事務所経営
OMSを活用したチームワーク経営でサービス標準化と業務効率化を推進!
【OMS活用編】大城税理士事務所 大城逸子会員(TKC九州会)
大城逸子会員
長時間労働が当たり前で職員が3年ほどで辞めてしまう事務所から、職員が長く働けて自主性を伸ばせる事務所へ転換を図っていった大城逸子会員。OMSを活用した業務効率化や所内委員会制度など、改善の取り組みを紹介する。
「長時間労働が当たり前」という業界の常識を変えていきたい!
──大城先生の事務所は、もともと長時間労働、残業が当たり前だったとお聞きしています。どのようなきっかけで改革に取り組まれたのですか。
大城会員と職員の皆さん
大城 私は26歳の時に故郷の沖縄で開業したのですが、事務所経営のお手本が東京で修業した事務所だけでした。その事務所では「仕事さえきちんとしていれば好きな時間に出退社していいし、早く終わらせようが時間をかけようが本人次第」という方針だったので、私もそれが当たり前だと思い、職員を雇ってから同じようにしていたのです。
当然、職員の残業時間は増える一方で、入所3年もするとみんな疲れて辞めてしまっていました。そして開業10年目の年には巡回監査担当者が同時期に退職し、1人もいなくなったのです。すぐに新人を3人雇ったのですが、全員業界未経験者だったので約30件の関与先すべての巡回監査に私が同行することになり、3カ月もすると疲れ果ててしまいました。
それで「税理士事務所は職員が財産。長時間労働が当たり前という業界の常識を変えて、職員が働きやすい事務所を作ろう!」と決意し、改革に取り組んだのです。
──具体的には、どんなことから始めたのですか。
大城 まず経験の浅い職員でも1人で巡回監査をしてもらうにはどうすればいいか考えた結果「巡回監査支援システム」の活用という結論に至りました。とにかく「巡回監査に行ったら、巡回監査支援システムのこの項目の通りにチェックしてきてください」と指示をしたのです。幸い、全員未経験者でTKCシステムを触るのが初めてだったため、特に抵抗もなく素直に実行してくれました。
その結果、確かに私自身の負担は減ったのですが、巡回監査報告書の提出が遅れがちになったり、巡回監査の内容をお客さまにきちんと報告できておらずクレームがきたりするなど、まだまだ課題はありました。そこで、ある九州会の先輩会員のやり方を真似したのです。それは①お客さまを訪問して月次決算のデータを伝送し、②関与先向けの『監査通知書』にお客さまのサインをいただき、③それを巡回監査報告書とセットで所長に提出する──ここまでして「巡回監査1件終了」とカウントするというもので、このルールを取り入れてから巡回監査報告書の書き忘れなどがなくなりました。
また、税務・会計以外の、巡回監査報告書に書くほどではないけれども気になったこと、例えば「社長の奥さまの元気がなかった」「社員の雰囲気が悪かった」など、気付いたことは業務日報で報告してもらっています。提出日の翌日の朝礼までには私が目を通すようにしているので、もし必要があれば、朝礼の後に詳しく話を聞いたり、私から社長に電話を入れたりするなどしています。
関与先拡大と残業時間減少を目標にOMSを使って個々人の業務時間を分析
──巡回監査支援システムはTKC自計化システムと連動していますが、当時自計化は進んでいたのですか。
大城 数件のお客さまにFX2を導入していましたが、それ以外は「この会社は業績があまり良くないから難しいだろう」と勝手に判断し、当初は安価な他社の市販会計ソフトを勧めていました。
ところが職員はみんな巡回監査支援システムを使っているので、他社ソフトだと巡回監査報告書への自動読み込みができず、別途報告書を書くことになります。「FX2の方が便利だし、継続MASとも連動しているので仕事がしやすい」という意見ばかりだったので、それから積極的にTKC自計化システムを勧めるようになりました。
普通はまずFX2を導入して、それから巡回監査支援システムを使う流れかもしれませんが、当事務所の場合は逆に巡回監査支援システムを使うために、FX2を入れるという感覚でしたね。
──自計化の次に取り組んだことは。
大城 ある職員が退職するとき「仕事はやりがいがあるけど、毎日長時間労働で長く続けるのは難しい」と言われたことがずっと心に残っていて、「残業を減らして給料も上げ、職員が働きやすい事務所に変えよう」と決心し、そのために事務所の体制を根本的に見直すことにしました。
そもそも職員の給料を増やすには、関与先を拡大して売り上げと利益を増やさないといけません。しかし長時間労働では職員が定着しない。つまり関与先を増やすけれども残業を減らすという相反する難題を解決する必要があるわけです。
