事務所経営
事務所総合力を高め、高収益事務所を目指そう!
新春座談会 ── 年度重要テーマ研修講師が語る
昨年の年度重要テーマ研修は、「高収益力を誇るTKC会員事務所の成功法則とは」をテーマとして行われ、大きな反響を呼んだ。平成28年の年頭に当たり、研修講師に選定された伸び盛りの3人の会員に、各々の地域でどのような事務所経営に取り組んでいるかを語り合っていただいた。
価格破壊への対応
サービスの良さを実感してもらう/会計指導力を発揮する/経営計画にきちんと対応できる事務所づくりをする
原田(司会) 本日は、事務所総合力が高く、いま伸び盛りといえる3名にお集まりいただきました。最初に皆さまの事務所の概況をお話しいただけますか。
佐藤栄作会員
佐藤 千葉会の佐藤です。開業していま14年目です。スタッフは巡回監査担当者が5名、内勤が2名でうち1名は家内です。月次の関与先は、法人が110件、個人が10件で合計120件です。
事務所の方針として、巡回監査率100%にこだわっています。関与先とは、帳簿を毎日自分で付ける、脱税・粉飾のお手伝いは一切しないということをご理解いただいた上でお付き合いさせていただいています。
高田 四国会の高田です。私の事務所がある愛媛県西条市は、人口が10万人程度の市で、工業と農業がバランスよい地域です。四国会の会長を務めたこともある祖父が開業した事務所で、私の両親はこの仕事をしていなかったため、孫である私が承継しました。平成9年に承継して19年目です。現在のスタッフ数は正社員が18名、パートが2名。パートと総務以外は巡回監査担当者です。
月次の関与件数は約200件で、うち9割ぐらいが法人です。社会福祉法人や宗教法人、公益法人も比較的多いです。先代の頃からTKCオンリーの事務所ですが、先代の年齢的なこともあって、自計化や継続MASへの取り組みが遅れていました。それをここ6、7年で大分改善して今日に至っています。
小川 福岡県大牟田市に事務所がある小川です。私は開業から丸13年になるところです。職員は16名おり、内勤が1.5人であとはすべて巡回監査担当者です。月次関与先数は159件、うち法人が125、個人が34です。大牟田市は人口11万人ですが、最盛期は21万人ぐらいいたので、約半分に減っています。以前は炭鉱の町でした。実は私もこの仕事をする前は、炭鉱で石炭を掘っていたのです。工業高校を出て炭鉱に勤め、3年半ぐらいで炭鉱が閉鎖になって、そこからこの業界で仕事をすることになりました。
勤務時代に14年間お世話になった会計事務所がオールTKCで、TKCのことをいろいろ学ばせていただきました。
事務所の特徴として、経営方針書に基づく「全員参加型経営」をしています。業務の質に関しては、ISO9000を取得して業務品質を確保し、顧客目線のサービスを重視しています。
事務所の体制は、3つの監査グループと横断的な2つのチームで組織化を図っています。2つのチームというのは、「立ち上げ支援チーム」と「相続対策チーム」です。立ち上げ支援チームは、新規関与先の初期指導の徹底と自計化の立ち上げ支援が担当です。相続対策チームは文字通り相続対策の支援と、資産防衛対策、事業承継の支援と後継者の育成といったことを担当してもらっています。
原田 環境変化が激しい時代だと言われていますが、現在の事務所経営を取り巻く環境をどのように捉えていますか。
佐藤 私の事務所は千葉県といっても江戸川を挟んですぐ隣が東京です。東京の税理士が地元の税理士会のしがらみなしに、非常に攻めやすいターゲットとしてどんどん営業攻勢をかけてくるので、おそらく全国でもトップクラスの競争の激しいエリアです。うちのお客さまにはほぼ100%、他の税理士事務所のダイレクトメールや営業の電話、飛び込みセールスが来ています。価格破壊も進んでいます。
