事務所経営

開業10年目を経て税理士法人設立 医業を中心に地域貢献を目指す

Apro's税理士法人赤松会計事務所 赤松和弘(近畿大阪会城北支部)
赤松和弘会員

赤松和弘会員

医業を中心に毎年関与先が純増している赤松和弘会員。開業10年目を経て平成25年1月には、園田将章会員、林武会員とともに独立採算型の税理士法人を設立した。その経緯や事務所経営の未来像などを聞いた。

スポーツ一筋の卓球人生から24歳で税理士資格取得

 ──民間企業を経て税理士に転身された経緯をお聞かせください。

 赤松 学生時代はずっと卓球一筋でした。高校では国体選手に選ばれて、卒業後は、実業団で3年間卓球を続けましたが、やはり上には上がいると思い知らされました。再就職を考えたときに「税理士ってええぞ、国家資格やねん」と父にすすめられて、21歳のときに大原簿記専門学校に入学しました。学生時代に「勉強はせんでいい」と言われていた反動からか受験勉強がとても楽しくて、頭にすいすい入って(笑)。受験資格がないため、簿記3級から始めて税理士資格は3年で取得しました。

 ──開業までの経緯を教えていただけますか。

 赤松 実は、昔から芝居に興味があり、税理士資格を取ったあと、悔いが残らないように劇団ひまわりに入りました。すぐに舞台のエキストラの仕事が決まって、「ひょっとしたら役者でいけるんちゃうか」と思い、厚かましくも役者の仕事と両立できる税理士事務所はないか、大原簿記専門学校の先生に相談して、紹介していただいたのが山本和義先生の事務所でした。
 入所当時、外勤では資産税、医療、一般と3つの部署がありましたが、最初の数年は、芝居をしたいという私のワガママからのご配慮で、内勤の広報の部署に配属していただくなど、とてもお世話になりました。「そろそろ現場に出るか」と言われて医療部署に配属になったことが原点となり、開業当時から「医業に特化した事務所づくり」を目指しました。山本先生にはいろんなことを学ばせていただき、とても感謝しており、私にとって、いまでも第2の親父のような存在ですが、山本先生にそう言うと「おまえを生んだ覚えはない」と言われます(笑)。
 平成15年に35歳で独立開業しました。

 ──TKCシステムの導入はどうでしたか。

 赤松 事務所を退所後、すぐに開業できたのは、TKC会員だからこそだと思います。TKCシステムは、借り入れをして、すべて山本先生と同様のシステムを揃え、最初からOMSも導入しました。開業の準備は、(株)TKCのSCG社員にも手伝ってもらったおかげでスムーズに進みました。

医業の強みをアピールした結果 平成21年から紹介が増える

 ──現在の関与先数はどれくらいですか。

 赤松 関与先数は38件、そのうち医業が29件、一般企業が9件です。一般企業は、TKCシステムによる自計化が条件です。
 クリニックではまだ、TKC自計化システムの活用がすすんでいませんが、事務所の中で、MX2(TKC医業会計データベース)に仕訳辞書を入れた状態で、いつでも自計化できる体制を整えています。

 ──事務所を軌道に乗せるまでに悩んだことはありませんでしたか。

 赤松 山本先生からのれんわけいただいたお陰で、なんとか食べていくことはできましたが、開業から5年間は、お金のことでは不安な時期もありました。
 関与先件数の推移を見ると、平成21年が分岐点でした。それまで毎年1、2件ずつ増える程度でしたが、平成21年から1年間のうちに一気に5件増えた。実は、その頃からご先祖様のお墓参りをかかさず、毎日手を合わせるようになったので、ご先祖様が応援してくださっているのかなと感じます(笑)。

