独立開業
TKC方式の自計化をベースに事務所の強みを育てたい
新規開業奮闘篇
とき:平成26年9月1日(月) ところ:TKC東京本社
開業3年目から6年目の会員3名が集い、関与先拡大の状況や、金融機関との連携事例、巡回監査体制の構築などについて語り合った。司会は、佐藤正行副委員長(ニューメンバーズ・サービス委員会)が務めた。
出席者(敬称略・順不同)
井上秀彦会員(TKC中部会名古屋東・北支部)
野畑英孝会員(TKC近畿兵庫会阪神支部)
横川幸男会員(TKC西東京山梨会青梅支部)
司会/TKC全国会ニューメンバーズ・サービス委員会
副委員長 佐藤正行会員(近畿京滋会)
関与先もノウハウも乏しい開業時先輩会員の熱血指導に感謝
──本日は新規開業会員の皆さまに、関与先拡大や事務所の戦略についてお伺いしたいと思います。まずは入会の動機と、事務所について教えて下さい。
野畑英孝会員
野畑 兵庫県西宮市の甲子園球場の近くに事務所があり、開業6年目です。南近畿会の税理士法人ユーマス会計に大学4年から27年間勤め、資格を取得し独立開業しました。
関与先は、法人が31件です。社会保険労務士の職員が1人おりまして、資格を持っているので事務所の強みとなっています。
勤務時代に飯塚毅TKC全国会初代会長のお話を直接聞く機会があり、感銘を受けました。勤務時代から使っていたTKCシステムに信頼感があり、独立が決まってすぐに入会しました。
他社システムを利用した経験もありますので、TKCシステムの良さを実感しています。他システムとは違って遡及処理ができない、簡単に項目を修正できない、というところに安心感があります。
入会してからシステム以上に価値があると思えたのは「会員同士のつながり」です。先輩会員から事務所経営のノウハウを教授してもらえる、業界の動向をすぐに入手できる、成長できる環境を与えられる──未入会の先生には、ぜひこの点を知っていただきたいです。
横川 東京都青梅市で24年4月に開業しました。関与先は、法人が23件と個人が2件です。職員は1人がパートでもう1人は今年の7月に採用しました。
西東京山梨会の、小澤会計事務所に19年勤め、税理士試験に合格後、独立してすぐに入会しました。理想となる先生がたくさんいらっしゃったので入会に迷いはありませんでした。
井上 ナゴヤドームにほど近い、愛知県名古屋市の守山区に事務所があり、この9月で開業して3年目です。
関与先は、法人が17件と個人が9件です。4月に職員を1人、初めて採用しました。
もともと司法試験の勉強をしておりましたが、29歳のときに方向転換して税理士を目指しました。資格取得後に中部会の岡本会計事務所に2年間勤めて独立し、開業と同時に入会しました。
開業後のノウハウに乏しいわれわれニューメンバーズ会員に対して、先輩方は愛情に満ちた熱血指導をしてくださり、挑戦して結果が伴うと、自分のことのように喜んでくださいました。このような良い関係を築けるのはTKC全国会しかないと思います。
経営改善計画作成セミナーの講師を引き受け関与先が増えた
──関与先拡大の状況について教えてください。
野畑 独立するときに15件を、のれん分けしてもらい、そこから16件増えて今は31件です。関与先や金融機関からの紹介が多いです。
10メートルほどの大きな看板を作って事務所に掲げていまして、それを見て来られてお客さまになった方もいます(笑)。看板を見た銀行の営業マンが訪問されることも多く、来てくれた全ての金融機関と、お付き合いをしました。そこからつながりができて、お客さまを紹介いただくことがあります。
開業当初には商工会議所の担当者が来られ、私がその会員になったことから縁ができて記帳指導員やマル経融資の審査員に推薦してもらい、そのつながりで紹介をいただいたこともありました。
横川 私も関与先拡大は紹介がメインです。開業当初はのれん分けが12件、うち8件は私の担当をそのまま引き継がせていただき、残り4件は所長のはからいです。そこから13件増えて現在は25件。
13件の内訳は個人的な知り合いが7件、関与先の紹介が6件です。認定支援機関として金融機関から依頼を受けた事例として、日本政策金融公庫の経営環境変化対応資金の案件が4件ありました。
今年は相続の案件が5件あり、手続き中の案件が4件です。士業のネットワークからの紹介でした。
井上秀彦会員
井上 関与先の件数は、2年で26件です。
当初は何をすればいいか手探りの状態で、TKC入会同期の仲間数人と、勉強会を開始しました。次回までに何をして何件増やすという目標を立て、翌月同じ場で結果を報告するというもので、他の会員の成功例を聞くと自分も件数を伸ばさなくてはと刺激になりました。
金融機関への飛び込みやダイレクトメールも行いましたが、実際に結果が出たのは金融機関主催の「経営改善計画書作成セミナー」に講師として参加したことです。TKC中部会が三菱東京UFJ銀行さんや中京銀行さんと提携して、企業の経営改善計画書を作成するというセミナーで、FAXで講師募集の知らせがきたのですぐに手を挙げました。当時は時間があったので(笑)。
