コロナ禍を緊急融資等の支援策で、なんとか乗り切りつつある中小企業が次に迎えるのは「大返済時代」。収益力アップに取り組みつつ、しっかりとした資金繰り計画を策定するなど万全の体制でのぞむ必要がある。
- プロフィール
- かとう・ひろふみ●2001年、弁護士登録し、阿部・井窪・片山法律事務所入所。07年8月、中小企業再生支援全国本部プロジェクトマネージャー。19年4月、同副統括プロジェクトマネージャー。21年1月、同統括プロジェクトマネージャー。22年4月、中小企業活性化全国本部統括事業再生プロジェクトマネージャー(現任)。
──感染症の流行から2年以上が経過しました。中小企業の現状をどう見ておられますか。
加藤 ひとつは、コロナ関連融資などの支援策によって緊急避難的に事業をつないでいくという状況。これは現在進行形です。一方で、激変する環境下で収益を上げていくための取り組みが求められていて、国や支援機関、あるいは一部の中小企業もそちらの方向に徐々に舵(かじ)をとりはじめています。さらに言えば、今後、過剰になっている債務をどう整理していくかという課題もある。事業再生、金融支援が必要な企業も増えていると思います。
──いよいよ厳しくなってくるということですね。
加藤 今の時点では、雇用調整助成金やゼロゼロ融資(実質無利子無担保融資)も継続されています。また、税金や社会保険料の納付猶予や、金融機関の条件変更などへの柔軟な対応もあり、企業の破綻が目立って増えているということはありません。しかし、これら支援策はいつ終わるか分からないものですし、コロナ関連融資にしても、いずれ据置期間が終わって返済が始まります。今のうちに収益力の改善に取り組まないと手遅れになります。
まずはアクションプランから
──経営改善に取り組む際の考え方は?
加藤 とにかく一日も早く取り組むことです。「いずれ終わる支援」にいつまでも寄りかかっていてはいけません。金融機関の方々からは、事業再構築や収益力改善に積極的に取り組んでいる経営者と、コロナ融資によって資金繰りが一息ついて安心している経営者とに二極分化しているという話をよく聞きますし、われわれもそう感じることがあります。前者が増えるようにしていく必要があります。
──何から始めればよいのでしょう。
加藤 収益を上げるべくアクションプランを策定してください。現状を認識しつつ課題をみつけ、既存事業を環境に応じたものに変更、再構築するのです。その際に大事なのは、プランをつくるのは経営者であるということ。自分で考え、自分で実行する必要があります。
──返済開始を見据えた資金繰り計画も重要なのでは?
加藤 私は数字が先ではないと思っています。資金繰り計画から入ってしまうと、不可能なことをつい描いて、結果的に「絵に描いた餅」になってしまう可能性がある。まずは何に取り組むべきなのかを経営者自らが考えること。そして、その上で、収益がいくら見込めるかを算定することが大事です。
──その収益では返済に間に合わないケースは?
加藤 アクションを起こすことで、たとえばコロナ禍前の売上高を100だとすると、コロナ禍後に60まで落ちたものを80にまで戻すことができるとします。もちろん、アクションプラン策定後には、どこにいくらコストがかかるかを考えて利益を算定します。つまり、あくまでアクションプランが先にあり、それを資金繰りに反映させるのです。その上でリスケが必要なら金融機関に支援をお願いするという順序が正しいのではないでしょうか。
「早期」の相談にも対応
──中小企業経営者のなかには、アクションプランをどうつくったらよいのか分からない方もおられるようです。
加藤 アクションプランをつくるのはあくまでも経営者というのは大前提です。が、もし、つくり方が分からないなら、まずは顧問税理士や金融機関といった伴走支援をしてくれる方たち、さらには中小企業診断士やコンサルタントなどの事業面での専門家のサポートを仰ぐことも考えてみてください。
ちなみに、中小企業活性化協議会は、従来の特例リスケジュール支援から収益力改善にシフトした新たな支援を4月1日から開始しました(『戦略経営者』2022年6月号P10図表参照)。ここでも、収益力改善に向けた計画(アクションプラン等)の策定支援からスタートし、資金繰り計画の策定、さらに金融支援が必要な方にはリスケに向けた金融機関との調整という順序で支援しています。従来からある「経営改善計画策定支援」(405事業)や「早期経営計画策定支援」(ポスコロ事業)といった国の事業にも、協議会が深く関わっていきます。
──4月に改組(中小企業再生支援協議会と経営改善支援センターを統合)されたとのことですが、何が変わったのでしょう。
加藤 一番の違いは、金融支援の必要がない企業の「早期」の相談に対応するところです。たとえば図表(『戦略経営者』2022年6月号P10)の①がそれに当たります。収益力改善と事業再生に再チャレンジを加えて一元的に支援することで、幅広く中小企業のニーズに対応していく体制を整えました。
──これまで、さまざまな支援を手がけてこられたと思いますが、コロナ以降の印象は?