サービス内容に違いがあるとはいえ、口頭で説明するだけではなかなか伝わりづらく、差別化が難しい面があります。ですから私の事務所も、顧問契約の当初はサービスの良さを実感していただく期間として、価格を抑えて顧問契約をせざるを得ないというのが現状です。そして1年2年で適正額に上げさせていただくという対応をしています。ただし、一度顧問契約をすれば、他事務所の低価格の営業攻勢を尻目にどんどん値上げをさせていただいても、関与先の離脱はほとんどありません。逆に決算ごとに値上げをしていくものですから社長の方が戦々恐々としているのではないかと思います(笑)。
高田 金融庁が地域金融機関を再編しようとする動きがあります。それは金融庁から見た日本経済の将来像の中で、それぞれの金融機関はどうやって生き残るつもりですかという問いかけなのだろうと思います。税理士事務所は国税庁から再編を促されるようなことはありませんが、地域金融機関のビジネスのゾーンと、われわれのビジネスのゾーンは非常に似通っているので、本当は同じぐらいの大変革が起こるという危機感を持っていないといけないのではないかと思います。
地域経済全体のパイが縮小していく中で、薄利多売でやっていくのは絶対に無理だと思います。高付加価値を目指し、特色のある経営をしないと会計事務所の生き残りというのは難しい。その特色というのは何かというと、やっぱり事務所総合力を中心とした会計指導力の発揮というところに行き着くと捉えています。
小川 マーケットリサーチの情報によると、ある一定期間で福岡市は120社ほどの新規設立法人があったところ、大牟田市は5社ぐらいしかありませんでした。それだけ中心部とは差がある地域だということです。また、うちは大牟田税務署管内で一番後発の事務所なので、ほかの事務所と同じことをやっていても絶対にうまくいきません。どのエリアでどういう顧客をターゲットに設定していくかということをしっかり考えていかないと、企業からはまず相手にされないだろうと捉えています。
ただ、決算書が重要視される時代でもあるし、経営計画が必要とされるということもあるので、そういったことにきちんと対応できる事務所づくりをしていれば、企業は絶対にこちらの方を向いてくれるだろうと考えています。そういう意味では、私たちからすると逆にチャンスの時代でもあると感じます。
原田 日本全体の企業数は減少傾向にありますが、月次決算・月次巡回監査というものを知らない企業はまだたくさんあるのではないかと思います。TKC会員事務所が提供するサービスをもっと世の中に知ってもらえば、われわれにはまだまだチャンスがあると言えそうですね。
事務所経営の岐路となった出来事
事務所合併/意識不明の大病/高額の起票代行の誘惑を断ったこと
原田 これまで事務所を経営してきた中で、ご自分の岐路となったと思える出来事があればお聞かせください。
小川 開業して数年の頃ですが、地元のTKC会員から、もう引退するから引き継いでくれないかという話がありました。そこで事務所を合併して監査担当者6名と内勤の方1名を引き継いだのが、事務所として一番大きな変化でした。
実際に合併して一緒に業務をしてみるとなかなかすり合わせがうまくいきませんでした。それぞれの事務所のやり方や流れもあるし、向こうから来られた方は10年以上の職員さんばかりだったので、自分独自のやり方がありました。うちの事務所もなにかしら個人のルールがあったので、業務をきちんと標準化していこうと考えました。みんながみんなの仕事を見える体制をとっていこうということで、ISOを取得することになったのです。これによって事務所の業務の標準化というのができたことが次の変化でした。
高田勝人会員
高田 私は承継したのが27歳、税理士になって2年目のときです。職員は全員年上。お客さまは事務所に付いているというよりは監査担当者に付いているような印象があって、当初はどう変えていったらいいのかも分からないし、変えようとしてもなかなか動かないというか、やりづらいところがありました。そしてそのまま漫然と10年ぐらい過ごしてしまったのです。
