右は税理士法人クリアパートナーズの山本清輝会長

右は税理士法人クリアパートナーズの山本清輝会長

産地直送やネット販売など、流通環境の変化による「市場」の苦戦が続くなか、姫路中央卸売市場の仲卸業者である三五屋青果は堅調な経営を続けている。指揮をとる井上智裕社長は販路拡大とシステム化をコア戦略に利益体質を構築してきた。税理士法人クリアパートナーズの山本清輝会長、山本清尊代表社員を交えて話を聞いた。

──創業は?

井上 1947年です。終戦直後のいわゆる「野市」で、祖父が生産者の方と始めたと聞いています。57年に姫路市の中心部に中央卸売市場が開設された際に、仲卸として入り、さらに昨年3月、ここ白浜町に市場とともに移転しました。

──井上社長は、姫路市場青果卸売協同組合の理事長をつとめられ、移転に際しては、同業者をまとめてこられたとお聞きしました。

井上智裕社長

井上智裕社長

井上 理事長になって7年目に移転したのですが、その間、姫路市と協議を重ね、また、各社のバランスをとりながら、結果的にはみなさんに協力していただいて、無事、移転することができました。

──入社されたのは?

井上 大阪の市場に勤務していて、帰ってきたのが96年でした。当時は取引先が99%量販店。これではリスクが大きいと営業力を強化し、飲食店をはじめ、幼稚園や小学校、病院の給食用にも青果を卸すようになりました。現在は、金額ベースで量販店60%、量販店以外が40%という割合になっています。

──年商も右肩上がりですね。

井上 帰ってきた時の売り上げが約3億6,000万円。その後、2006年に代表に就任し、2010年時点で6億4,000万円ほど、全盛期で10億円弱です。現在は、コロナ禍でやや落ちたので約9億円となっています。業界では決して大きくない額ですが……。

──仲卸業者は構造的に苦戦が続いていますが、成長を続けてこられた要因は?

井上 初期の頃から量販店を取引先に抱えていたことと、飲食店や給食など他の分野にも進出して、収益の柱を分散してきたのが良かったのではないでしょうか。近隣の取引先には、キュウリ1本、トマト1個から、自社便を活用しながらフットワーク良く配送している点も評価いただいているのだと思います。

──仕入れ能力にも定評があります。

(上)2023年3月に移転した姫路市中央卸売市場、(下)市場内の店舗

(上)2023年3月に移転した姫路市中央卸売市場
(下)市場内の店舗

井上 地元の同業者をはじめ、高知や宮崎など各産地との連携を深め、あるいは全国の市場との市場間流通を通して農産物を直接買い付けるルートを持っています。こうした多角的な仕入れを行えるところも当社の強みです。

──BtoCにも取り組んでおられるとか。

井上 卸売市場法によって当社はBtoBしかできないので、グレースファームという別会社を設立して、地元の生産者と相談しながら農作物をつくり、量販店の売り場を借りるなどして直販しています。このように、BtoBだけではなく、BtoCを行うことで消費者の声を吸い上げることができ、それを商品企画に生かしているのも当社が他社と違うところかもしれません。流通の多様化が進み、卸売事業だけではなかなか厳しいですからね。

──最近では生産性の向上にも取り組んでおられるとお聞きしました。

井上 コロナ禍では、市内の飲食店からの注文が激減しましたが、それでも少量の配送便の準備はしておかなければならないのでコストが積み上がり、赤字となってしまいました。その対策として、さまざまな合理化を行っていますが、「働き方改革」として、仕事のやり方を根本から見直したのもその一つです。たとえば、帰宅時間を決めて残業を申請制にし、仕事の内容をお互いに透明化することで意識改革につなげました。2年前からそうした取り組みを続け、今では赤字から脱し、黒字を計上することができています。

設備投資による合理化で利益体質を構築する

──税理士法人クリアパートナーズと顧問契約を結ばれたのは?