加藤 コロナ後の協議会の取り組みとしては、まずは資金繰りをつなぐこと。これは国も金融機関も保証協会も一枚岩でやってきて、この2年間、ある程度倒産や廃業を抑えることができたのだと思います。また、スポンサーに会社を引き渡して、とにかく事業だけは守るという動きも増えているようです。金融支援をともなうM&Aのようなものですね。
──第3者承継の増加で、中小企業の事業承継問題に光が見えてきたという声もあります。
加藤 経営者の高齢化の問題はまだまだ続いています。コロナによる先行き不透明感が強まるなか、廃業を決断する中小企業経営者は増えつつあり、そのため、地域経済の疲弊に拍車がかかるのではないかという危惧もあります。「今のうちに会社を閉めた方が迷惑がかからないのでは」という経営者の思いは極めて自然です。だからこそ、M&Aを含め「事業を守る」方法を模索することが重要になってくるのです。各支援機関や当協議会がそれをサポートしていくことが重要だと思います。とはいえ、経営者が廃業を決断するより前の段階で支援することが理想ですが。
「壁打ち」の相手をつくる
──話を戻します。アクションプランは具体的にどう策定すればよいのでしょう。
加藤 それは一概には言えません。おかれた環境や地域、都心なのか地方なのか、どの業種なのかによって違ってきます。ただ、たとえば、コロナ禍によって減少した「人の移動」が、今後どこまで戻るのか、あるいは人の暮らし方、働き方、余暇の過ごし方がどう変わるかなど、仮説を立てて対策を考えることが必要になってくるのは確かでしょう。とはいえ、誰にも正解は出せないと思います。最後は経営者が経営判断をしていくしかありません。
──経営者にとって大変な仕事ですね。
加藤 だからこそ「壁打ち」が大切になってきます。
──壁打ち……ですか。
加藤 はい。経営者がひとりで悶々(もんもん)と考えるのではなく、「私はこう思うけどどうか」などと相談する相手。それが壁打ちの壁であり、税理士や金融機関、中小企業診断士あるいは当協議会などの支援機関だと思います。アイデアを出して実行するのはあくまでも経営者です。しかし、支援機関も過去の経験からさまざまなノウハウを蓄えているので、少なくともヒントを示唆することくらいはできます。経営者にとっては背中を押す大きな力になると思います。
社長に「気づき」を与える存在
──支援機関の役割は大きいということですね。
加藤 支援機関の役割は2つあります。ひとつは今述べた「壁打ち」ですが、もうひとつは経営者に「気づき」を与えることです。たとえば顧問税理士であれば、売り上げや利益が減った際に「今後、どうするおつもりですか。雇用調整助成金がなくなったら大変ですよ」などと気づかせてあげる。経営者は業務にかかりっきりになるあまり、ともすれば前方が見えなくなってしまっています。こうした状況で早めに気づきを与えることが、支援機関の最大の役割だとおもっています。
──「気づき」が遅れると、それこそ手遅れになってしまうということですね。
加藤 もし、金融支援が必要だと感じたら、積極的にリスケを要請してください。リスケも早ければ早いほどいいと思います。資金繰りに汲々としていたら経営改善に集中できなくなります。大半の中小企業は、社長ひとりで経営していて、「財務部長よろしく」というわけにはいきませんからね。事業再構築を行うにしても、設備投資等が必要だったりします。つまりお金がいるのです。その意味でも返済猶予や条件緩和によってキャッシュに余裕を持たせ、経営に傾注する体制をつくることが重要になってきます。
私は、この「気づき」を与える役割に最適なのは、経営に伴走している税理士や金融機関の方々なのだと思っています。
中小企業経営者の方々は、少しでも不安を感じたら、近くにいる税理士や金融機関、当協議会のような支援機関にご相談いただければと思います。
(インタビュー・構成/本誌・高根文隆)