そこで、まず職員たちがどんな仕事にどのくらいの時間をかけているのかを把握するため「OMS(税理士事務所オフィス・マネジメント・システム)」の業務日報(DRS)を必ず書いてもらうことから始めました。それまでも業務日報を書くように指示はしていたのですが、職員も忙しいと後回しにして何日分もためてしまい、それに対して私も厳しく指摘していなかったんです。
そこで業務日報の記載を義務化し、データがたまってきた1年後にOMSの時間管理システム(TMS)で分析した結果、予想外の事実が分かりました。事務所で一番残業が少ない職員が一番多くの業務をこなしており、逆に残業時間が多い職員ほど実際の処理件数が少ないなど、残業時間と事務所への貢献度は関係ないことがはっきりしたのです。それまで、昇給や賞与は「この職員はいつも夜遅くまで頑張っているな」などあいまいな基準で評価していたので、全職員に「今後は、残業をしないで仕事をたくさんこなせる人を最も評価します」と伝え、業務時間短縮に取り組みました。
仕事が早い職員を手本に時短に取り組み改善のノウハウを全員で共有した
──具体的に教えていただけますか。
大城 まずTMSによる分析結果に基づき、残業が一番少ない職員をモデルにして、他の職員と比較してみたのです。例えばある職員が決算業務に時間がかかっているのであれば、決算業務が早い職員のやり方を聞いてマネをさせる。あるいは巡回監査に時間がかかっているなら、巡回監査が早い職員に同行させて、どこで時間かかっているかチェックしてもらうといった方法です。
大事なのは、そうした情報を所内で共有すること。改善内容は必ず所内会議で発表してもらうので、指摘された職員以外も「そうすればよかったんだ」と自分で気付き、改善できるからです。
もう一つが「上限残業時間の設定」です。雇用形態によって異なりますが、巡回監査担当者は基本的に月の残業時間を最高40時間としています。もし超過した場合は、事務所内の「業務改善委員会」から私に報告があり、さらに委員が時間管理システムを使って時間がかかっている業務を分析し、残業を減らすアドバイスをしています。
最後が業務日報です。当事務所では、日報に記載する業務を細かく分類しており(資料1)、どの業務にどのくらいの時間をかけたのか管理できるようにしています。さらに、特記事項として「これだけは必ず翌日中に終わらせる」という業務を、毎日必ず記載してもらっています。というのは、仕事が遅い職員の様子をよく見てみると、朝事務所に来てから「今日は何をしようか」と考えているんですね。逆に仕事が早い職員は、前日のうちにやるべきことを決めていて朝出社したらすぐに取り組んでいたので、それを標準化しようと思ったのです。
また日報には、翌日の業務内容とその見積り時間も書いてもらいます。予測作業時間と実際にかかった時間の差異をチェックすることで自分がその作業にどのくらいの時間をかけているか分かってきますし、スケジュールの組み方も上手になり時間短縮につながります。
自計化を推進した結果顧客満足度がアップし、関与先拡大につながった
──もう一つの課題である関与先拡大についてはいかがですか。
那覇市内中心部から車で約20分の事務所。真っ白な外観が目を引く。
大城 ありがたいことにお客さまが順調に増えていますが、拡大のために特別なことはしていません。
先ほどお話しした通り巡回監査支援システムを使うためにFX2の導入を推進したのですが、自計化のお客さまが増えれば事務所での入力作業が必要なくなるので、拡大による業務量の増加を抑えることができました。
さらに、空いた時間でTKCの標準サービス──初期指導・月次巡回監査・継続MAS・決算対策・書面添付など──を提供できるようになってお客さまの満足度がアップし、その結果、経営者仲間に勧めていただけるという好循環ができたのです。
──自計化の提案はどのようにされているのですか。
大城 新規のお客さまにはTKC自計化システムを勧めています。他社ソフトからの移行については、最初は提案しても断られるかなと思ったのですが、「どうしてもこのソフトでないといやです」とこだわっているお客さまはほとんどいなくて、大抵は「分かりました」と素直に応じてくれました。
時々「グループ会社で同じ会計ソフトを使っているためFX2を使えない」といったケースもありますが、その時は一度お受けして、巡回監査をしながら非効率な経理業務などの経営課題がないか探り、システム移行の機会をうかがっています。
委員会制度によって職員の専門知識とリーダーシップを育てる
──巡回監査担当職員さんが全員未経験者だったとのことですが、どのように育成されたのですか。
大城 まずは税務・会計やTKCシステムの基本的な知識を身につけてもらいたいと思ったので、TKCの職員向け研修にはほぼすべて出てもらっています。また、沖縄支部には「ティーダの会」という職員勉強会があるので、そこでも他事務所のノウハウなどを学んでいます。
