2023年7月号Vol.131
【先進事例1】利用者目線で県内初の書かない窓口をスタート
かんたん窓口システム+基幹系システム > 山形県天童市
市民部市民課 課長 横倉ひとみ 氏 / 健康福祉部保険給付課 課長補佐兼国保医療係長 安孫子有里 氏
総務部総務課 課長補佐(情報システム担当)兼情報システム係長 赤塚忠広 氏 / 市民部市民課 市民係 主任 佐々木若菜 氏
- 住所
- 山形県天童市老野森1丁目1番1号
- 電話
- 023-654-1111
- 面積
- 113.02平方キロメートル
- 人口
- 60,868名(2023年5月1日現在)
──今年1月の基幹系システムの稼働に続き、2月には県内初となる「書かない窓口」をスタートしました。
安孫子 サービスを導入した要因は、市民と職員双方の〝負担〟の軽減です。
市民の視点では、初めて住所の異動手続きを行う方も多く、その場合は「どの申請書を提出するのか」ということから迷います。また、申請書に住所や氏名を何度も記入する手間がかかるだけでなく、市民の中には手書きが苦手な方もいらっしゃいます。そのため、窓口を利用する全ての市民の方の負担軽減を図りたいと考えていました。
一方、職員の視点では正確なデータ作成が挙げられます。特に、住民基本台帳のデータは収納や児童手当の案内通知など事務処理の基礎となるもので、例えば「〇番〇号」と「〇番地〇」の違いなどを正しい表記で入力します。申請書の内容を正しい表記に修正するため、何度か住民の方を窓口にお呼びしたり、窓口担当職員と記録担当職員との間で確認することも多くありました。また、マイナンバーカードなど行政のデジタル化が進展する中で、データの正確性を一段と向上することが不可欠で、それに伴う住民と職員の確認作業等の負担をいかに軽減するかも課題でした。
重視した「データ」正確性の向上
──現在の利用状況を教えてください。
安孫子 天童市では基幹系システムとの連携を前提としたため、「かんたん窓口システム」を活用して市民課の手続きからスモールスタートしました。
サービス開始に合わせて、住所の異動届と国民健康保険の加入・脱退届の申請書の用紙を記載台に置くことをやめました。現在は、転入・転出(転居)届の住所異動届は、書かない窓口で住民と窓口担当職員がタッチパネル等で入力したデータをそのまま住民基本台帳に取り込み、記録担当職員が確認と修正を行っています。これにより、入力されたデータは住民と窓口担当職員、記録担当職員、さらに別の記録担当職員の〝4人の目〟でチェックされ、正確性の向上につながると考えています。
また、転入届の際に住民票の写しの交付や印鑑登録を希望する方の申請書作成のほか、国民健康保険への加入・脱退届、出生の戸籍届に伴う住民基本台帳の異動、マイナンバーカードの申請──なども、書かない窓口で対応できます。
さらに、コンビニ交付サービスと同じように、マイナンバーカードを使って各種証明書の交付申請が行えるタブレット端末を設置しました。
──導入にあたって苦労した点は。
佐々木 苦労したのは、紙からデジタルに変えることによる運用見直しと業務設計です。これについては情報システム部門と一緒に検討を重ねました。
また、書かない窓口では、①職員の知識・経験によらず誰でも適切な対応ができる、②住民に分かりやすい──ことを目指して、数多くの質問項目を設定しています。そのためシステムに慣れるまでは、TKCの担当者に何度も相談し、つきっきりで設定作業をサポートしてもらったこともありました。
──皆さんの反応はいかがですか。
佐々木 市民の方は、やはり手書きが不要になったことに驚かれます。特に世帯員が多いと家族全員の氏名・生年月日を記入するのも大変でしたが、いまでは職員が入力した内容を確認して電子サインをするだけなので「楽になった」と喜ばれました。
職員については、サービスを開始してまだ数カ月ですが、市民課では書かない窓口による業務が定着しています。また、入力データを住民が確認するため手書き文字の誤認識などが減り、記録担当職員はポイントを絞った確認作業ができる安心感もあるようです。さらに他部署も書かない窓口に注目しています。まだ〝期待と不安が半々〟というところですが、部門間の連携や対象手続きの拡充について関係各課との検討も開始しました。
成功の鍵は「利用者目線」
──今後、システムに期待することは。
安孫子 現状では職員が住民に聞き取った内容をタブレットに入力していますが、最終的には市民自身で入力していただくことが理想と考えています。その方がITに慣れている方には便利ですし、不慣れな方だけを窓口で支援することで対面にかかる時間が削減され、業務の効率化も期待されます。
佐々木 その点、運用に合わせて申請書や住民への質問項目などを、自分たちで自由に設定できるのは便利ですね。これにより継続的なサービス改善も可能で、他団体の例も参考にしながら内容の充実を図りたいと考えています。
赤塚 市では、今年3月に『天童市DX推進計画』を公表しました。目指すのは、サービスを利用する市民や民間事業者だけでなく、システムを利用する職員も含めた〝利用者目線〟を徹底し、DXで暮らしも仕事もスマートに行えるようにすることです。書かない窓口もその一環として実現しました。
いま、市民からはスマートフォン等で簡単に手続きができる「オンライン申請」や「オンライン決済」などへの要望が高まっています。これについては、「ぴったりサービス」や山形県と県内全市町村が運営する「やまがたe申請」を活用し、市民のニーズに応じて行政手続きの〝選択肢〟の幅を広げる計画です。今回、書かない窓口でDXの一つの成果を〝見える化〟しました。しかし、DXは一過性ではなく持続的な取り組みです。今回の成果をもとに、さらに多くの職員を巻き込みながら利用者目線でサービス・業務改革を進め、市民や職員により大きな価値を創出していきたいと考えています。
掲載:『新風』2023年7月号