伊那市の本社工場
長野県伊那市に本社を構える利久電器は、固定抵抗器のメーカーとして60年以上の業歴を持つ。果敢な事業買収策から債務超過に陥るも、松﨑堅太朗顧問税理士の支援のもと経営計画策定に着手。経営改善策を地道に施し、業績のV字回復を果たした。伊藤昭一郎社長を中心に、その変貌のプロセスを聞いた。
地元メーカーと連携し販路の開拓に注力
──固定抵抗器とはどのような機能を持つ部品ですか。
主力製品の固定抵抗器
伊藤 電気を回路に流す際の電流量を調節する部品です。機械装置や家電など、電気回路が搭載される製品には必ずといっていいほど使用されています。
──創業は1960年とか。
伊藤 先代社長である父が会社を興して間もないころは、時計の組み立てをなりわいとしていたようです。伊那地域には数多くの抵抗器メーカーがあり、当社も抵抗器生産に徐々にシフトしていきました。現在は固定抵抗器および構成部品の開発、販売を主力にしています。
──2004年に経営を引き継がれたそうですね。
伊藤 大学卒業後、伊那市内の機械部品メーカーに就職し、営業職に従事していました。いわゆる、でっち奉公ですね。幼いころから、将来は会社を継ぐよう父から言われて育ったので、いずれ社長を任される時が来るだろうという腹積もりはありました。社長就任時に決意したのは、永続する会社にすること。そのための仕組みをつくるのが私の役割にほかなりません。
──社長に就任され、どのような経営体制をしかれましたか。
伊藤 常務の牧田とともに経営をかじ取りしており、私はおもに事業の方向性や経営方針の立案を、牧田は経営計画策定や財務管理を担当しています。牧田とはいとこ同士の間柄ですから、事あるごとに気兼ねなく相談しています。
──現在目指されている方向性を教えてください。
伊藤 今日まで、ほかの会社があまり本腰を入れていない領域の業務を積極的に請け負ってきました。多くの同業メーカーが海外に製造拠点を移転し、固定抵抗器の国内生産量は年々減少していました。そんななか伊那地域の同業メーカーと議論を交わし活路を見いだしたのが、緩やかな連携体制の構築です。複数社がタッグを組めば、抵抗器の製造案件をお互いに融通できるし、材料を仕入れる際もコストを抑えられる。いわば黒子となり、長年培ってきた技術を生かせる分野に特化していこうと考えたわけです。
──足元の業況はいかがでしょう。
牧田 コロナ禍で電子部品の調達難がいわれていましたが、取引先さまから予想を上回る先行注文がありました。そのため売り上げ、利益とも落ち込むことはなかったです。当社は従来原材料価格の変動に応じて、適切なタイミングで販売価格の見直しを図ってきました。近年の原材料価格の高騰は世界的な潮流であり、価格交渉しやすい面もあります。
──商品の値決めはどのようにされていますか。
伊藤 『FX2』(戦略財務情報システム)の《変動損益計算書》を参照して限界利益を確認するのはもちろん、仕入れ価格上昇分を織り込んで工賃を積み上げ、利益が確実に見込める価格を算出しています。
──現在の拠点数は?
伊藤 長野県内に3カ所、新潟県内に1カ所工場があるほか、東京に営業所を構えています。このうち2カ所の工場は、もともと他社が固定抵抗器を生産していた拠点です。
各工場の損益状況をつかみ実効性ある経費圧縮策を施す
──松﨑顧問税理士と10年以上のお付き合いをされていると聞きました。
本社工場内の塗装ライン
伊藤 松﨑先生の事務所と顧問契約を結んだのは2011年です。当時、他社の抵抗器部門の事業を引き継ぎ、製造技術と機械設備を積極的に取り込んでいました。ただ、経理体制はどんぶり勘定で、従来の顧問税理士に財務面を丸投げしているような状態。あまりにも急ピッチで事業を引き継いだため、借入金が増え採算が徐々に合わなくなっていました。そうした状況を見かねた当時のメインバンクから紹介されたのが松﨑先生でした。
牧田 金融機関に返済猶予を申し込んだところ、経営計画の提出を求められました。しかし、経営計画などつくったことがなかったので、何から着手すればよいか見当がつかなかったんです。松﨑先生と監査担当の永井さんに、計画策定をいちから支援してもらいました。
──どのような流れで計画を策定しましたか。
永井 まず、利久電器さまの経営状況を把握するべくさまざまな質問を投げかけ、どんな点に課題を感じ、どう改善されたいのかを引き出すことに努めました。5年後に目指されている姿を思い描いていただき、『継続MASシステム(※)』を活用して売り上げや限界利益といった数値目標とのかい離を埋めるための施策を検討してもらったのです。お二方とのやり取りを経て課題として挙がったのが、人件費をはじめとする経費の圧縮でした。
伊藤 経営を立て直すには、何より正確な業績をつかむ必要があります。『FX2』の部門別業績管理機能により工場ごとの損益状況を把握し、課題点に対する打ち手を計画に盛り込みました。
──打ち手の内容は?
