をお聞かせください。

 山﨑 事務所が力を入れていることが二つあります。一つはお客さまの黒字化支援です。自計化後は、社長さんから目標を伺い、継続MASで予算を作成し、FX2に登録することとしました。そして、月次巡回監査においてFX2で予算と実績とを比較し、社長さんと次の打ち手を考える──ということを繰り返しながら少しずつ業績を改善していきました。新型コロナの影響を受ける前までは、全関与先の黒字割合は約6割でした。最近は新規のお客さまが増えたこともあって黒字割合は少し下がっていますので、早く全関与先で継続MASを活用して、黒字化支援を徹底していきたいと思います。
 もう一つはDX(デジタルトランスフォーメーション)への対応です。私は、DXを「自計化のさらなる進化」と思っているのですが、FinTechやAIなどを活用した新しいTKCシステムを積極的に導入したい。そして、入力の省力化やミスの軽減を図ることで、お客さまの自計化にかかる負担をより一層軽くさせていきたいと考えています。
 これからも、先代の教えを受け継ぎ、職員とともに、お客さまのために常に考え行動することを通じて、お客さまの永続的な発展を支援していきます。

(取材日:令和3年7月1日)


山﨑賢治(やまざき・けんじ)会員
税理士法人やちよ経営山﨑事務所
 群馬県前橋市下小出町1-30-4

(TKC出版 石原 学)

(会報『TKC』令和3年9月号より転載)