その後、38歳の時でしたが、私自身が病気で10カ月入院しました。ICUに半年間いて、4カ月は意識不明という大病で、一つ間違えば本当に人生が終わっていたかもしれないという局面でした。4、5日で帰れるからということで何の準備もせずに行ったらそのまま10カ月入院してしまい、意識が戻って退院したら事務所にはほかの税理士が座っているという状況だったのです。
そこから復帰して、他の税理士もいて時間がいっぱいあったので、これからの人生についていろいろ考えました。税理士としてこのままでいいのだろうかと。「おまえ、命がかわいそうじゃないか」という言葉が浮かんでくるような心境でした。そしていろいろ考えた末「TKCに入ってずっと漫然とやってきたけど、自分にはやっぱりこの道しかない」と思い、もう1回徹底的にやろうと決意しました。そこが岐路かなと思っています。
本当に人生は1回しかないので、死んだつもりになって頑張れば何でもできるという気持ちを強く持って取り組みました。大分経って元気になってくるとそういう気持ちが薄れてくるんですけど(笑)。その頃からちょうど若い職員も入り、「このままではいけない」という気持ちを共有してくれる職員も出てきました。そういう職員と共に事務所を改革していって、今に至っています。
佐藤 岐路を一つ挙げろと言われて思い浮かぶのは、開業当初のことです。私は開業の時に、事務所の方針として起票代行はやらないと心に誓ってスタートしました。そうすると、その決意を試されるようなお客さまがすぐにやってきました。開業して半年ぐらいで、まだお客さまが1、2件しかなくて本当に食えないときのことです。月10万円払うから起票代行してくれという依頼を受けて、私も必死に「御社の真の発展のためにご指導は徹底的にさせていただくので、自計化の道をお勧めします」ということをこんこんとお話しさせていただきました。社長さんはやってみようかというような反応をしてくださったのですが、右の端の方にいた経理部長が首を横に振ったのがチラッと見えたのですね。意思決定権はどうやらそちらにあったらしく、結局顧問契約はできませんでした。
帰る道すがら自転車をこぎながら本当に後ろ髪を引かれる思いで、何度も引き返そうかと思いましたが、何とか迷いを断ち切りました。この経験をした後はもう迷わなくなりましたね。TKC方式の自計化に乗らないお客さまとは一切お付き合いをしない。そのことに関して何の未練も感じなくなりました。今は小規模だけど質のいいお客さまばかりです。そういうお客さまの成長発展を祈りながらやりがいのある仕事ができるのは、その経験があったからかなと思っています。
巡回監査体制の構築
巡回監査支援システムで報・連・相を確立/会計の活用を体感してもらう/初期指導が基本
原田 今の事務所体制をつくってきた上で、事務所総合力の核となる巡回監査体制の構築には、いつからどのように取り組まれましたか。
小川清春会員
小川 私は勤務時代の事務所が「月次巡回監査が当たり前」という環境でした。独立開業する際も、TKCシステム1本で月次巡回監査をやると決めて始めたので、最初から自然と巡回監査と自計化が標準という体制になりました。
あとは、平成17年に巡回監査支援システムが提供開始された際に、専任講師に任命されたことがよかったと思います。提供当初から支援システムに関する勉強をさせていただいたので、当時からすべての関与先に対して、支援システムの導入ができました。それで事務所内の報・連・相の体制が確立され、うまくいったと感じています。
高田 巡回監査に関しては、まず関与先にその意義を理解してもらうことと関与先の受け入れ体制を整備することが大事だと思います。意義の説明をきちんとすることと、初期指導、自計化システムの作り込みなどに時間をかけて関与先の受け入れ体制を作っています。
