システム移行
先代が培ってきた信用と信頼を受け継ぎ、TKCシステムでスケールアップを目指す
<システム移行編>
税理士法人添石綜合会計事務所 代表社員 添石幸伸(九州会沖縄支部)
今年4月1日付で事務所を承継し、本格的にTKCシステムへの移行を実践中の添石幸伸会員。SCGサービスセンターも交えたシステム移行プロジェクトチームを所内に発足させ、「今年12月末までの完全移行を目指したい」と意気込む。
「父が元気なうちに」と40歳で承継
二人三脚でバランスよく事務所経営
──今年4月に事務所承継をされたとうかがいました。
添石 現会長である私の父、添石幸安が開業して今年で33年になります。石垣島から1人で飛び出してきて、小さな看板とソファ1つから事務所を始めたそうです。小さい頃から、周りから「いずれはお父さんみたいに」という話を聞いていました。大学時代に本気で税理士を目指そうと思って勉強を始め、大学院修了後、横浜の会計事務所に勤めながら専門学校に通い資格を取得しました。平成12年に沖縄に戻り開業したのですが、父の事務所の1室を借りていたので対外的にも対内的にも、同じ事務所のようなもの。そこで平成15年に組織変更して、父の事務所と合体して添石税理士綜合事務所(合同事務所)を開設し、平成18年、さらに改組して税理士法人化。今年4月1日に事務所を承継しました。
父も若いのでまだまだやれるとは思いますが、「元気なうちに承継を」と2人の意見が一致し、あえて今、承継を選択しました。若い経営者や新しいスタイルの事業を行っている社長の担当は私が、老舗企業の担当は父がというように、今は非常に良いバランスで業務の棲み分けができています。これから3~5年かけて、二人三脚で事務所を経営していけるのは大きなメリットだと思います。今、沖縄は戦後復興の時期に会社を興した社長が交代する時期を迎えていますが、関与先に経営承継のお話をするときも自分自身が経験しているので説得力が増していると思いますね。
現在は、30年を超える事務所の歴史の中で父が培ってきた信用と信頼をさらに高めて、自他共に認める「沖縄№1」の税理士事務所構築を目指して頑張っています。
父に大反対され内緒でTKCに入会
OMS導入でシステムの良さを実感
──TKCとの出会いはどのようなものでしたか。
添石 修行時代の会計事務所は他社システムのオフコン利用で、記帳代行中心の事務所でした。歴史のある大変素晴らしい事務所で、在籍中は本当に多くのことを学ばせていただきましたが、業務フローは標準的な「昔ながらの会計事務所」のスタイルで、仕事といえば印鑑を押して残高照合。「資料がない」と言っては関与先と事務所を何回も往復していました。その中で、いつしか「こんなことをするために青春時代を費やして資格を取ったんじゃない」という気持ちを抱くようになっていました。
それが、税理士会に所属して他の税理士と接点ができ「事務所に遊びに来てみないか?」とある先輩から誘われたのが、TKCとの出会いです。見学に行って一番驚いたのは、事務所の中身をすべてオープンにすること。これには衝撃を受けました。「自計化」という言葉もそこで初めて聞いて、今までとはまったく違う業務手法を見せられて、「TKCって何だろう」という興味がわきました。
平成12年に沖縄に戻ってくると、若い税理士はほとんどがTKC会員。税理士会の会合に行っても必然的にTKCの話題になっていて、さまざまな情報に触れる機会が多くなったことで、さらに興味がわきました。沖縄SCGサービスセンター長から誘われて「TKCニューメンバーズフォーラム」にオブザーバーとして参加して、なぜ自計化や初期指導が必要なのか、書面添付の意義は何か、どんな姿勢で関与先と接するべきか、ということを知りました。それまで私が知り得なかったことばかりで、「TKCに入会したい」という思いが高まりましたが、結局入会するまで1年ほど間があったと思います。
──すぐ入会しなかったのはなぜでしょうか。
添石 実は、父にTKC入会を大反対されていたのですね。父は型にはまるのが苦手なタイプで、TKCのマニュアルやツールに従うことに抵抗があったようです。TKC会員でなくとも地道に事務所を経営して、関与先を拡大してきたという自負もあったのだと思います。
私としては、TKC理念や「一気通貫」の業務プロセスやシステムは本当に素晴らしいと感じていたので、実は父には内緒でTKCに入会したのです。ですから当時は、かなりの衝突が毎日のようにありましたね。
──今は会長先生もTKCに対する評価が変わってきているとお聞きしていますが、それまでのいきさつは?
