2023年7月号Vol.131

【特集】先進団体の取り組みに見る「書かない窓口」成功のポイント

窓口業務改革の一環として
「書かない窓口」の導入を検討する自治体が増えている。
期待するのは〈住民サービス向上〉と〈業務の効率化・最適化〉だ。
そこで先進団体の事例を参考に、成功のポイントを考える。

 今年5月、総務省は『地方公共団体における行政改革の取組』を公表した。筆頭に掲げたのが「窓口業務改革」で、行政手続きは対面の紙申請から非対面の〈オンライン申請〉にシフトするとともに、対面でも〈書かない窓口〉が進み、窓口業務改革の動きが多く見られるようになった──と述べている。
 特に、書かない窓口の普及は顕著で、「窓口DXSaaS」構想なども追い風となって、今後〝行かない・待たない・書かない〟サービスの普及は一段と加速することが想定される。

書かない窓口の効果

 自治体にとって書かない窓口を導入する効果は、①住民サービスの向上、②業務の効率化、③業務の適正化、の三つ。このうち、業務の適正化とはミスの軽減や、業務に不慣れな職員でも適切な対応が可能──などだ。では、業務効率化の効果はどうなのだろうか。
 TKCでは今春、基幹系システムを利用するお客さまの協力を得て「引越し手続オンラインサービス(引越しワンストップサービス)に関するヒアリング調査」を実施し、書かない窓口(かんたん窓口システム)活用効果の定量・定性分析を試みた。
 図表は、転入手続きにかかる業務フローと平均処理時間をまとめたもの。ここにある〈未導入団体〉とは紙ベースの処理が含まれるアナログ/デジタル混在型で、〈導入団体〉は転出証明書情報などの申請データを窓口でも活用するデジタル完結型だ。
 これを見ると、いずれの場合も引越し手続オンラインサービスの開始で、転入手続きにかかる処理時間が短縮されたことがわかる。削減効果は当然ながらデジタル完結型の方が高い。工程別で見ると最も大きな差が生じたのが転入届の「内容修正」で、3倍以上の差となった。ここにアナログ/デジタル混在型の大きな課題が隠れている。
 新サービスにより、住民はマイナンバーカードがあればマイナポータル経由で転出届と転入予約が行えるようになった。しかし、これを受ける転入地側では多くの場合、申請データを窓口システムと連携しておらず、住民が転入手続きに来た時には転入届を印刷して修正・確認をしているのが実情だ。中には処理の混乱を避け、オンライン申請をした住民にも従来どおり紙の転入届に記入・提出してもらうケースもある。この場合、「オンライン申請したのにまた書くのか」といった住民の不満にもつながっているのだ。
 今後、サービスの利用者数は確実に増える。そこで今春以降、書かない窓口を整備して申請データの活用を検討する自治体も目立って増えてきた。

写真左から、安孫子課長補佐、佐々木主任、横倉課長、赤塚課長補佐

三つの成功ポイント

 さて、特集では「かんたん窓口システム」を活用して、書かない窓口を実現する山形県天童市と兵庫県伊丹市の事例を取り上げた。
 同じシステムを活用していても、サービスの運用タイプは〈基幹系システムとの連携を軸にスタートした天童市〉〈オンライン申請と組み合わせた窓口改革を進める伊丹市〉と異なっている。また、今号では紹介できなかったが、A市(人口13・7万人)のように〈全ての窓口で一斉に書かない窓口を実現〉した例もある。このように自治体の考え方などによって運用タイプの違いはあるものの、いずれにも共通するのは住民と職員双方の視点から業務改革を進めていることだ。
 国は書かない・待たない・回らない「ワンストップ窓口」(総合窓口)の実現を提唱するが、実現には多くの課題がある。この点、先進事例の2市では、窓口の形態ではなく〝顧客体験の向上〟を重視していることに注目したい。また、「証明書等の交付はセルフサービスでもできる環境を整備」(天童市)や、「オンライン申請による事前申請」(伊丹市)など、そもそも窓口の混雑緩和にも取り組んでいるのだ。さらに、マイナンバーカードを持っていない人にもデジタル化の利便性を実感してもらうことを志向するとともに、長期的には、おくやみや福祉業務での活用拡大なども視野に計画的な活動としている。
 小誌ではこれまでにも数多くの先進団体の事例を紹介してきたが、ここから三つの成功ポイントが見えてくる。

1.住民サービス向上と職員の業務効率化・適正化という明確な目的の共有

2.DX推進部門と各部門の協働体制

3.継続的な業務改革への取り組み

 業務改革に終わりはなく、サービスも時代環境とともに変化する。そうした変化にも柔軟に対応できるシステムを選ぶことも重要なポイントだ。
 本号で紹介した2市をはじめ先進団体では、計画推進にあたってさまざまな総意工夫にも取り組んでいた。これらの事例から、自分たちに合う窓口業務改革の成功のヒントをぜひ見つけ出していただきたい。

先進団体の事例はこちらからご覧いただけます

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