必ず「研修報告書」を発表してもらうことで、全員で情報を共有しています。
──先ほどお話があった「所内委員会制度」も職員さんの成長につながっているそうですが、詳しくお聞かせください。
大城 職員が全員未経験者になってしまったとき、広範囲に及ぶTKC会員事務所の業務を一度に覚えるのは難しいと思ったんです。そこで、事務所内委員会の責任者になってもらうことで得意分野を作り、分からないことがあったらお互いに質問できるようにすることで、知識不足を補えるのではないかと考えました。
最初は「研修委員会」「巡回監査委員会」「企業防衛委員会」「システム委員会」の4つから。その後「こんな委員会があるといいですね」と職員から提案があり、現在は9つまで増えています(資料2)。
委員長になればその分野では権限を持てるので、目標を設定したり人を動かしたりしてリーダーシップを発揮でき、そこにやりがいを感じるようです。
──通常業務をしながら委員会の業務もあるので大変ではないですか。
大城 やらされている感覚がないので、みんな委員の業務には積極的です。それに当事務所では、個人評価のウェイトが巡回監査担当者等としての通常業務が半分、残りの半分が委員会の業務となっています。つまり通常の業務だけ頑張ってもそれほど評価が上がらないので、委員会としての仕事をおろそかにするということはありません。
例えば、事務所全体の巡回監査率が下がったら、それは巡回監査担当者の責任であると同時に、巡回監査委員の管理不足にもなります。逆に、システム委員がTKCのフィンテックサービス開始を契機に自計化を推進し、巡回監査担当者に「このお客さまにはこういうふうに勧めてみたら」と助言して目標を達成したとします。事務所の業績の底上げにつながったわけですから、当然、その委員としての成果は昇給や賞与に反映させています。
KPIで担当関与先の状況や委員会目標の進捗を自主的にチェック
──OMSの「目標管理KPI」機能を活用して、9項目(初期値6項目)の指標をチェックされているとお聞きしました。
OMS等を活用した業務改善
- 業務日報と時間管理システムを活用して作業時間を分析し、短縮につなげる
- 事務所KPIを関与先の状況確認や所内目標の進捗管理に活用
- 業務日報への記載により税理士法第41条、41条の2に完全対応
大城 私も時々見ていますが、職員はかなり頻繁にチェックしています。一つ目の目的は、巡回監査担当者として、担当関与先の継続MAS予算登録状況や毎月の監査の進捗状況を確認するため。
もう一つは委員会としての進捗管理です。例えば継続MAS委員なら、当事務所は決算後2カ月以内に予算登録をするルールなので、すべての巡回監査担当者ができているかKPIを見て確認する。あるいは巡回監査委員なら、誰が何日に巡回監査しているのか確認するためです。その上で、例えば巡回監査が月末に集中していれば、スケジュールに無理が生じ遅れにつながるので「翌月の10日までに必ず担当先1件巡回監査に行く」といった所内ルールを提案するなど、翌月巡回監査率100%の達成に支障がないようにするわけです。
──税理士法第41条(帳簿作成の義務)と41条の2(使用人等に対する監督義務)の完全履行という点で、気を付けていることはありますか。
大城 毎日OMSの業務日報を書いてもらっていますし、巡回監査報告書でも税務相談などがあれば職員から細かく報告を受けています。そのデータが業務処理簿になると当時に、自然に職員の監督義務を果たすことにもなっています。
実際、数年前税理士実態調査を受けたのですが、税理士監理官に業務日報等をお見せしたところ「きちんとできていますね」と高く評価されました。
事務所の体質改善のために使い始めたOMSですが、生産性管理だけでなく税理士法の要請にも対応している点など、事務所経営の視点から考えられたシステムであることがよく分かりました。
──今後の目標お聞かせください。
大城 おかげさまで職員が定着してくれるようになりましたし、一時期に比べれば働きやすくなったと思います。
いま特に力を入れているのが「働くママ応援宣言」という「女性が働きやすい事務所」づくりです。10年以上勤めてくれている優秀な職員が離職せざるをえないと、事務所にとっても本人にとってももったいないですし、私自身、まだ子育ての真っ最中で仕事と両立することの大変さが分かります。ですから、結婚して子どもができても辞めずに済むように、育児休暇制度やフレックスタイム制度を作りました。
これからも職員が活き活きと働いてくれる、魅力的な事務所を作っていきたいですね。
大城税理士事務所
(インタビュアー:TKC営業本部 新垣 全/構成:TKC出版 村井剛大)
(会報『TKC』平成30年10月号より転載)