私の場合、ありがたいことに、引き継いだ際に8割前後巡回監査ができていたので、本当にできないところに一からという苦しみはあまり味わっていません。でも油断すると巡回監査率が8割を切ってしまうような状態でした。いまはようやく9割ぐらいまで上がりましたが、この10%を上げるのは大変でした。
そこで取り組んだのは、まずスケジューリングです。翌月の予定をしっかり取って帰るのを当たり前にしていきました。あとは大体月次でできない先は決まっていますから、そこをどうするかです。スタッフが困っているときは課長が同行して、関与先にもう一度巡回監査の意義をお話ししたり、こちらのやり方のまずいところがないかなどいろいろ意思疎通を図ったりしながら、改善してくれました。
根本的になぜ月次巡回監査ができないかと言うと、関与先が心から月次巡回監査を望んでいないからだと思うんです。相手が毎月絶対に来てほしいと思っていたらできるはずです。その段階に引き上げるにはどうしたらいいかを考えると、自計化と継続MASをフル活用して、毎月の巡回監査でいろいろな会計情報に基づく話ができるということを体感していただくしかないと思います。そこに行くまでは手間暇が掛かるステップもありますが、そこを同時進行で進めていくことが巡回監査率の向上につながると思っています。
原田 まずは翌月の予定を決めることが基本ですね。佐藤先生はいかがですか。
佐藤 私は関与先2件からスタートして、当然その2件に巡回監査をしていました。そこから1件ずつ増えていったので自然に巡回監査体制は整いました。
それでも関与先の数が増えてくると、どうしても今月は都合が悪いというようなところが出てきます。そこは粘り腰で、「少々の事情があっても巡回監査だけはお休みできないんですよ」と言って、何とか実践しているうちに「この事務所は少々のことでは巡回監査を休ませてくれないんだ」ということが定着していきました。そうすると、そんなに苦もなく巡回監査率が100%になります。99%だとそこに判断の余地が出て、迷うことになるので、とにかくうちは事務所を挙げて100%を徹底しています。100%のときは所内全員で食事会をするのですが、1件でも行けないとなしになるので、行けなかった人はみんなから白い目で見られます(笑)。
また、巡回監査率100%にこだわることで、お客さまにも巡回監査がそれだけ大切なものだという位置付けが伝わり、こちらの本気度合いも分かっていただけると思います。
巡回監査体制をつくる基本はやはり私も初期指導だと思います。ですから新しいお客さまが来て、初期指導に監査担当者を行かせるときには、本当に戦場に送り出すような気持ちで送り出しています。
KFSの標準化
新規関与先は必ず自計化から/既存関与先は継続MASから/社長に夢を語ってもらい動機付け
司会/原田伸宏会員
原田 だんだん核心に入っていきますが、KFSを事務所の標準的な業務とするために、どのようなプロセスを経てきたかについて改めてお話しいただけますか。
小川 新規関与先に関しては、うちは契約する前にこういったサービスを提供しますという話、例えばKFSや企業防衛制度の話をして、理解いただいた企業と顧問契約するという流れにしています。
実際に導入する上でのとっかかりは自計化です。自計化して翌月巡回監査体制にするため、基本的に初期指導を1カ月以内でできるように、初期指導チームで体制をとっています。
関与して1年経ったときに経営計画の策定をします。最初から経営計画の策定をして予算登録する場合もありますが、ほとんどは2年目から計画を立てています。初年度はまず自計化から始まって翌月巡回監査に乗せ、他に付保状況の確認などを1年の間にやります。2年目に経営計画の策定をして、3年間関与して書面添付というルールにしています。
原田 新しくお客さまになるところは、100%自計化するということですか?