 ──関与先件数が純増している秘訣があると思うのですが……。

事務所の受付には、医業経営に役立つQ&Aシリーズがずらりと並ぶ。

事務所の受付には、医業経営に役立つ
Q&Aシリーズがずらりと並ぶ。

 赤松 開業後すぐに、林武先生のご紹介で枚方青年会議所(JC)に入会して、そこで知り合った友人に「医業専門やねん!」とか、「経営計画ってメッチャ大事やで!」と言い続けました。その効果もあって、友人を介して、医療関係者をご紹介いただけたのがキッカケです。そして、医療関係者から医療関係者へとご縁がつながり、いまでは数件の医療関係者から、新規開業予定の医師を紹介してもらえるようになりました。時間はかかりましたが、関与先拡大は、業種をしぼることが一番効率的だと実感しています。また、JCは地域貢献の団体でありビジネスの場ではないので、その場でビジネスになることはありませんが、一生懸命活動させていただいたせいか、卒業後はJCの友人から直接ご依頼をいただいたり、事業計画を望んでいらっしゃるお客様をご紹介いただいたりしています。
 誰彼かまわず自分の事務所の強みをブレずにアピールし続けるのが秘訣かと思います。
 関与している開業医の診療科目は、内科、耳鼻咽喉科、整形外科、皮膚科、眼科などさまざまで、新規の場合は契約まで1年越しです。1年間無料で事業計画策定やスタッフ面接に立ち会うなどのお手伝いをしながら、気に入っていただければ、正式な顧問契約をするという流れで、時間をかけて支援させていただいております。エリア戦略を立てるとほとんど渉外対象がなくなってしまうので、関与先は大阪だけでなく、京都、兵庫、滋賀と広範囲にわたっています。

 ──報酬についてはどうですか。

 赤松 TKCシステムの利用料を含めた年間の顧問報酬額を設定して、それを12分の1ずついただいています。それなので決算報酬を別途頂戴することはありません。毎月ポッキリ定額なので、お客さんもわかりやすく、私の事業計画もとても立てやすいです。

 ――医業経営コンサルタントの資格をお持ちだそうですね。

 赤松 クリニックを支援する上で、これからの医療のあり方に目を向けることが必要なので、医業関係の研修の受講や、(公社)日本医業経営コンサルタント協会の活動にも参画しています。当協会の活動に参画できるのもTKC近畿大阪会辻井章名誉会長にご尽力いただいたお陰で大変感謝しております。
 医業経営でいま話題なのは、地域包括ケアです。団塊の世代が75歳以上となる時代に向けて、地域が一体となって高齢者を支援する体制が求められています。非常に大事なテーマで、医業経営への影響はこれから大きくなってくると思います。

経営計画とライフプランをサポート
経営者に、自分の未来にワクワクしてほしい

 ──経営理念に「我々はお客様にとっての『しあわせ』をつかんでいただくためのお手伝いをする」と掲げていらっしゃいますね。

 赤松 所内ではスタッフ全員で事務所の「経営理念」と、「成功への7か条」として掲げた「正直でいよう」「ありがとうの気持ちでいよう」などを毎日唱和しています。その結果、巡回監査担当者2名とアルバイト2名の事務所ではございますが、スタッフ一人ひとりが素直で勤勉なことが強みとなっています。
 私が関与先に一番伝えたいことは、難しい税務のテクニックではなく、幸せになるための道筋を一緒に考えたいということです。幸せの価値観はさまざまですが、私自身は、精神的に安らげることが人として一番幸せな状況だと思います。

 ──「幸せになるための道筋」を考えるためにどんな支援をされていますか。

 赤松 関与先の繁栄はもちろんのこと、お客様個人に対するライフプランまでサポートすることです。どれくらいの資金が必要なのか確認し、それを事業計画に盛り込むことで、経営者に、自分の未来にワクワクしてほしい。継続MASシステムは全社に使っているので、経営計画をお見せしたときに「足元が見えるようになって、次の打ち手がわかるようになりました」と言われたときは、やはりうれしかったですね。
 税理士の仕事は、一般的に税務申告だけだと思われている方が多いので、以前から、関与先にかかわらず、経営計画策定の重要性を常に強調してきました。顧問税理士さんに不満はないまでも、「経営計画策定の支援をしてくれない」という話もよく聞きます。

 ──関与の前に経営計画策定についてご説明しているのですか。

 赤松 ええ。最初の面談のときに「税理士の仕事は、どんなんかわかりますか」という話からはじめて、企業の永続的な繁栄を目指しているとご説明します。最初から経営計画の重要性をきちんとご説明するので、お客さんも違和感がないようです。昨年、経営革新等支援機関としても認定されました。

