【特集2】──マイナンバーは大変革の一部に過ぎない
IoT時代の行政サービス

海外電子行政視察レポート
「欧州ICTスマートタウン最新動向調査」に参加
【期間】2016年10月22〜26日

 2016年10月22〜26日、ヨーロッパ3カ国を訪問する「欧州ICTスマートタウン最新動向調査」に参加。今回のツアーでは、情報セキュリティーやスマートシティに関わる先進企業・機関を視察しました。

医療データ連携

 医療データ連携については、オランダの国立医療情報学研究所(Nictiz)と医療通信のための医療機関団体(VZVZ)の説明を受けました。

 オランダの医療サービスは欧州でナンバーワンの評価を得ており、それを支えているのが個人の医療関連情報を共有する医療情報連携基盤(EHR)をベースとしたITインフラです。ここではかかりつけ医が患者本人の同意を得て医療情報をEHRに登録し、それを専門医と共有します。人口1700万人のうち1000万人がEHRに登録しており、その比率は欧州トップです。Nictizがデータ標準を策定し、VZVZが民間団体としてITインフラを運用しています。

 このように先進的な医療情報基盤を運用する一方、課題もあります。

 まず、かかりつけ医と専門医のレベル差が大きい上に、データ利活用範囲に制限があることから、データの再利用はイギリスなど先進国ほど進んでいないとのことです。また、国主導の統合データベース化は2011年に国会で否決されましたが、今年、患者本人の情報コントロール権を認める法律が成立し、活用の見通しが立ちました。とはいえ、医師の反発と個人情報保護への懸念が強く、EHRの多面的な利用への道のりは険しいようです。

 国民のさまざまな自由が認められているオランダでも、こうした感情的な障壁によってEHRの進捗が遅れていることが意外でした。

ビッグデータ分析と予測

講演の様子

トムトム社による地図情報サービスの プレゼンテーション

 オランダのトムトム社は、カーナビやスポーツウォッチなどGPS製品とともに、地図情報の提供サービスを手がける企業です。

 同社の地図情報サービスは道路地図だけでなく、渋滞や事故情報、ライブカメラ、駐車場・天気などの関連情報も提供し、世界52カ国に展開しています。同社のモバイルアプリやカーナビによって走行中の自動車から位置情報を取得し、走行状況を分析して渋滞情報を生成しています。更新頻度は30秒おきです。また、取得した情報を活用した付加価値サービスも提供しています。例えば個人ごとに一定期間の走行パターンを分析し、渋滞を避ける最適ルートを提示するなどで、ここにAIが導入されています。

 今後は、自動運転に注力し、これに必要となる三次元地図データの提供を進めます。車載機器の容量や性能を考慮し、路面部分以外を二次元に変換して提供する技術がポイントとのことでした。

サイバーセキュリティー

講演の様子

SQRシステムズ社によるシステムデモの様子(写真左)と、同社技術を監視カメラで利用したイメージ(右)

 オランダのハーグ・セキュリティー・デルタは、欧州最大の情報セキュリティー企業体です。ハーグ市にはセキュリティー関連企業や研究所が多く、1万4000人の人材が集積しているそうです。

 同市のデロイト・オランダ社で、顧客のネットワークを模擬アタックするハッキングチームの説明を受けました。また、IoTや産業・社会インフラなど特定分野に特化したセキュリティー製品も印象的でした。

 一方、イギリスのSQRシステムズ社では、暗号化と圧縮の組み合わせを核として、データの特性に応じた技術を開発していました。例えば、監視カメラでは顔だけを高精細化し、他の部分を低解像度とすることで低速回線を有効活用できます。この点、前述のハーグ・セキュリティー・デルタでは、産業制御分野の製品や、空港・港湾等でテロリストを瞬時に認識する画像処理製品の説明がありました。

 ドイツでは、ICカードやSIMカードのチップの世界的メーカであるジェマルト社を訪問しました。同社はカードだけでなく、電子政府基盤や出入国管理等のソリューションも提供しています。

スマートシティ

 スマートシティとは、ITや環境技術を駆使して街全体の省資源化を徹底する環境配慮都市のことです。電力制御、交通制御などの要素技術をITで統合します。

 ドイツのフラウンホーファー研究機構は、欧州有数の大規模研究機関です。ここでは、「モーゲン・シュタット・イニシアティブ」(明日の都市構想)を進めており、欧州を中心に12の都市で、16の企業と提携してスマートシティ計画を推進しています。機構の支部を拠点として、都市間の人的ネットワークを構築するとともに、スマートシティの要素技術や評価フレームワークを提供しています。

 同じくドイツのシーメンス社では、ウィーンと地元ミュンヘンでスマートシティ計画に携わっており、パートナー都市と中長期のビジョンを策定して計画を推進していました。同社は、都市と企業がともに持続可能となるエコシステムを構築するためのフレームワークを提供しているとのことでした。同社が得意とする電力技術や交通技術は、スマートシティに不可欠の基盤となっています。

◇   ◇   ◇

 今回視察した企業や機関は、広い意味ではIoT(モノのインターネット)というテーマに関わります。社会のあらゆる分野のデータ、あるいは、さまざまなモノが生成するデータ。こうした多種大量のデータが集約・分析されることで、社会全体が効率化されるとともに、新たなサービスや産業が創出されます。今回の視察では、こうした社会的変革の最前線を目の当たりにすることができました。

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