小川 自計化導入は関与当初からの必須項目としています。自計化できない場合は契約自体をしません。うちの事務所のサービスを徹底して受けていただくためには自計化が不可欠なので、できない場合は他の事務所さんの方がうちの事務所よりサービスがよくなるかもしれませんというような話をしています。
うちが目指す仕事は、会計と税務を経営に役立てる「自立企業の支援業」だと考えているので、まずは会社として自立企業になってもらいたいということをお伝えして、自立したいと思われるのであれば、ぜひご支援させていただきたいと言っています。
高田 私のところも、新規の時は最初から自計化という話ができるのですが、既にあるお客さまで自計化していないところをどうするかという方がメインでした。手始めに取り組んだのは継続MASです。継続MASは事務所さえ意思決定すれば取り組めるので、まず予算登録を100%やろうという方針にしました。できれば関与先の経営者と作るという本来の形をとりたかったのですが、職員のことを考えると、今までやっていないのに全件作れといってもそれは難しい。やらないよりはいいだろうということで、まず「必要利益からの試算」のパターンか、もしくは前年同条件でやるか、とにかく1回使ってみて、資金の計画も含めて継続MASで全件作らせるようにしたというのが2010年です。一通り職員も使えるようになって慣れてくると、小規模なところであれば、資金を含めて30分で計画を作れるようになりました。
この時ちょうど、全国会で純増キャンペーンが行われていて、めでたく全国1位の表彰を受けました。やっていなかったところが一気にやったら1位になるのは当たり前だという話なんですけど(笑)。
次の段階として、せっかく継続MASで計画を作ったのに、予実対比は事務所に帰って帳表を出して見る、そしてまた訪問して説明する──という作業がすごく無駄だということが職員にも腑に落ちて分かるようになりました。次は自計化しないといけないということになって、翌年から自計化の推進に取り組むようになりました。
自計化に関しては、FX2の機能をとにかく全部調べて、朝礼でマニュアルを読み合わせたり立ち上げ事例を発表したりと、毎日毎日、自計化をテーマに1年間取り組みました。2011年も自計化純増キャンペーンで全国1位をいただきました。
KとFを両方使うと、巡回監査も変わってきます。監査時間が十分にとれるので中身もしっかり見ることができます。自計化すると経理体制もしっかりしますし、継続MASで業績を良くしようという話をしていると経営者も脱税の方向には意識が向かなくなります。そういうことから、書面添付の件数増加にも自然につながっていったという形です。
原田 財務エントリを使っている先にはまず継続MASで計画を作り、予算登録をすると自計化につながっていく、そして書面添付にもつながっていくということですね。佐藤先生はいかがでしょうか。
佐藤 私は顧問契約をすると同時に、「社長の将来の夢はなんですか。5年後にはどんな会社にしていたいですか。今年どこまで頑張れますか。他の会社とは違う、社長のこだわりはなんですか。これがないとただの成り行き経営になってしまいますよ。事業は失敗できないのだから、まずこういったことをしっかりと固めることが大切なんですよ」という話をしています。そして継続MASで社長の夢を具体的な数字に落とし込んで、これを実現するために毎日帳簿を付けていきましょう──という入り方です。まず継続MASから入って初期指導をして、日々FX2に入力させて、当たり前のように書面添付に結びつけるという、KFSを同時に進めていくというパターンでやっています。
原田 社長と語って目標を共有するところから始まるということですね。
佐藤 そうです。何のための会計かということを明確にする。税務署のための帳簿であれば会計事務所に丸投げでもいいかもしれませんが、自分の会社を良くするための帳簿なのだから、毎日自分たちで付けるのが当たり前。それをご理解いただいてから顧問契約をするという形です。
事務所総合力の効果
基本業務ができれば派生業務もできる/高い水準のサービスで付加価値が上がる
原田 KFSの進め方の話を伺いましたが、それらがすべてできるようになり、事務所総合力が高くなるとどういう効果が出ているでしょうか。