赤松会員は、事務所の入出時には、「今日もよろしくお願いします」「ありがとうございます」の言葉をかかさないという。

赤松会員は、事務所の入出時には、「今日もよろしくお願いします」
「ありがとうございます」の言葉をかかさないという。

経営者のやる気を引き出すために戦隊ものの映像を自主制作

 ──認定支援機関として、どんな支援体制を目指していますか。

 赤松 社長さんに「やればできる」と気づいていただくことが目的なので、今後は関与の有無は関係なく、地域貢献に向けて改善計画支援の発信に力を入れていきたいと思います。それから、関与先には継続MASシステムをもっと活用したい。企業が債務者区分のスコアリング欄で100点満点を目指せば、外部からの評価は自ずと上がると思います。細部にわたってコンサルティングをすすめれば、経営者も変化がわかり、やる気が増すのではないでしょうか。
 経営者が自社の経営をよくしたいと考えるのは当たり前で、数字に興味がない社長なんて絶対にいないと思います。解るキッカケが少ないだけだと思います。ありがたいことに私の関与先は、皆さん前向きな方ばかりです。数字を無視して経営に挑むのは、痩せたいといいながら、へルスメーターもなく、やみくもにダイエットをしているのと同じです。

赤松会員扮する「黒字化面」の決めポーズ。「経営者にやる気を出してほしい」と語る。

赤松会員扮する「黒字化面」
の決めポーズ。「経営者に
やる気を出してほしい」と
語る。

 ──経営者に会計の重要性を啓蒙するための映像を自主制作されているそうですね。

 赤松 映像制作のきっかけは去年のTKC全国役員大会で河﨑照行先生、坂本孝司先生の講演に感動したことから、「黒字化面」の映像コンテンツを作成したことです。社長の「どうせ、景気悪いしあかんやろ」というネガティブな潜在意識からでてくる魔物を倒すという、戦隊もののストーリーです。演者としてTKC近畿大阪会の先生方にご出演いただき、河﨑先生の『中小会社の会計要領』(共著万代勝信・中央経済社)や、坂本先生の『会計で会社を強くする』(TKC出版)をベースにドラマ展開させていただく予定です。手弁当の活動ですが、近畿大阪会の先生方の協力も仰ぎながら、シリーズで制作していきたいと思います。私の事務所では、以前、芝居を取り入れた経営革新セミナーを開催したこともあるので、そのような活動は今後も続けていきたいと思っています。

平成25年1月に税理士法人を設立
スケールメリットで地域貢献につなげたい

 ──今年1月、園田将章先生、林武先生とともに税理士法人を設立されたきっかけを教えてください。

 赤松 法人設立は、万が一のときに関与先に迷惑をかけず、職員が路頭に迷わないようにグルーピングしておきたいという、リスク回避のためとTKCのスケールメリットを活かすことです。林先生には、開業したときから事務所が近いこともあって、とてもお世話になっています。3年ほど前に私から「一緒に税理士法人を設立しませんか」とお誘いしました。この地域は、比較的TKC会員が少ないので、TKCを全面に打ち出した税理士法人を設立して、財務経営力が高い町にしていきたいという気持ちもありました。
 園田先生とは、昨年TKCタックスフォーラムの研究発表を担当したときに同じグループで、懇親会の席でお誘いしたことがきっかけです。「スケールメリットを活かして一緒にやりませんか!」とダメ元でお誘いしたところ、快く「一緒にやりましょう!」と。それから3人で事務所訪問などをしながら情報収集を行って、平成25年1月にApro's税理士法人を設立しました。

 ──法人設立に向けてどんな話し合いをされたのですか。

 赤松 約1年かけて3人で話し合いましたが、それぞれの事務所の歴史も違いますし、まずは思い切ってスタートしてみようということになりました。給与形態などの事務所規程はそのままで、独立採算の形で始めました。まだ設立間もないので、今後は毎月1回のミーティングで足並みを揃えながら、職員同士の交流の場も定期的に設けて、運営方針を決めていく予定です。ゆくゆくは、それぞれの事務所の職員が相互に行き来することで、補完しあえる体制を目指しています。
 今後も、それぞれの事務所の強みを活かしていくことに変わりはありません。私個人の思いとしては、関与先拡大に限らず、スケールメリットを活かして地域貢献のためにお役に立ちたいという思いです。

