税務官公署出身会員に聞く
31年間の税務職員の経験を活かし「感謝し、感謝される事務所」を目指す
對馬(つしま)一雄会員(東北会)
對馬(つしま)一雄会員
関与先ゼロでの開業と同時にTKCに入会し、創業支援と税務調査対応を切り口に関与先を増やしてきた對馬一雄会員。TKCビジネスモデルに沿った事務所経営で、関与先の発展に貢献したいと語る。
所得税の税務調査や「マルサ」を経験
──自己紹介と、税務職員時代のご経歴をお聞かせください。
對馬 出身は青森県の津軽地方です。高校卒業後に税務職員試験に合格し、仙台国税局管内の山形、鶴岡、気仙沼、福島などの各税務署を転々としました。専門は所得税で、最後は統括国税調査官として税務調査の指揮を執っていました。期別は普通科の45期、本科32期です。
新人は内勤事務からスタートすることが多いのですが、なぜか私ともう1人の同期は1年目から税務調査に出ることになりました。しかも先輩と一緒かと思ったら最初から1人で、何も分からないまま調査したことをよく覚えています。
──調査の結果はいかがでしたか。
對馬 ものすごく時間がかかりましたが、何とか申告書の間違いを見つけて、結局約20万円の修正申告となりました。
でも一番印象に残っているのは査察官、いわゆる「マルサ」の仕事です。2年間だけ査察部門に配属されたのですが、ある案件で社長が不正を認めなかったため、検察との合同調査にまで発展。結局社長は逮捕され、拘留期間の約3週間毎日出勤した経験は今でも忘れられません。
──税理士に転身された理由は。
對馬 もともと税理士の仕事に興味がありましたし、仕事柄転勤が多く、もっと家族との時間を確保したいと感じていたんです。もし独立するなら50歳前と漠然と考えていたこともあり、平成27年、49歳の時に仙台市で開業しました。
記帳代行の紹介を断ったからこそ今がある
──開業準備では何をされましたか。
事務所HPで創業支援と得意の税務調査対応をアピール
https://tsushima-zei.tkcnf.com/
對馬 まず、数年前に独立していた税務署OBの先輩税理士に話を聞きに行って、使っている会計システムや「税理士職業賠償責任保険」など、さまざまなアドバイスをいただきました。あとは事務所開業ノウハウ本も数冊読みましたが、会合には積極的に参加することや事務所HPの作り方などは参考になりましたね。
例えば、どういう人なら関与先になってもらえるかを考えた時、すでに顧問税理士がいる事業者は、特別な理由がない限り税理士を変えようとは思わないはずです。逆に考えると、新規開業の事業者ならそうした問題はないので「創業支援」をHPのキャッチコピーにしました。
また私の一番の強みとして、31年間の税務署での経験がありますから「税務調査の立ち会い」も大きくアピールしました。実際にHPを見てご連絡いただき、税務調査の対応後、そのまま関与先になっていただいたケースも数件ありました。
──TKC入会のきっかけは。
對馬 実はシステムはすでに他社で決めていたのですが、税務署に届けられていた『TKC会報』に退官者向けセミナーの案内があったので「せっかくだから話だけでも聞いてみよう」と思い参加したのです。
独立する際に一番不安だったのは、組織ではないのですべて自分1人で解決しないといけないこと。でも話を聞いてみると、TKCならProFITなどの情報提供の仕組みやSCG・先輩会員のサポートがあると分かり、非常に心強く感じました。高いと聞いていた費用もサービスを考えたら妥当でしたし、その場で入会を決めました。
──KFSの実践状況はいかがですか。
對馬 月次関与先は基本的にTKC自計化システムを導入いただいており、巡回監査率も100%。書面添付や早期経営改善計画策定支援も、可能な関与先には実践しています。特に自計化率は、入会してすぐに宮城県支部の先輩会員に「記帳代行は絶対受けてはいけない」とアドバイスされたことが大きな岐路でした。
というのは、開業から約1カ月後、大先輩のOB税理士から記帳代行希望の事業者を2件ご紹介いただいたのです。当時は関与先ゼロでしたから喉から手が出るほど欲しかったのですが「ありがたいのですが、記帳代行は受けない方針なので…」と断腸の思いで断りました。
もしその時受けていたら、きっと10件くらいで忙しくなって関与先を増やせなくなり、現在の業務品質も保てなかったでしょう。断る決断をした過去の自分を褒めてあげたいです(笑)。
関与先の懐に入り込み親身な相談相手に
──現在の経営課題は何ですか。
對馬 月次関与先は20件まで増えたのですが、職員は内勤の妻だけなので、いくら自計化率100%でもこれ以上関与先を増やすのは難しい。そこで、この5月に巡回監査担当者の募集を開始しました。
職員を雇うには就業規定や研修体制などさまざまな準備が必要ですが、そうしたノウハウも先輩会員からを教えてもらえるので非常にありがたいですね。
──今後の目標をお聞かせください。
對馬 翌月巡回監査率と自計化率をキープしたまま、事務所を拡大することです。また、私は関与先の懐に入り込める親身な相談相手になりたいので、巡回監査を職員に任せるようになっても、短時間でも毎月私が直接経営者と話す時間を確保したいんです。そこで、まずは関与先70件、職員4名を目指します。
いずれにしても、当事務所が発展するにはお客さまの発展が不可欠です。事務所の経営理念である「お客様に感謝し、感謝される事務所」になれるよう、関与先の困りごとの解決に取り組んでいきます。
(TKC出版 村井剛大)
對馬一雄会員(つしま・かずお)会員
昭和60年仙台国税局に入庁、平成27年9月退官。同年10月に開業し、TKC入会。
つしま税理士事務所
住所:宮城県仙台市青葉区上杉2-4-26 パル上杉202
(会報『TKC』平成30年6月号より転載)