高田 自計化にしても継続MASにしても、一つひとつは「線」だと思っているんです。線だけだと、受け止められる範囲というのが非常に狭い。総合力というのは線が増えて、「面」ができているようなイメージがあって、受け止められる範囲が広くなっていると感じます。それぞれの取り組みが密接に関係しているので、基本業務ができれば派生する業務もできるようになります。一緒に取り組んでいることのメリットは大きいと思っています。
例えば企業防衛制度にしても、事務所総合力と言われる数字が上がってきてから、不思議と実績が上がるようになりました。以前は行ったことのなかった海外表彰旅行も、ここ3年くらいは行けるように変わってきました。原因は何かというと、まず自計化して関与先の社長と話す時間が増えます。継続MASをするとお金や利益があるかどうかが分かり、税金がどうなるかまでを含めて話ができるようになります。そうすると提案が具体的になり、社長にも納得いただきやすくなるのだと思います。
経営改善計画策定支援事業に関してもそうですが、継続MASを全件で使うというやり方をする前は、うちの職員もB/SとP/Lしか頭になかったので、資金を含めた話はできなかったと思います。でも継続MASをやっていたからできるし、自計化していたからモニタリングもできる。次々と新しい取り組みが出てきても、全部関わりがあるのですぐに対応できる。そういう環境づくりの土台、いろいろなことの根幹になるのが事務所総合力だと思っています。
佐藤 事務所総合力を高くするということは、業務の標準化につながります。どの担当者でも、関与先の経理レベルがどうであっても、一定の高い水準のサービスを提供できるようになるというのがメリットではないかと思います。
付加価値の低い記帳代行の仕事などから解放されて、顧客満足度の高いサービスの方にどんどん力をシフトすることができる。結果として付加価値が上がる。そして、信頼性の高い決算書ができあがって、他の事務所とはまったく差別化された商品、決算書を作ることができる。メリットはたくさんあると思っています。
原田 なるほど。事務所総合力を高めるためのカギはなんでしょうか。
佐藤 巡回監査と初期指導ですね。結局できる・できないは、元をただせば初期指導の成否に尽きると思います。
巡回監査に行ったらお客さまが帳簿を付けていないようなケースも当然あるわけです。そこで担当者がいかに熱く関与先を指導できるか。時間をかけてでも、しっかりと、関与先の本当の発展を願って、指導をしてあげられるかどうかにかかっていると思います。それが、後になって、「あのときのアドバイスはこういうことだったのか」と理解いただけます。安易に記帳代行をして関与先に楽をさせて喜ばせることは、決して関与先のためにならない。目先は大変でも、しっかりと指導してあげる。ここは本当に熱意がないとできないところじゃないかと思います。初期指導ができれば後はどうっていうことはない。巡回監査もKもFもSも当たり前のようにできると思います。
原田 小川先生の事務所は初期指導のチームがあるということですが、具体的にはどんなことをしているのでしょうか。
小川 初期指導チームの業務は、きちんと帳簿体系を確立させることと、自計化システムの入力を月次できちんと監査できるレベルまで指導することです。独自のチェックリストを作って、漏れなく指導してできているかチェックしながら実施してもらいます。基本的には初期指導で4回訪問します。大体週に1回、1カ月以内で終えるような形で計画を立てて取り組んでいます。
以前は担当者によって初期指導の仕方がバラバラで、5年10年同じ担当者になった場合には、全然自計化のレベルアップが図れていなかったという問題もありました。いまはホスピタリティの高い人を選定して、その方たちにきちんと初期指導をしてもらっています。2人体制で行っており、1人が指導している間にもう1人が書類の確認をできるなど、すごくうまくいっています。独立当初はもらえていなかった立ち上げ支援手数料もいただけるようになりました。
最初に総務が1.5人と言いましたが、2人いる総務のうちの1人がPXを得意になったので、その人に初期指導チームに入って指導してもらっています。
高田 うちもPXだけは立ち上げ担当を決めています。Fもいいかもしれないですね。監査担当者と違う人が行く方が、明確にサービスが見える。
佐藤 そうですね。うちもそういう体制をつくりたいんですよ。