内容は、経営者と数回面談を行い、その過程で企業の抱える問題点を掘り下げていき、具体的な数値と行動計画を練りこんだ経営改善計画書を作成し、金融機関に報告するというものです。そのまま信頼を得て関与先になるケースも多く、結果的に6件が関与先となり、また金融機関との独自のパイプもでき、感謝しています。
巡回監査は「妥協せず」粘り強く責任と誇りを持って行う
──これまで事務所の強みを打ち出すためにどんなことに力を入れてこられましたか。
野畑 経営計画策定のご支援です。お客さまに事務所で思いを語ってもらうという業績検討会を行っています。真剣に取り組んでいただきたいため、有料にしています。毎月1回、会社で開催される実績会議に同席させていただく関与先もあります。
経営計画が未策定の先には巡回監査のときにお声掛けします。「計画を立ててもその通りにはいかないよ」と言われても、「うまくいかないからこそ、実績と計画の対比を従業員を巻き込んで修正していくことが大切です」とお話しします。
経営計画を立てることは経営改善のみならず、自社の業績に向き合うことになるので従業員を成長させます。当初は計画策定会議に気乗りせずに参加していた従業員が、業績で賞与を決定する方式にしたところ、資料を自発的に作ったり、商品企画を考えてくるようになりました。
横川幸男会員
横川 私が注力してきたことは、お客さまや金融機関からの問い合わせに対して「迅速かつ丁寧」に対応することです。質問が来るときは向こうがこちらを求めている大切なタイミングなので、相手の考えを汲み、最新情報の提供を交えて分かりやすくお答えする。そのような「痒いところに手が届く」事務所を目指しています。
また、巡回監査に重きを置いており、現在は翌月巡回監査率が98.4%です。顧問契約する際に必ず「毎月の業績報告と訪問を徹底する」と強調します。日程変更の依頼を受けた場合には月内の変更をお願いしており、「忙しい」と言われても、責任と誇りを持って「妥協せず、粘り強く」取り組んでいます。
井上 私の事務所は金融機関主催のセミナーを通じて関与先となることが多いので、もともと企業と金融機関と会計事務所の「三位一体」の構図ができています。
関与先が折り返しの融資を申し入れる際には、あらかじめ金融機関と話し合い、感触を確かめた上で資金繰り予測表を提出します。このように金融機関との意思疎通を心掛けているので、「資金繰り対策」に関して事務所の強みが出せていると思います。
私も「すぐに対応できる」事務所を目指しており、金融機関の担当者から連絡を受けて迅速にお答えする、そうすると次の案件の相談も持ちかけてくれるようになります。
事務所のイメージを一言で表すと「経営熱血塾」です。関与先で、特に後継者となる方を事務所に招いて「簿記塾」を開催しております。
経理レベル向上を目的として最終的には試算表や自社の決算書を手に金融機関と互角に渡り合えるような、そんな経営者を育てたいという思いで開催しております。
事業承継のタイミングは新たな提案のチャンス
──井上先生と野畑先生が、巡回監査に関して工夫している点はありますか?
井上 7月には翌月巡回監査率100%を達成しました。巡回監査をスムーズに進められるよう、初期指導に力を入れています。
経営者に巡回監査の必要性を理解いただくため「月次の試算表をきちんと出し、決算書を正しく作る。そのために月次の巡回監査を行います」とお話しします。ゆくゆくは、そのことが、書面添付、「記帳適時性証明書」に反映され、「極め」をはじめとした金融機関の評価や税務当局の信頼を得ることにつながります。
「巡回監査をきちんとするためにTKC自計化システムを入れて御社で記帳し、領収書の整理や保存もしてほしい。最初は少し大変かもしれませんが、結局は御社のためになります」と、時間をかけて伝えます。
巡回監査時においては経営者との会話を大切にして、ニーズを的確につかみ、徹底的に調べた上で提案、回答するという姿勢を重視しています。
野畑 現在の翌月巡回監査率は98.4%です。井上先生と同様に初期指導を重視しており、「正確な試算表や決算書を作りたいので巡回監査を徹底します」と最初からお伝えしています。
巡回監査においては社長とのコミュニケーションを大事にしています。一般的に社長交代と同時に会計事務所を替えるケースが多いようなので、特に経営者が代変わりしそうな関与先には注意しています。
先代社長は経営計画にあまり興味がない傾向がありますが、若い社長は経営計画や自計化に興味があり、システム導入に前向きな場合が多いので、新たなアプローチができるチャンスでもあります。
TKC方式の自計化を前提とした顧問契約をする
──TKC方式の自計化の推進状況や関与先の反応についてはいかがでしょうか。
野畑 勤務時代からシステム導入推進担当の経験があったので比較的スムーズに提案ができます。
