左から大津誠一監査担当、飯島青茹取締役、
飯島充社長、飯島悟社長、増山英和顧問税理士
インボイス制度への対応を念頭に、クラウド型のTKCシステムに移行したイイジマは、日々の経理業務を飛躍的に効率化した1社。フィンテック機能に電子納税、証憑書類のデータ保存……その活用範囲はとどまるところを知らない。
水戸駅から西へクルマで約10分。幹線道路沿いに瀟洒(しょうしゃ)な建物が見えてくる。今年開業45年を迎えた「レストランイイジマ」だ。常陸(ひたち)牛を用いたステーキ、ハンバーグを目当てに県内外、海外から連日多くの客が訪れる。
「常陸牛はブランド牛のひとつとして知られ、国内で年間約1万頭消費されています。われわれは品質にこだわり、常陸牛のなかでもグレードの高いものだけを仕入れ、お客さまに提供しています」
飯島充社長はこう胸をはる。近年は旺盛なテイクアウト需要に応えるべく、弁当のラインアップを拡充。系列の総菜店では法人、団体向けにケータリングサービスも開始した。兄の充氏とともにイイジマの代表を務める飯島悟社長が続ける。
「水戸市内をはじめ、近隣市町村で開催される50人超規模のイベントでのケータリング依頼が増えています。店内調理の総菜店を2店舗営んでいるため、まとまった数の注文に対応できるのがうちの強み。お弁当、総菜類の販売も好調です」
レストランの公式サイトは英語のほか台湾語でも表示でき、台湾からのツアー客専用の予約チャンネルをチャットアプリに開設するなど、インバウンドの来客促進もぬかりない。
企業の実在性を自動判定
常陸牛をステーキと牛鍋で楽しめる
コース料理も用意
環境変化に柔軟に対応し、業績も堅調に推移しているイイジマにおいて、課題に浮上していたのが経理関連業務の負担軽減だった。同社の経営を15年以上サポートしている増山英和顧問税理士は、会計ソフトをTKCシステムに切り替えることを勧める。念頭にあったのは、昨年10月に始まったインボイス制度への対応だった。経理業務を一手に担う飯島青茹(チンルウ)取締役が振りかえる。
「食肉および総菜の販売、レストラン経営を手がけている当社の顧客層は、個人から法人、ツアー客まで多岐にわたり、さまざまな支払い方法に対応する必要があります。取引先から届く請求書や領収書の形式も、電子データや用紙などまちまちです。増山先生の提案をうかがい、『FX4クラウド』の証憑保存機能を活用すれば、請求書等を効率的に管理できるのではと考えました」
証憑保存機能とは、取引先から受け取った紙の証憑書類や電子取引データを読み込み、TKCのデータセンター(TISC)に保存できる機能を指す。インボイスに記載された事業者登録番号を読み取り、国税庁公表サイト(※1)の登録状況をシステムが自動でチェックするなど、インボイス保存作業の省力化につながる。複数の業態を展開する同社にとって、インボイス制度の開始により経理業務が煩雑になることが見込まれたが、飯島取締役は「不安はあまり覚えなかった」と言う。
「月次巡回監査の際に、監査担当の大津さんから『電子取引・インボイス対応ワークブック』等の資料をもとに、インボイスに関する情報を提供いただいていました。インボイス発行事業者が実在するかシステム上ですぐにわかるし、取引先マスターが整備されるのも便利。もしTKCシステムに変更していなければ、事業者登録番号の確認作業などに追われていたかもしれません」
先だって、電子帳簿保存法で規定された要件を満たすスキャナーも導入。証憑書類のデータ保存を一段と加速させていく予定だ。
※1…国税庁「インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト」
2日分の作業を2時間で
厳選した常陸牛を扱う精肉店
「肉のイイジマ」
スムーズなインボイス対応に加え、仕訳入力に要する時間を削減できたのもTKCシステム利用によるメリット。とりわけ飯島取締役が効果を実感しているのが、銀行口座入金時の仕訳入力を効率的に行えるようになったところ。近年、インターネット通販の売り上げが伸長しており、一般個人客からの日々の注文、口座入金は、膨大な件数にのぼる。入金にともない発生する仕訳入力の負荷は、推して知るべし。店頭ではクレジットカードをはじめ多様なキャッシュレス決済に対応しているため、やはり口座への入金が定期的に発生する。