小川 ちなみに立ち上げ支援チームは自計化の指導も担当で、既存の関与先にも、自計化がどこまで浸透しているかを、20項目区分してチェックしています。毎年レベルアップできるように、初期指導チームがヒアリングして、できていないところは担当者と一緒に行って自計化のレベルアップを図っています。
収益から見ても、自計化の収入が結構なウエートを占めるようになってきています。そこをきちんと強みにしてやっていけるように意識しています。
7000プロジェクト
次の時代の事務所業務を先駆けて経験/金融機関との交渉が勉強に/モニタリングの意味を分かってもらう
原田 話は変わって、いま大詰めを迎えている7000プロジェクトの取り組み状況はいかがでしょうか。
佐藤 7000プロジェクトは、職員5人のうち4人にそれぞれ1件ずつ担当させて、取り組んでいます。最初の金融機関へのアプローチと具体的な行動計画の策定は私が立ち会って、あとはところどころ点検するくらいで、数値計画の取りまとめ等は担当者に全部任せています。職員にとって金融機関や信用保証協会の方たちといろいろな交渉をするのは初めてだったと思うので、非常にいい勉強になったと思います。おそらく次の時代の会計事務所の業務になるであろう経験を先駆けてできた。やってみればどうっていうことはないということを体感させられたのが非常に大きかったと思います。
小川 確かに金融機関とのやり取りが職員にはすごく勉強になっていますね。また、モニタリングのやり方自体が変わってきて、業績検討会などでもそれがすごく反映されるようになりました。以前は継続的なPDCAの支援がうまくできていなかったのですが、前回の問題点を聞いて、それをどう改善してどうつなげていくかというような流れがうまくできるようになったと感じています。
高田 認定支援機関の制度ができる前から、おそらく金融機関関係の業務が重要になるだろうという認識があったので、地元の金融機関と定期的に勉強会をするようにしていました。
いま件数としては15件申請していて、14件が合意済みです。もっと中身を掘り下げていかなくてはいけないという点と、金融機関にも経営者にもモニタリングの意味をしっかり分かってもらえるような、いいモニタリングをしようということが今後の課題です。
原田 最後に5年後10年後にどのような事務所にしていきたいか。抱負をお聞かせください。
佐藤 うちの事務所の強みは巡回監査率が100%だというところです。地味ですが、税務監査・会計監査という基本、業務の基礎ができた上で、巡回監査をベースとした経営助言をしていきたいと思っています。経営助言には無限の可能性があり、10年後ぐらいに税務会計の報酬が3、経営助言の報酬が7くらいの割合になっていれば、今の報酬の何倍もいただけるのではないかというイメージを持っています。これからがチャンスだと思っています。
それに向けて今すべきことは、目の前にあるお客さまの要望に一つひとつ応えていくことです。そのために常に自分たちのスキルアップをしていきます。社長を正しい方向に導けるパートナーとして、中小企業に寄り添うようにしてやっていきたいと思います。
高田 私は三途の川から帰ってきた後に、10年後どうしたいかということを考えました。そのときに税理士法人をつくり組織体制をもっと強化しようと考えていたのですが、まだ実現できていないので5年以内の実現を目指します。職員はいま20名ですが、これを30名にしたい。
いま資産税に関しては、主担当のスタッフがいるのですが、資産税だけでなく、医療系や事業再生、経営改善あるいは農業といった分野にも専属スタッフを配置できるようにすることを目指してやっていきたいと思っています。
小川 私は平成20年の経営方針書で2030年に向けた方針を「事務所の目的と社員・職員の人生の目的が一体化された事務所をつくっていこう」としました。
まだまだ事務所の歴史は浅いですけれども、100年企業を支援する事務所づくりと、100年続けられる事務所づくりをしていこうと考えています。そのために、もっと事務所が発展できるように私自身の経営ビジョンを明確化していき、それをスタッフに浸透させていくことが必要だと感じています。
原田 会員事務所が今年の業務を進める上で、たくさんのヒントが詰まった話を伺うことができました。本日はありがとうございました。
(構成/TKC出版 蒔田鉄兵)
(会報『TKC』平成28年1月号より転載)