現在最も注力しているのが、自計化システムの導入です。TKCのセミナーでFX2(自計化システム)の導入先は黒字割合が高いと聞き、今年に入ってから5件導入しました。
お客さまからは「もっと早く導入すれば良かった」という声をいただきます。経理担当者の業務が効率的になり、社長も、欲しい情報を自分ですぐに確認できるなど楽になったと感謝されます。
自計化に関して、会計事務所側が勝手に「お客さまは拒否反応がある」と考えていることがありますが、そうではないケースがたくさんあります。
横川 今は顧問契約の際にTKC方式の自計化を前提としていますが、勤務時代には、手書きからの自計化を推進してきました。
最初は難色を示す関与先もありましたが、数カ月経った頃に「帳面に戻しますか?」とわざと聞いてみます(笑)。勤務時代を含めて40件近く導入してきましたが、「戻したい」と言われたことは一度もありませんでした。その事実が私に自信をくれました。関与先にもこの話をすると効果があります。
通常の導入プロセスは経理担当者と一緒に自計化システムを立ち上げ、領収書を用意して一緒に入力しながら、1カ月半から2カ月くらいの時間をかけて初期指導をしていきます。
井上 現在のTKC自計化システムの導入状況は全社通じて7割程度です。新規関与の場合は100%で、初期指導を徹底させればスムーズに導入に至るケースが多いです。
伝票入力においては、借方科目や貸方科目などを一つひとつ丁寧に入力するという基本的な方法を定着させてから、その次のステップとして仕訳辞書の登録など、より利便性の高い方法を指導していきます。
「所長のコピー」ではなく自ら考え動く職員を育てたい
──今後の課題や、目標、事務所経営のビジョンについて教えてください。
野畑 1つ目の目標は、やはり関与先の拡大です。今までの経験やつながりを大事にし、金融機関等との接触を意識しながら紹介件数が増えるよう努力していきます。
2つ目には、関与先の1件当たりの売り上げを高めることです。顧問料の目標を1件当たり年間100万円を目安としていきたい。
例えば、事務所との関係が良好で、顧問料を割り引いていた関与先がありました。今年から継続MASを利用しはじめ、業績が向上してきたので、当初の顧客契約書に基づき、正規の料金に戻した例があります。当初からそういう契約書をかわしておくことも大事ですね。
長期的に考えて、今後は後継者を作るのか、他の事務所と合併し税理士法人を作るのか、などの課題もありますが、当面は現状プラス職員3人を採用して、5名体制を目標としたいと思います。
お客さまに私と出会えて本当に良かったと思ってもらえる事務所にすることが夢です。
横川 私も人材育成と採用は今後の課題です。全て自分で業務を行っているので、時間が足りません。職員の育成を急ぎ、余裕を持って仕事をしたいです。自分のやり方を踏襲するコピーを作るのではなく、自主的に動ける職員を育て、TKCの研修にも積極的に参加してもらいたい。
まずは職員5名で6千万円くらいの売り上げの事務所を目指したいですね。
今後も、お客さまと距離の近い、青梅市という地域に根付いた事務所であり続けたいと思います。企業にやってもらうべきことと、事務所のすべきことを、しっかりと線引きできる事務所にしていきたいです。
司会/佐藤正行副委員長
──TKC全国会には主体的に動ける職員の育成に役立つような、研修体制が整っていますから、ぜひ活用してください。
井上 私も採用に関して、2人目や3人目をどのタイミングにするか考えています。今はじっくり1人の職員を育てていますが、関与先を拡大しつつ、このペースでは間に合わないかなと。理念や方針は継承しつつ、自分の頭で考えて意思決定し、その結果に対して責任をとれるような会計人を育てたいと思います。
今後のビジョンは「中小企業のビジネスドクター」になることです。例え話ですが、戦場では血を流して倒れている兵士、つまり中小企業がいます。名刺交換もそぞろに勇気を出して、病巣に手を入れ、持ち合わせの針と糸で止血する、これは税理士であれば誰でもできることだと気付きました。その後、本格的なオペ治療として経営改善計画書の作成やバンクミーティングを行い、リスケ等の金融支援を促し、術後観察としてモニタリングを行っていく。そんなビジネスドクターとしてのイメージ像が自分の中にできつつあり、今後はそれを事務所の明確な姿にしていきたい。
「うちに来たら大丈夫」という安心感を与えながら治療計画を立て、改善にむけて取り組める、そんな事務所を作りたいと思っています。
──皆さん、TKCシステムの活用や会員同士のつながりなど、TKC会員事務所であることの付加価値を活かしながら、それぞれの事務所の強みを育てておられるのですね。
所長個人の力だけではなく、事務所一体となって強みを打ち出せるようになれば、お客さまや金融機関の紹介で関与先拡大はおのずから進んでいくのだと思います。本日は、ありがとうございました。
(構成/TKC出版 小早川万梨絵)
(会報『TKC』平成26年11月号より転載)