同社は取引金融機関に8つの口座を設けて対応しているが、これまで締め日にATMで通帳記帳し、取引明細を確認しながら会計ソフトに仕訳を手入力していた。飯島取締役によると「入力に丸2日程度かかっていた」という。これがTKCフィンテックサービスの「銀行信販データ受信機能」を活用することで、2時間ほどで仕訳入力を完了できるようになった。
「銀行信販データ受信機能には、仕訳ルールの学習機能も備わっているので、仕訳を簡単に計上でき助かっています」(飯島取締役)。
さらに、TKCシステムから源泉所得税や個人住民税、法人税等のデータを連携できる「電子納税かんたんキット」を併用。計算や転記にともなうミスを防止でき、納付事務にかかる作業を省力化できた。仕訳入力から納税にいたるまで、一連の業務がシームレスにつながったわけである。
「さまざまな機能の活用を通して、経理業務の大幅な時短を図れました。クラウド型のシステムのため、両社長がふだん利用している端末をはじめ複数台のパソコンからシステムを起動し、業績が気になれば、いつでもどこからでも確かめられるようになったのも大きな変化です」(飯島取締役)
数字を根拠に打ち手を施す
精肉店に隣接する「デリワン」では、
バラエティー豊富な総菜、弁当類を販売。
弁当の中心価格帯は1,500円~2,000円
スピーディーな仕訳入力は、早期の経営判断にも役立っている。毎月開催している「店長、料理長会議」では、各店舗の期首からの売上高に加え、原価率、人件費率、限界利益率の3つの比率を公開して、打ち手を話し合う。昨今の原材料、エネルギー価格の高騰を受け、食肉、総菜部門では6月以降販売価格を改定しているが、討議をへて導き出した施策だった。
「売上高等を前年同月の実績や目標値と比較し、かい離がある場合はその原因を議論しています。経理業務を効率化できた結果、全社業績をリアルタイムにつかめるようになったのはありがたいです。直近の業績を把握するのに数カ月間かかっていては、原因追究がむずかしくなるし、打ち手を施しても効果が薄れてしまいますから」(飯島充社長)
インターネット通販や法人向け事業の開拓をとおして、従業員が複数の業務をこなす力を身につけ、店舗をフォローしあう体制を構築できたのは、コロナ禍で得られた収穫だった。決算報告会など、同社を半期ごとに訪問している前出の増山顧問税理士はこう語る。
「イイジマ様で特筆されるのは、充社長が食肉、総菜販売部門、悟社長がレストラン部門、そして青茹取締役が経理部門をそれぞれ統括され、シナジーが生まれているところ。地域を代表する企業でありつづけているのは、お三方が会計データから経営課題を読み取り、改善に向けた行動をタイムリーに取られているからこそです」
TKCシステムを意欲的に活用して業務効率化を図り、迅速な意思決定に役立てているイイジマ。飯島悟社長は「1店舗の売り上げとして常識では考えられないモンスター級のお店に成長させ、『常陸牛といえばイイジマ』といわれる状況をつくりたい」と意気込む。3本柱の事業を基軸に置き、鮮度の高い業績数値を生かしつつ、ハイブリッド経営にさらに磨きをかけていく。
(取材協力・増山会計事務所/本誌・小林淳一)
名称 | 株式会社イイジマ |
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業種 | 食肉・総菜販売、レストラン業 |
創業 | 1963年6月 |
所在地 | (本社)茨城県水戸市見川2-108-26 一周館ビルA205 |
売上高 | 14億円 |
従業員数 | 70名 |
会計システム | FX4クラウド |
URL | https://nikunoiijima.co.jp/office/ |
顧問税理士 |
増山会計事務所
税理士 増山英和 茨城県水戸市千波町1258-2 増山ビル2F URL: https://www.ma-g.co.jp/ |