伊藤 同業他社でも生産可能な汎用品をつくるのをやめ、近隣のメーカーに製造をアウトソースするなどして、商品構成を見直しました。あわせて、費用を変動費と固定費に分ける「変動損益計算書」の考え方に基づき、固定費が限界利益を上回らないよう、工場別の経費圧縮策も検討しました。汎用品の製造に携わっていた従業員に退職してもらうなどつらい決断もありましたが、経営計画策定と『FX2』の活用をとおして、部門別の業績を視覚化できたのは大きかったです。
松﨑 伊藤社長と牧田常務は経営計画に基づき、商品構成や販売価格の見直しなど地道な対策を施されてきました。業績の近年の推移を見るとその成果が如実に表れており、経営改善からすでに一歩進んだステージに移行されています。
※継続MASシステム…
経営者のビジョンに基づいた「中期経営計画」と、次年度の業績管理のための「単年度予算」、「短期経営計画」の策定を支援するシステム。計画と実績の検証を継続的に実施し、間題点の発見・対策を検討する「業績検討会」や「戦略的決算対策検討会」の開催を支援する。
月次決算を経た真正なデータで信頼性向上
──松﨑先生と永井さんの支援のもと、経営計画を策定されてみて、どんな点が変わりましたか。
(上)永井監査担当が伊那市の本社を毎月訪問、
(下)5年間の中期経営計画を策定
伊藤 業績の見方と考え方がガラッと変わりました。以前は取引先さまのニーズに着実に応えていけば、最終的に帳尻が合うと考えていたんです。でも世の中はそれほど甘くなかった。経営計画を策定するようになってから、売り上げや利益目標に対する進捗と、資金残高が明確になり、タイムリーに打ち手を施せるようになりました。
また、新たなアイデアを思いついたとき、松﨑先生と永井さん、牧田の顔が真っ先に思い浮かぶようになりました(笑)。毎期立案している販売計画については毎月2回、進捗状況を幹部社員にメールで通知し、共有しています。
──業績検討会を定期的に開催されているそうですね。
伊藤 四半期ごとに開催している業績検討会は、経営計画に記した行動計画の効果を検証する場です。私が業績の見通しを説明しており、決算報告会には取引金融機関の方も招いています。
本島 利久電器さまは「モニタリング情報サービス」を活用され、月次試算表データをわれわれに毎月送信されています。前年から大幅に増減した項目がある際など、踏み込んだ質問ができ助かっています。TKCの財務会計システムは、基本的には月次決算後遡及訂正できない仕組みになっているので、会計データに対する信頼感が違います。
──将来についての展望をお聞かせください。
伊藤 時代の変化を読み取り適切な打ち手を施し、当社を永続させるのが私の使命です。そのためにも保有するコア技術を大切にしながら、抵抗器業界における存在価値をさらに高めていきます。
(取材協力・税理士法人mkパートナーズ/本誌・小林淳一)
名称 | 株式会社利久電器 |
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創業 | 1960年12月 |
業種 | 電子部品製造業 |
所在地 | 長野県伊那市上新田2595 |
売上高 | 6億3,000万円(2023年4月期) |
社員数 | 19名 |
URL | https://rikyu-denki.co.jp |
顧問税理士 |
税理士法人mkパートナーズ
顧問税理士 松﨑堅太朗 長野県駒ケ根市上穂栄町21-20 URL: https://cpamatsuzaki.tkcnf.com/index |