2023年1月号Vol.129
【デジタル・ガバメント ここがポイント!!】標準化は2040年に向けた自治体戦略の一環
株式会社TKC 自治体DX推進担当部長 松下邦彦
自治体情報システムの標準化が進んでいます。自治体の皆さんはこの準備に力を尽くされていることでしょう。自治体は2025年度末までに20業務のシステム移行を完遂することが求められており、まずはこの困難な目標を達成しなければなりません。では、この目標を達成した後にはどのような未来が開けているのでしょうか。
本号の特集記事でデジタル庁統括官の楠正憲氏が「システムの標準化とは、あくまでもDX推進のための土台づくり」と述べています。本稿では、システム標準化がそもそもどのような背景で求められたのかを確認してみます。
自治体戦略2040から始まった
14年度に開催された「地方自治体における業務の標準化・効率化に関する研究会」の報告書で、自治体業務の遂行において情報システムの担う役割が大きいことが明記されました。その後、システム標準化は、17年度に開催された「自治体戦略2040構想研究会」で重要な論点に位置付けられました。
自治体戦略2040構想研究会では、40年までに自治体が直面する課題を、子育て・教育、医療・介護、インフラ・公共交通、空間管理・防災、労働力、産業・テクノロジーの各側面から分析しました。その上で、〈2040年頃にかけて迫り来るわが国の内政上の危機〉という未来像を、①若者を吸収しながら老いていく東京圏と支え手を失う地方、②標準的な人生設計の消滅による雇用・教育の機能不全、③スポンジ化する都市と朽ち果てるインフラ、という重い表現で描いています。
この未来像に自治体が対処する方針として「新たな自治体行政の基本的な考え方」をまとめています。そこでは、労働力(特に若年労働力)の絶対量不足を避け難い社会経済の前提条件とし、自治体のあり方も〈人口縮減時代へのパラダイム転換〉が必要と総括。これを受けて最初に掲げられた方針が「スマート自治体への転換」です。
人口縮減時代には少子高齢化により人口が減る以上に労働人口が減少します。自治体でも住民が減る以上に職員が減少し、さらに少子高齢化対策のための新しい行政サービスが増加します。基本的な考え方では、スマート自治体への転換には〈従来の半分の職員でも自治体が本来担うべき機能を発揮できる仕組みが必要〉とし、そのために二つの取り組みを求めました。第一が「破壊的技術(AI・ロボティクス等)を使いこなすスマート自治体への転換」です。
第二が「自治体行政の標準化・共通化」で、ここでシステムの標準化が明示されました。具体的には、〈標準化された共通基盤を用いた効率的なサービスの提供体制〉と〈自治体ごとの情報システムへの重複投資をやめる枠組み〉が必要──と提起。加えて、〈自治体の情報システムや申請様式の標準化・共通化を実効的に進めるためには、新たな法律が必要となるのではないか〉と、システム標準化の法制化についても言及しています。
スマート自治体から
自治体DXへ
このように、システム標準化は、今後、自治体が直面する「人口縮減時代へのパラダイム転換」という大きな課題に対処するために構想されました。情報システムにかかるコストを低減することだけが目的ではありません。
18年度に開催された「地方自治体における業務プロセス・システムの標準化及びAI・ロボティクスの活用に関する研究会」では、スマート自治体の検討が深掘りされました。最終報告書では、スマート自治体の目指すべき姿を〈人口減少が深刻化しても、自治体が持続可能な形で行政サービスを提供し続け、住民福祉の水準を維持〉するとともに、〈職員は、職員でなければできない、より価値のある業務に注力〉するとしました。ここでも自治体戦略2040の提言が受け継がれています。
スマート自治体という用語は、現在では「自治体DX」に置き換わっています。デジタルのDに、X(トランスフォーメーション=変革)が追加され、情報通信技術を使うだけでなく、業務を改革することに重きが置かれています。もちろん、自治体DXという用語にも自治体戦略2040が掲げた大きな課題が継承されています。
標準化基本方針と
トータルデザイン
その後、19年度から「自治体システム等標準化検討会」で標準仕様の策定が開始されました。一方で、新型コロナウイルス感染症対策の給付業務において自治体のシステムが統一されていないことが問題視されて標準化が急務となり、21年度にシステム標準化を義務付ける「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」が制定されるに至りました。
22年10月には『地方公共団体標準化基本方針』が公表されました。ここででは、システムの統一・標準化の目標の筆頭に〈標準化基準の策定による地方公共団体におけるデジタル基盤の整備〉を掲げ、業務改革(BPR)にも言及しています。これは、自治体DXが標準化においても最重要課題であることを示しているといえるでしょう。
また、目標には「標準準拠システムへの円滑な移行とトータルデザインの実現」も掲げられています。
トータルデザインは、20年度に内閣官房が開催した「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」で示されたもので、国・地方・民間を通じて各機関のシステムが連携することを目指しています。
データに関する標準仕様によって、自治体のシステムはベンダーの枠を超えたシステム連携が可能になります。また、トータルデザインの考え方に沿って構築される「公共サービスメッシュ」により、オンライン申請や窓口システムといったフロントサイドのサービスとの連携も容易になります。さらに、こうした連携により新たに実現される手続きデジタル化は、徐々にベストプラクティスが確立され、それを標準仕様に反映することで全国の自治体への展開が進みます。
このように、標準化基本方針でも自治体DXを推進するための目標が掲げられており、根底には自治体戦略2040に示された課題があります。
「人口縮減時代へのパラダイム転換」のためにこそ、自治体DXが必要であり、システム標準化が進められているのです。
掲載:『新風』2023年1月号