2017年1月号Vol.105

【特集1】──マイナンバーは大変革の一部に過ぎない
IoT時代の行政サービス

【講師】東京大学大学院情報学環教授 須藤 修 氏

 『日本再興戦略』の重要施策にも挙げられるIoT。これは単なる“IT活用の高 度化” にとどまらず、さまざまな分野で新たなサービスを生み出し、人々の生活 や行動を変える大変革の動きだ。その影響はすでに行政サービスにも及んで いる。須藤修・東京大学大学院情報学環教授の講演(弊社50周年記念感謝祭 記念講演)と海外視察レポートから、IoT時代の行政サービスを考える。

TKC創業50周年記念感謝祭 記念講演
「マイナンバーと行政サービスの高度化──インダストリー4・0を超えて」

向井治紀(むかい・はるき)

須藤 修(すどう・おさむ)
1955年生まれ、1985年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士(東京大学)。静岡大学助教授、東京大学助教授を経て、1999年4月より東京大学教授。2012年4月、東京大学大学院情報学環長・学際情報学府長(〜2015年3月)。「個人番号カード・公的個人認証サービス等の利活用推進の在り方に関する懇談会」座長、「AIネットワーク化検討会議」座長など政府の各種委員会等へも多数参加。

 いま、世界では「インダストリー4・0」(第4次産業革命)が進行している。もともとは、ドイツ政府が打ち出した製造業の高度化を目指す戦略的プロジェクトで、これを追随して各国が官民を挙げた取り組みを始めている。そして、これを支える技術の一つが「IoT」(あらゆるモノがインターネットでつながること)だ。
 いまやIoT革命の波は全世界に広まり、さまざまな産業へ影響を与え、経済や社会のあり方さえ変えていく可能性を秘めている。われわれはそうした大展換期の真っただ中にある。
 日本で取り組みが進められている「マイナンバー」も、そうした大変革の一つの動きといえるだろう。

世界中で起こるIT活用の〝地殻変動〟

 そうしたIoTの〝核〟となるのが「人工知能」(AI)だ。

 これまでのAIは単体で機能し、人間の活動を支援してきた。例えば、東京大学医科学研究所ではAIを活用してがん研究を進めている。この研究には、2000万件を超える膨大な医療文献が欠かせない。人間には一生かけても読むことは難しいが、AIであればこれを短時間に、簡単に読むことができる。AIが、がん研究のスピードアップに大きく貢献しているわけだ。実際にAI分析による適切な治療で、命が救われた事例も登場している。

 今後は、AI相互間のネットワークが形成されていくことになる。例えば、いま各国の自動車メーカーがAIを活用した自動車の自動走行の研究に取り組んでいるが、現状では連携することはできない。しかし、実用化に向けてはAI同士がネットワークでつながり連携・協調し、メーカーの仕様が異なっても自動車同士が互いにコミュニケーションをとれるようにする必要がある。

 AIは、さまざまな分野・用途に利用されていくことだろう。野村総合研究所のレポートによれば、2030年には日本の労働人口の約49%がAIに置き換わる可能性があるという。しかし、これからの未来は人間とAIが共存する世界としていかなければならない。そのためにも、AIが社会や経済などにもたらす影響やリスクの評価、倫理的・法的な課題などを総合的に検討することが重要だ。

 総務省情報通信政策研究所は、2016年2〜6月まで「AIネットワーク化検討会議」を開き、AIネットワークの進展を通じて目指すべき社会像として人間中心の「智連社会」を掲げ、当面の課題点などを整理した。その成果は『AIの研究開発に関する8原則』として、4月末に行われたG7香川・髙松情報通信担当大臣会合でも公表され、各国から高い評価を得た。今後はOECD等で国際的な議論が進められることとなっている。

 また、10月21日には、AIネットワーク化検討会議を発展的に改組し、新たに「AIネットワーク社会推進会議」を発足。その議長も、引き続き私が務めることになった。ここでは社会や経済に与える影響やリスクを踏まえ、来夏までにAIの研究開発にあたって留意する事項などをまとめたガイドラインを作成する計画だ。

 このようにIoTを巡る動きはすさまじい勢いで進み、これからはさまざまな分野でイノベーションが起こっていく。われわれも、これに対応していかなければならない。

 イノベーションとは新たなモノの発明だけではない。モノや仕組みなどに、これまでとは異なる技術や考え方を組み合わせて新たな価値を生み出し、社会的に大きな変化を起こすことも含まれるのだ。努力をすれば、誰にでもイノベーションを起こすことができる。

 アメリカ国立科学財団元長官のリタ・コルウェル博士は以前、東京大学大学院入学式の祝辞で「もはや学問の垣根はない」と語った。つまり、学問分野の枠にとらわれず、学問と学問の間をつなぐ領域の追求が重要だと。これは行政サービスや企業の仕事でも同じことがいえるだろう。他人の真似ばかりしていても、もはや時代についていくことはできない。

行政サービスの高度化が始まった

講演の様子

  2017年7月には、情報連携やマイナポータルがスタートする。これにより、ネットワーク上でいろいろなサービスが実現されていく。行政サービスの高度化が始まるのだ。

 情報連携は、対象となる個人情報を各利用機関の既存システムから中間サーバーへ収載し、他の自治体等から照会があると自動的に提供される仕組みだ。接続されるのは地方公共団体に加え、国税庁と日本年金機構が予定されている。なお、2015年に発生した情報流出事件により年金機構の利用は当面延期となっているが、これが接続されるとすべての税と社会保障関係のデータ交換が可能となる。