添石 それこそ土下座に近いくらい、私は頭を下げ続けました。「これからの事務所経営には業務プロセスの標準化が必要」という話を何度もしましたね。そうしてFX2・継続MAS・書面添付の意義や必要性を訴えて、徐々にTKCシステムを導入していきました。
最初に導入したのはOMSです。財務・税務の主要システムを入れないうちに導入したので、周りの会員からは「何しているんだ」と言われました(笑)。でも私としては、OMSで所内のインフラ整備を行い、情報の共有化や業務プロセスの確認・統一をし、その上で税務システムをTKCに移行していきたいと考えたのです。このプロセスの中で父もTKCシステムの良さが分かり、理解を示してくれるようになりました。
ただ平成18年の法人化にあたってはどうしても父のTKC入会が必要でしたから、どうにか頼みこんで入会してもらい、一緒に入会セミナーを受けに東京へ行きました。帰り道、「おまえが言っていたことが分かった。セミナーを受けて『そうだな』と感じたことはたくさんある。入会して、参加してよかった」と言ってくれたときは涙が出そうになりましたね。一緒に来てよかったと心から思いました。それ以降、TKCシステムを使っていこうという所内の雰囲気が一気に高まったと思います。
システム移行プロジェクトチーム発足で
所内コミュニケーションが深まった
──全面移行を決意されたきっかけは。
添石 所長に就任するにあたって、父から「後ろでサポートしていくから、これからはやりたいようにやれ」と言われ、自分の思うような事務所づくりができる環境が整ったことは大きいですね。それから、ちょうどオフコンの更新時期が来たことも理由の一つです。金銭的負担が大きくて、とても併用はできません。また、職員にもTKCシステムの良さが浸透して、特に幹部を中心に「システムを一本化しないといけない」という雰囲気もありました。思い切って職員に「TKCだけにするよ」と話したら、「中途半端にして逃げ道を作るより、一つに絞ったほうがいいです。私たちは所長についていきます」と言ってくれたので、全面移行を決意しました。
システム全面移行にあたっては、これから事務所を一緒に背負っていく若手の主任クラスを中心に、5つある各課の代表を集めてプロジェクトチームを作りました。このプロジェクトチームの構想は、今年の2月に行われた「TKCシステム移行セミナー2010」がきっかけです。講師の塩倉宏先生(九州会鹿児島支部)と小ヶ内聡行先生(九州会大分支部)から、「所内にプロジェクトチームをつくって、SCGサービスセンターと一緒に完全移行を目指した」という話を聞いて「あ、これだ!」と。「うちでもやってみないか」と職員に言うと「やってみましょう」と言ってくれて、SCGサービスセンター長・統合情報センター室長にも「全面的に協力します」と言っていただいて、チームが発足しました。
現在、今年12月末までの完全移行を目指して、SCGサービスセンターの担当者4名も交え、計10名でプロジェクト会議を毎週開いています。
──プロジェクトリーダーの高那利之主任、システム切り替えに関して抵抗はありませんでしたか。
高那 今までずっと他社システムでしたから、確かに抵抗はありました。でもOMSを入れてから税務の面では徐々に移行していてTKCシステムの良さも分かっていましたし、最終的に残っていた財務も移行できそうな感触がありましたから、所長から提案があったときは「思い切ってやりましょう。やるからには成功させましょう」と言いました。
毎週のプロジェクト会議で出てきた課題は、ピックアップして幹部会議に上げています。例えばシステム移行にあたっては重要科目を統一する必要がありますが、勘定科目体系をどうすべきかと議論していくと、いろいろな壁が出てくる。その壁をどう乗り越えるかという判断を幹部会議に上げて問題点はないか検討してもらい、その結論をチームに戻って議論していくという方法をとっています。必然的にシステム以外の、所内全体についての話にもなるので、所内のコミュニケーションが深まっていると思います。
添石 課が5つあると縦割りになりがちですが、プロジェクト発足後は課を越えた横のつながりができ情報交換の場にもなり、所内の一体感も高まってきています。所長の私だけが吠えていてもなかなか事務所に一体感は生まれませんが、今はチームが事務所全体を引っ張ってくれていて、とてもうれしいですね。プロジェクトチームの役割は知識や経験ではなく、新しいものを取り入れようという若手の新鮮な気持ちとパワーです。楽しみながら、事務所全体で良い方向へ行くための発信源になってほしい。おかげで事務所全体が非常に盛り上がっていて、完全移行できたらセンターの方も含めて達成記念旅行(ラスベガス?)に行こうと話しています(笑)。
