2000年以降、廉価をウリにするメガネチェーンの勃興で、厳しい経営を余儀なくされてきた既存の中小眼鏡店。そうした環境のなか、ここ10年間、限界利益を着実に増やしてきたサトーメガネ。その経営戦略を取材した。

佐藤泰輔社長

佐藤泰輔社長

 サトーメガネは1954年に、眼鏡卸業者(佐藤眼鏡店)としてスタートした。現社長である佐藤泰輔氏の祖父・佐藤豊三郎氏が創業者。69年に佐藤行男・現会長の入社と同時に眼鏡小売専門店(現在の本店)を開業して、現在の業態となる。

 佐藤泰輔社長は言う。

「父(先代)が取締役就任当初は年商1,800万円くらいで、これを1億円にすることが目標だったのですが、達成するのに16年もの年月がかかったと聞いています。この16年間の取り組みが結果として、その後のサトーメガネの成長の基礎をつくりました」

 1号店(現在の本店)のある神奈川県平塚市見附町は、JR平塚駅から北西に歩いて10分のところにある。開業当初は駅から店舗まで4、5店の眼鏡店があった。これら競合店を通り越して、「わざわざ足を運んでもらえる店づくり」を行男会長は考え抜いたのだという。

「父は、まだCS(顧客満足度)という言葉もなかった時代に、顧客第一主義を打ち出しました。お客さまの情報をカルテにきっちりと残し、再来店時には、名前をお呼びしてすぐに対応。また、購入していただいたお客さますべてに、手書きのお礼状を送付するようにしました。これらは今でも続けています」(佐藤社長)

 こうして、顧客ひとりひとりに正対し、ベストな眼鏡を提供する佐藤眼鏡店の社風が出来上がっていく。

多店舗化へチャレンジ

 年商1億円を達成したのが86年。そこを起点として、行男会長が次の目標として掲げたのが年商10億円だった。そのためには1店舗ではとうてい無理。多店舗化が必要となる。

「会長は眼鏡業界以外の経営者の方々の集まりや海外の視察旅行などに出かけていく交友範囲の広い人で、そうこうするうち神奈川県のショッピングセンター(SC)の社長の知己を得て、相模原のSCのテナントとして出店したのが87年のことです」

 そこから多店舗化へのはずみがつく。翌88年には、青森県青森市のSC内。89年には東京都東大和市。さらに、その2年後には、青森県弘前市のSC内に出店。その後も、神奈川県と青森県に集中して次々と出店。目標の10億円を超えたのは93年。99年には15億円超を達成した。

「なぜ青森かというと、入居しているSC同士が競合しない土地でという会長の考えでした。また、ドミナント出店の方が地域密着で知名度が上がるし、会議をする際にもすぐに集まることができます。神奈川も青森も、基幹店から60〜90分あれば集まれるところに出店するようにしました」

 とはいえ、多店舗化の落とし穴はサービスクオリティーの低下である。店舗の分散によって経営のコントロールが効きにくくなり、結果、顧客離れを引き起こしてしまう例は枚挙にいとまがない。そのため、サトーメガネでは、検眼や視力測定、フィッティング(ユーザーの顔に合わせたフレームの形状調整)の研修・勉強会をそれぞれ年に数回開催。スタッフの技術の向上・標準化に取り組んだ。

 2000年以降には、セット価格1万円以下、スリープライスの安売り店が勃興し、価格競争では勝ち目がなくなっただけに、ますますこうした取り組みが生き残りのカギとなってくる。

「当社のお客さまは、かけ心地や見え心地にこだわる方々です。レンズにしても、たとえば遠近両用の場合1万円台から10万円くらいまでの品ぞろえがあり、そこから丁寧にお客さまの合ったものを提供します。つまり、廉価を売りにする店とはすみ分けているわけです」

緻密な計数管理が奏功

 全社的な経営のコントロールという意味では、財務管理体制が整備されたのも大きかった。

 2013年、同社は税理士法人Dream24に税務顧問を依頼。専務だった佐藤泰輔氏が代表取締役社長に就任する前年のことであった。以来、自計化(自社に会計ソフトを導入して財務管理を行うこと)を進め、筋肉質の経営を志向するようになる。