 また、中長期的な構想として、さらなる効率化・利便性の向上が見込まれる分野での利用範囲の拡大も検討されている。その一つが、地方公共団体の利用事務の拡大だ。また、マイナポータルを一つのインフラとして、民間企業と連携したさまざまなサービスを提供することも考えられている。

 マイナンバーカードについては、ICチップの空き領域を、印鑑登録カードや図書館カードなど市区町村独自のサービスに利用できるようになる。加えて、カードの利用で注目されるのは、電子証明書(署名用電子証明書、利用者証明用電子証明書)であろう。大臣認定を受けることで、民間事業者も電子証明書による公的個人認証サービスを利用することができる。これにより今後は、マイナンバーカード(電子証明書)がマイナポータルやインターネットにログインする際の本人確認の認証手段として普及していくことになるだろう。そのためにも、まずはカードを取得していただきたい。

 ただ、本人確認手段として利用するには現状ではカードリーダーが必要となる。これについても、もっと手軽に利用できるようスマートフォンに読み取り機能を持たせる検討が進んでいる。加えて、利用端末として今後はテレビも一般化されるなど、ますます使いやすい環境が整うことになるだろう。

 さらに、情報連携とともに7月からスタートするマイナポータルは、①自己情報表示、②情報提供等記録表示、③お知らせ情報表示、④ワンストップサービス、⑤電子私書箱、⑥電子決済サービス──の六つの機能を持つ。

 前半の三つは、住民個人が「行政が持つ自分の特定個人情報」「情報連携を通じた住民情報のやり取りの記録」などを確認できるほか、行政機関からのお知らせを受け取れるようになる。また、ワンストップサービスは、例えば引っ越しの際に必要となる各種行政手続きをまとめて可能とするものだ。将来的には電気やガス、金融機関など民間機関への手続きもここから行えるよう実証事業が進められている。

 この六つの機能の中で、ポイントとなるのが電子私書箱であろう。これは行政機関や民間企業からの重要書類を受け取るための〝電子的な郵便受け〟だ。例えば、これまでハガキで届いていた確定申告に必要な生命保険料控除証明書や住宅ローン残高証明書を、電子私書箱で受領・保存できるようになる。受取人が書類を開封したかどうかを確認できる仕組みもあるので、書類を送付する側(行政機関や企業)にも利用しやすい。これについても国は相当力を入れている。

 さらに、電子決済サービスは、ネットバンキング(ペイジー)やクレジットカードで公金決済を行えるようにするものだ。仮想通貨への対応の研究も始まっている。近い将来、マイナンバーカードを健康保険証として利用することが計画されており、そうなると医療費の決済手段としてもカードが利用されるようになるだろう。

市区町村に求められること

講演の様子

 総務省では、これまでにもマイナンバーカードの利活用促進に向けて、さまざまな実証事業を行ってきた。今年度の実証事業ではマイナンバーカードの活用に加え、公的個人認証とIoT、スマートフォン、データ分析が焦点となっている。

 その一例として、スマートフォンにマイナンバーカードの利用者証明機能を搭載し、これを活用する実証事業を開始した。これにより、カードを使わずにスマートフォンですべての手続きを行えるようにしたいと考えている。

 また、災害情報伝達手段等の高度化事業も実施する。これは、災害時にテレビ画面から特定の個人に対して緊急避難を呼び掛けるものだ。避難の際には、マイナンバーカードを持参してもらう。避難所では、マイナンバーカードと行政が持っているレセプト情報などを関連付け、その住民の持病などに応じて必要な医薬品を届けるといった仕組みを構築する。

 これらの検討体制は、私が座長を務める「個人番号カード・公的個人認証サービス等の利活用推進の在り方に関する懇談会」の下に二つのWGを設置して推進している。ぜひ今後の動向に注目していただきたい。

 また、2016年9月には総務大臣から「マイナンバーカードを活用した住民サービスの向上と地域活性化の検討について(依頼)」が示され、市区町村へ「コンビニ交付」「マイキープラットフォームを活用した地域経済応援ポイント」「マイナポータルを活用した子育てワンストップサービス」の早期導入を求めた。

 マイナンバーを、住民にとって本当に便利なインフラとしていくには、市区町村の果たす役割が大きい。

 しかし、その取り組みにあたっては、情報セキュリティーの確保が極めて重要となる。残念ながらセキュリティーに〝絶対の安全〟はない。IoT時代を迎え、サイバー攻撃などのリスクは一段と高まることだろう。そのなかで大切なのは被害を最小にすることだ。それには指揮命令系統をしっかりつくれるかどうかにかかっている。あらためて『特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン』を確認し、ダメージコントロールのための体制を整備していただきたい。

 加えて、クラウドサービスの活用も欠かせない。TKCでは自治体や企業向けにクラウドサービスを展開しているが、そうした官民連携で技術やサービスを進化させていくことが重要であり、ますますの取り組みを期待する。

※掲載の内容、および当社製品の機能、サービス内容などは、取材当時のものです。

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