高那 SCGサービスセンターの方との一体感もより高まったと思いますね。会議ではいつも親身になってくれていて、1質問したら10返ってくるくらい、いろいろな視点で答えていただけるのでとても頼りにしています。またプロジェクトで課題に挙がった部分を職員全体の所内研修として行っていますが、企画の打ち合わせから当日の運営にも携わってくれて、時には講師までも務めてくれるので、とてもありがたいですね。分からないことがあればすぐに教えてもらえるのでスキルアップも早く、皆喜んでいます。
システム移行のポイント
1.OMSを導入して所内インフラを整備する
2.SCGサービスセンターを交えた所内プロジェクトチームをつくり
事務所の一体感を高める
3.具体的な移行期限を決めて取り組む
FX2・継続MAS導入がきっかけで
金融機関から紹介を受けることも
──システム移行が始まって、関与先さんからの反応はいかがですか。
高那 紙ベースでの報告だと、それ以上の情報を提供するのは難しい。でもFX2では業績を部門別に掘り下げて見ることができるので、「これはすごく良いシステムだね」と必ず言われます。決算が終わったら継続MASで経営計画を作りましょうという話も出ていますね。
添石 継続MASを導入した企業の社長の反応は全然違います。今まで頭の中にあったものをあらためて経営計画として数字に落とし込んでみると、楽しくなるようです。特に若い社長や経営承継した二代目・三代目の社長は単なる過去の報告でなく、未来のための数字が知りたいという意識が強いので、「攻めのシステムとして使いましょう」と継続MASをご案内するとかなり乗ってきてくれます。
中には金融機関から、「TKC会員事務所に関与してもらうと『TKC戦略経営者ローン』が使えますよ」と言われて関与先になってくれたケースも出てきました。システム移行後、関与先と金融機関からより高い評価をいただけることが少しずつ増えてきましたね。
関与先は沖縄本島全域にわたっていて、久米島・石垣島・宮古島などの離島にもありますから、主要システムの移行が終わったらRATパトロールⅡなどの最新のシステムも導入していきたいですね。TKCシステムを使いこなしてもっと効率的に、そして深い経営アドバイスができるようになれば、関与先からの信頼もより高まるのではないかと思っています。
沖縄に大規模事務所があっていい
資格者を育て大きな総合事務所に
──今後のビジョンや夢をお聞かせください。
添石 30年あるこの事務所の良いところをしっかりと受け継いで、変えてはいけないところは変えずに保っていきたい。20年~30年働いてくれているベテランが7~8名いるので、その職員の良いところを若い職員たちに伝えていきたい。同時に、TKCシステムを基本とした業務体制を確立すべく改善を重ねて、もっと事務所の質を上げて体質を強くしていきたいと考えています。
昔は個人事務所で十分事足りたと思いますが、今は関与先のニーズも多様化しています。ですから、弁護士や司法書士など資格を持った者同士がパートナーとなり、それぞれの強みを生かしたサービスをワンストップで提供できる総合事務所をつくりたいと考えています。所内には資格の取得を目指している卵がたくさんいるので、一緒に大きな組織を、いわば総合病院のような事務所をつくりたいと考えています。
大規模事務所というと、どうしても東京や大阪などの大都市ばかりが連想されがちですが、やっぱりそれは悔しい(笑)。沖縄にも大規模事務所の本社があってもいいと私は思うのです。そしてゆくゆくは東京支店や大阪支店、沖縄という地の利を生かしてアジアへの支店展開も本気で目指したいと考えています。
私の座右の銘は「思考は現実化する」です。「こうしたい」と考えたことは必ず現実化すると思っています。TKCに入会したのも、那覇新都心で事務所を構えられたのも、一体感のある事務所になっているのも、すべてはまず考えて、達成したいという気持ちを強く持ったから。従来の税理士事務所の型にはまらない、新しい付加価値とサービスを提供できる税理士事務所像を自分なりに模索していきたいと考えています。
(TKC出版 篠原いづみ)
平成10年税理士登録。平成12年11月にTKC入会。平成22年4月に事務所を承継、代表社員に就任。41歳。座右の銘は「思考は現実化する」。現在、職員数20名、関与先数は法人約300社、個人約100件。
税理士法人 添石綜合会計事務所
住所:沖縄県那覇市おもろまち4‐12‐9 4階
電話:098(867)4335
(会報『TKC』平成22年8月号より転載)