 久野賢一朗顧問税理士は言う。

「サトーメガネさまは、厳しい業界環境にもかかわらず、ここ10年ほどは限界利益が伸び続けており、中小メガネチェーンとしては稀有な存在です。理由は、佐藤泰輔社長の実践されている店舗別の緻密な計数管理と行男会長時代から培ってきた経営方針の徹底に尽きると思います」

 導入した会計ソフトは『FX4クラウド』。佐藤社長によると、当初は、経理業務の煩雑さの解消のためという色合いが強かったという。

「それまでは、店舗から数字があがってきて本社で集計していたので、月初は経理担当の母が夜中まで業務を行うこともありましたが、『FX4クラウド』を導入してからは、各店舗での毎日の分散入力が可能になり、飛躍的に効率化されました」

 その後、時が経つにつれ、自計化のメリットは入力面の効率化だけではないことが明らかになってくる。店舗別の損益管理による業績のタイムリーな把握と、早期の打ち手の実践ができるようになったのである。

 サトーメガネへの毎月の巡回監査を担当するDream24の泉賢士氏は言う。

「佐藤社長は、とにかく月次の数字の早期確認にこだわりを持っておられます。店舗によって異なりますが、おおよその適正限界利益を62〜62.5%くらいに設定し、そこから上下した際には徹底的に分析することを毎月繰り返されています。多くても少なくてもそれは異常値となります」

 なぜか……。同社では、期初の「店長合宿」で佐藤社長と店長が面談し、合意の上で予算を決める。基本的に佐藤社長が独断で売上高予算の上乗せを行うことはない。高すぎる売上高予算は無理な売り方を招来し、それは同社の行動原則であるCSに反するからだ。

 こうした納得感のある各店舗の精緻な目標を積み上げた予算を、全社員が共有して達成に向かって動くので、毎月の実績の上下には、看過できない理由があるというわけだ。

CSとESを両立する

 実際、監査では、『FX4クラウド』の「マネジメントレポート設計ツール」という機能を使い、店舗別の売上高、限界利益、経費等が横並びで分かる資料を作成。それを見ながら佐藤社長と泉監査担当がさまざまな経営上の問題点を話し合う。それが翌月10日前後。さらに、第2週の土曜日には相模原市にある事務所に関東地区の店長を、第3週の土曜日には青森地区の店長を青森市に集めてこれらデータをもとにした会議を行う。

 こう記述すると、厳格な数字による管理で社員を締めつける経営のようにも見えるが、実態はまったく違う。

「当社では仕入れも値付けも店長の権限で行います。また、損益も経費も全社員にオープンにしているので、限界利益のコントロールも各店でしっかり行うことができます」(佐藤社長)

 その上、店長をはじめ評価要素に売上高や利益という数値は含まれていないというから驚く。評価基準はCSのみ。回収されたアンケート用紙の「見え具合」「かけ具合」「商品説明」「品揃え」という項目への評価とコメント内容を基準にして社員ごとの顧客満足度をはじき出す。

「売り上げは店舗によって違いますし、数字を評価基準にしてしまうと、どうしても無理にでも売ろうとするので、これはCSに反します。クレームを受けた際にも個人の特定はしません。店舗レベルの問題だと見ます」

 佐藤社長は“目先の売り上げを追うな”が会長の教えだと強調する。顧客満足を追求することが、将来の売り上げへとつながるというわけだ。

 それでも「数字は大事」と佐藤社長は言う。売り上げや利益が下がった場合、ダメなのはその理由が分からないこと。理由が分かれば手を打つことができる。しかし、それは企業全体をコントロールする経営者の役割であり、ダイレクトに社員の責に帰すわけにはいかない。佐藤社長は言う。

「社員の役割はCSに徹すること。そうすればお客さまは満足してリピートしてくれます。一方でES(従業員満足)も大事です。誇りとやりがいもって働ける職場があってこそ、CSが実践できるのだと考えています」

(取材協力・税理士法人Dream24/本誌・高根文隆)

会社概要
名称 株式会社サトーメガネ
業種 眼鏡店チェーン
創業 1954年3月
所在地 神奈川県平塚市見附町4-17
売上高 9億5,000万円
社員数 73名(パート含む)
会計システム FX4クラウド
URL https://sato-megane.co.jp
顧問税理士 税理士法人Dream24
代表社員・税理士 久野賢一朗
東京都江戸川区西葛西5-6-2
URL: https://www.hisanokaikei.jp

掲載:『戦略経営者』2024年12月号