業務を可視化し「司令塔」に徹するため巡回監査支援システムをフル活用したい

 ──事務所経営の課題はありますか。

 赤松 今年の年初に事務所のSWOT分析をして「強み」「弱み」「機会」「脅威」を明確にしました。これを職員に見せることで、「事務所の現状を可視化すること」と、「お客さんにも同じように示せばわかりやすいよ」と2つの意味を理解してもらえました。事務所の「強み」は、先ほどお話しした事務所理念の共有です。それから、拡大の「機会」は、医療関係者によるご紹介だと思います。
 一般企業はすべてTKCシステムで自計化していますが、クリニックではそれがまだ進んでいません。ただし、これが変わればうちの事務所のスタイルは一変して、大きな強みになるはずです。
 それから、業務内容をきちんと可視化して関与先に伝えることが重要だと思います。実際、関与先が、我々の業務を見ることができるのは巡回監査くらいで、いまのままでは、まだ足りないと思っています。

 ──具体的な対策はありますか。

 赤松 巡回監査支援システムOMSをフル活用した事務所体制をつくり、所内の業務を可視化することです。「巡回監査以外にもあなたに対してこのようなサービスをさせていただいております」と見せることです。
 私はまだ10件ほど巡回監査を担当しているので、ここが戦場なら私が職員と同じく戦場で弾をつめている状態。これでは所長の「司令塔」としての役割が十分に果たせません。このままでは戦力は低下し、負け戦の一途をたどるでしょう。そこで、巡回監査支援システムの「所長の指示事項」を使って、細かく指示を出すことで、引き継ぎがスムーズにできると考えました。そのポイントは、記載する内容は監査項目だけではなく、私が巡回監査に行った場合に注意する点も、細かく記載して指示を出すことです。

 ──例えば、どんな指示でしょうか。

 赤松 先日、私が担当している関与先の巡回監査に行ってもらったときは、「開業後、初めて月の売上げが大台に乗った喜びを共有してきてください!」と指示事項に書きました。実際に関与先からは、「前回話したことがそのまま引き継がれていてうれしい」と仰っていただきました。私が司令塔として事務所を見ることに徹すれば、必ず事務所の強みに変えられるので、所長の影武者システムとして巡回監査支援システムをフル活用したいと思います。
 それから、OMSの活用です。あるとき職員が、期日近くになって関与先に夜な夜な電話で税額の報告をしていました。これはいかん! と思って、OMSのスケジューラに業務の段取りをしっかり組んで、巡回監査で年末調整の税額見込額を伝えるよう指示を出したら効果抜群で、その後は、夜な夜な電話で連絡することはなくなりました。
 期首から向こう1年の予定を組んでおけば納税額の目安もわかりますし、12分の1ずつ積み立てていけば納税資金対策にもなり、同じ額でも負担感が和らぎます。業務の段取りをしっかりすることを徹底することも必要です。

 ──事務所の未来像を教えてください。

 赤松 当面の目標は、所長の仕事に集中できる体制をつくって、事務所として、関与先の支援体制を厚くすること。私は司令塔として、新規開業のお手伝い、職員や関与先に最新情報のフィードバックを行い、職員にとってストレスのない職場づくりに努めたいと思います。巡回監査支援システムを使えば、誰が監査に行っても、常に関与先から所長が見えている状態をつくることができます。
 最終的にはApro's税理士法人が一体化して、職員がどの事務所に行っても働くことができる環境づくりを目指したい。これからも地域に貢献して人のお役に立ち、関与先企業の繁栄を目指し、経営者ご自身の家庭円満のためのライフプランをつくるお手伝いをしていきたいと思います。

渡邉義道税理士事務所

平成25年1月に3つの事務所によって設立されたApro's税理士法人。
前列左から赤松会員、林会員、園田会員。

(TKC出版 益子美咲)


赤松和弘(あかまつ・かずひろ)会員
平成7年税理士登録。平成15年赤松税理士事務所開設。近畿大阪会広報委員長。特技は、実業団経験のある卓球。趣味は芝居、読書、畑仕事、自己啓発。45歳。

Apro's税理士法人赤松会計事務所
 住所:大阪府枚方市大垣内町2-12-8 荒堀ビル5階
 電話:072-861-2770

(会報『TKC』平成25年7月号より転載)