井上 私が社長に就任してまもなくの08年くらいだったと思います。私の同級生が山本清尊先生のいとこだった関係で、紹介してもらいました。それまでは、年次決算の時に初めて黒字か赤字かが分かるといった状態でしたが、山本清輝先生と清尊先生に経理を見てもらうようになってから、タイムリーに月次の数字が確認でき、また、相続や資金繰りについても気軽に相談できるようになりました。

山本清尊税理士

山本清尊税理士

山本清尊 関与当初は紙ベースでの経理処理だったので、まずは『FX2』を導入して自計化(会計ソフトを導入して自社で経理処理を行うこと)し、給与計算も『PX2』(戦略給与情報システム)で、それまでの手書きの処理から転換しました。さらに、2年前に『FX2クラウド』にバージョンアップしました。

山本清輝 当時は市場が当事務所のすぐ近くにあったので、井上社長は、毎月のように経営相談にこられました。その際には、経営データはもちろんBAST(TKC経営指標)で同業他社の数字なども参考にしながら、改善すべきところを説明するなど、アドバイスをさせていただいていました。

井上 いつも的確な助言をいただいていて、ありがたく思っています。相談を持ち掛けると、すぐに対応してくれるので、とにかく安心です。

──『FX2クラウド』の機能面はいかがですか。

仕入れ能力に定評

仕入れ能力に定評

井上 経理は私の妻が担当しているのですが、やはりインボイス対応には助けられていると聞いています。

山本清尊 『FX2クラウド』では、仕入先が適格請求書発行事業者かどうか取引先名から自動判定し、13桁の登録番号を手入力する必要がなく、また、すべての課税仕入れを自動チェックし、修正が必要な仕訳を一覧表示してくれますからミスがない。これは大きいと思います。

井上 取引金融機関から取引データを自動受信し、そのデータをもとに仕訳を簡単に計上できる「銀行信販データ受信機能」もとても便利です。入力作業が大幅に減りました。

──証憑保存機能も使われています。

井上 この機能を使えば、PDFなどの電子取引データを読み込み、そのまま『FX2クラウド』に連携して仕訳入力に活用できるので、「紙」が劇的に減りました。帳簿が電子化されたこともあって、昔は棚に証憑類などのファイルがあふれていたのですが、今は見違えるようにすっきりしています。

山本清尊 井上社長はTKCシステムに理解があり、積極的に導入してくれたので指導する側としても助かりました。人員的にもかなり合理化が進んだのではないでしょうか。

──経理以外の設備投資にも熱心だそうですね。

井上 17年と20年に自動パッケージングシステムと自動計量器を購入しました。その際には、認定支援機関である山本先生の事務所の支援を受けながら、中小企業経営強化税制を活用することで、約800万円の設備投資を即時償却することができました。これは当社にとって大きかったですね。また、数年前には、取引先が当社にスマホで簡単に発注できるオーダーシステムを自前でつくり、現在では仕入れデータなどとともに販売管理システムに一元的に取り込めるようにしています。

──今後はいかがでしょう。

新設された白浜センター

新設された白浜センター

井上 われわれの仕事は、消費者の「食」を支えています。それだけに、同業者と協力しながら、安定性を高めていく必要があると考えています。

山本清輝 井上社長は、姫路市場青果卸売協同組合の理事長を長年つとめておられるように、同業者からの信頼はとても厚く、また、実際に組合の資金繰りも劇的に改善されました。今後も、リーダーシップをとって、自社はもとより業界の発展に貢献していくことが期待されます。

井上 そうですね。同業者と知恵を絞りながら情報交換していき、姫路市中央卸売市場とともに成長していきたいと考えています。売り上げは10億円がとりあえずの目標ですが、売り上げだけにこだわるのではなく、利益を考えた経営をし、「丁寧な商売」を心掛けていきます。

(取材協力・税理士法人クリアパートナーズ/本誌・髙根文隆)

会社概要
名称 三五屋青果株式会社
業種 青果仲卸
創業 1947年4月
所在地 兵庫県姫路市白浜町甲1920-54
売上高 約9億円
従業員数 26名
URL https://himeji-yasai.com
顧問税理士 税理士法人クリアパートナーズ
所長 山本清尊
兵庫県姫路市延末1-73-1
URL: https://yamamoto.tkcnf.com

掲載:『戦略経営者』2024年3月号