2022年7月号Vol.127
【デジタル・ガバメント ここがポイント!!】〈スマホ60秒〉を実現する公共サービスメッシュ
株式会社TKC 自治体DX推進担当部長 松下邦彦
利便性向上を阻んできた〝壁〟
昨年12月に閣議決定された『デジタル社会の実現に向けた重点計画』では、国・地方・民間を通じたトータルデザインで目指す姿として〈スマートフォンで60秒で手続が完結〉が提示されています。現在のオンライン手続きでは、利用者本人や家族の氏名・生年月日、あるいは所得情報等を一つ一つ入力するため、60秒で手続きを完了することは大変困難です。
実際には、オンライン手続きで入力を求められる情報の大半は自治体の業務システムが保有しており、手続きのアプリがこうした情報を取得できれば利用者による入力は不要となります。したがって、〈スマホ60秒〉を実現するには、手続きのアプリから業務システムの情報を取得する情報連携の仕組みが必要です。デジタル庁の「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」(以下、マイナンバーWG)で検討されている「公共サービスメッシュ」は、まさにこの仕組みを実現するものです。
業務システムの情報をインターネット側のオンライン手続きで利用することは、今まで実現できませんでした。
一つ目の理由は、『地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン』の規定です。
従来のガイドラインでは、インターネット系からマイナンバー利用事務系への一方向でのみデータの移送を認めていました。これについては今年4月の改定で、引き続き「国等の公的機関が構築したシステム等」に限定されるものの、双方向でのデータの移送が可能とされました。したがって、マイナンバー利用事務系にある業務システムの情報をインターネット系にある手続きシステムに移送することも可能となっています。
二つ目の理由は、マイナポータルの自己情報取得機能の制約が大きいことです。
現在でもこの機能を利用すれば、業務システムにある情報をインターネット上のシステムに本人の同意を経て提供することが可能です。しかしながら、この機能で提供できる情報は中間サーバーに保管されている特定個人情報、すなわち番号法により「行政機関間で本人同意なく提供可能」と規定された情報に限定されています。行政手続きで必要となる氏名、住所、あるいは家族(住基世帯)にかかる情報が取得できないため、オンライン手続きでの利用が進みませんでした。
WGで提示された三つの観点
5月13日のマイナンバーWG(第4回)の資料「利用者目線の行政サービス実現に向けたトータルデザインとマイナンバー法の検討について」(以下、資料)では、〈スマホ60秒〉に向けて三つの検討観点が提示されています。
1.自治体が保有する情報の活用
2.本人を介した官民の情報の活用
3.行政機関間の情報連携
それぞれの概要を確認してみます。
1.自治体が保有する情報の活用
資料では、住民登録地の自治体が行政事務を実施するために業務システムに個人情報を保有している一方で、こうした情報を統合的に活用する仕組みが整備されていないことが指摘されています。そのため、「自治体で保有する住民本人や世帯など、当該住民がプッシュ型サービス等を受ける際に必要とする情報を活用できるようにする」ことが提示され、自治体の窓口支援システムが紹介されています。
この1の観点は、一つの自治体の中で業務システムの情報を、窓口支援システムやオンライン手続きシステムで利用することを想定しているようです。スケジュールについては、業務システムの統一・標準化を完了した自治体等から順次利用可能となり、令和5年度以降に自治体で先行実証できるようにする、とされています。
2.本人を介した官民の情報の活用
資料では、マイナンバー制度の利用範囲外の行政事務でも添付書類が必要であり、デジタルで完結させるには従来と比較にならないほど多数の行政機関と情報連携が必要であること、また、民間と連携しつつ対応すべきシーンも存在することが指摘されています。そのため、手続きに必要な証明書類等を「本人を介した官民の情報の流れ」として「すべてをオンライン・デジタルデータで実現可能に再設計する」と記載されています。
現在は紙で交付されている証明書類等をデジタルデータで本人が取得できる仕組みを整備し、取得した情報を本人が行政機関や民間サービスで活用できるようにすることが企図されていると読み取れます。従来の行政機関間の情報連携を引き続き推進しつつも、より国民の利便性向上に資する情報活用・これによるサービスの利便性向上が実現できるのではないか、という記載もあります。
民間との連携については、民間サービス・民間UIを活用できる設計にすること、および民間(勤務先など)が保有する本人の情報を連携して活用することも必要ということが、主要な論点例に掲げられています。
3.行政機関間の情報連携
現在稼働している情報提供ネットワークシステムによる行政機関間の情報連携をさらに推進すべく、現行インフラ更改時の基本設計や取り扱いも含めた検討を進める、とされています。今回提示された1と2の観点を含めて、新たな情報連携の基盤として一貫した設計とすることが目指されています。
また、ほかに実現すべき要素としてプッシュ型通知と更新、後方互換性を維持したままデータ項目などの仕様を柔軟に拡張できる、世帯や代理といった関係属性を扱えること、などが掲げられています。プッシュ型通知は利用者や職員へのお知らせではなく、情報が変更された際に関連するシステムに通知して、通知を受けたシステムが変更された情報を取得して効率的に情報を同期することが目的とされています。
これにより、国民は自分の情報が変更されたときに必要となるさまざまな変更手続きが不要になり、職員は事務を実施する際に最新情報を取得する必要がなくなることがメリットに掲げられています。
◇ ◇ ◇
〈スマホ60秒〉を目指すために業務システムの情報を利用可能とする仕組みを実現する公共サービスメッシュは、行政手続きのデジタル化において中心的な役割を担うと想定されます。
この機能を活用し、フロントのオンライン申請からバックヤードの業務処理までを一連の業務として捉え直して、住民へのサービス向上と職員の業務効率向上の双方を実現する〈真の自治体DX〉を推進する必要があります。
掲載:『新風』2022年7月号