左から経理担当の永吉瑞貴さん、末永富一郎社長、久保武徳顧問税理士

左から経理担当の永吉瑞貴さん、末永富一郎社長、
久保武徳顧問税理士

鹿児島市内を地盤に、公共工事を幅広く請け負っている末永産業。顧問税理士による伴走支援のもと経営改善を図り、2億円にのぼる借入金をこのほど完済した。末永富一郎社長は「DAIC2は業績の見える化を図る上で手放せないツール」と語る。

適材適所の人員配置で現場の仕上がりに定評

──足元の業況を教えてください。

末永 国の予算が新型コロナ関連に割かれるなか、地元の公共工事は大幅に減少しています。予算が少ない分パイの奪い合いになっていて、最低価格で落札されるケースも少なくありません。赤字になるのがわかっていても、工事の受注を優先させることさえありました。しかし、10年以上におよぶ経営改善を通して、会社が徐々に筋肉質になり、コロナ禍にあっても利益を見込める財務体質に転換しつつあります。

──民間工事も請け負っていますか。

地元の公共工事が大半を占める

地元の公共工事が大半を占める

末永 大半は公共工事ですが、紹介や口コミにより、地元町内の民間工事も一部請け負っています。近年は河川の氾濫対策や豪雨による災害復旧工事が多いです。ちなみに、現在進行中の4現場のうち3つは、河川災害の復旧工事です。

──会社の強みは?

末永 長年働いてくれているベテランの従業員が多いところでしょうか。当社が請け負った現場について、きれいな仕事をしてくれるね、と取引先の社員からよく声をかけられます。手がけた現場の仕上がりが高く評価され、元請け企業が表彰されたこともあります。

──施工期間が長期にわたる現場もあると思いますが、働き方はどのように工夫されていますか。

末永 請け負っている公共工事の工期は、1年以上かかる場合がほとんどです。従来は従業員ごとに担当する現場をいったん決めると、工事が完了するまでメンバーを固定していました。ただ、重機の操作や手作業等、各自には得意分野があるので適材適所による人員配置に改めた結果、作業の進捗(しんちょく)がスムーズになり、工期の短縮につながっています。
 それと、今年度から工事現場の管理ソフトを導入し、書類作成業務の効率化を図っています。これにより、従業員はスマートフォンで現場の状況を撮影し、クラウド経由で写真をアップロードできるようになりました。ソフトを利用する前は、デジカメで撮影した画像を事務所に戻ってからパソコンに取り込み、工程別に整理する必要があったため、残業の要因になっていたんです。

──3年前に事業を引き継がれたと聞きました。

末永 社長就任前は私も工事現場に赴いて、作業をこなしていました。8年前に経理業務を担当していた母が他界したのをきっかけに、経営に参画するようになったんです。日ごろ先代社長である父と業績についてよく話していたので、経営状況があまり芳しくないことはわかっており、当初は社長が背負う責任の重さに耐えられるか不安でした。でも自分が子どものころから知っている従業員ばかりで、会社に対する愛着があるうえ、経理を担当する姉と妹が経営をサポートしてくれるのも心強く、次第に不安は薄らいでいきました。

「工程会議」を開催し原価意識が社員に浸透

──『DAIC2』を導入された経緯と、これまで経営改善に役立った点を教えてください。

末永 自計化による最大の効果は、会社の業績を見える化できたことです。それまでは工事ごとの原価管理を行っておらず、どんぶり勘定で経営していました。15年ほど前に顧問契約を結んだ久保先生にすすめられ、会社にとってプラスになるか半信半疑の状態でしたが、『DAIC2』を利用しはじめました。

日々の仕訳入力が業績把握の第一歩

日々の仕訳入力が業績把握の第一歩

永吉(経理担当) 当時、久保先生に言われて印象に残っているのが、やせているのか、太っているのか自分自身を知ろうとしないと、対策を打つにも手遅れになってしまうという言葉。自計化した当初、『DAIC2』は伝票入力のためのソフトとの先入観がありましたが、仕訳を日々入力しているうちに、数字を見るくせがついてきて、取引先に支払った経費を二重に計上していたり、経理のずさんな一面が浮き彫りになりました。道のりは平たんではありませんでしたが、久保先生と監査担当の方による地道なご指導により、ずさんな部分を改めることができました。システムの運用を今日まできめ細かく支援いただき、感謝しています。

久保 コロナ禍により金融機関からの借入金が増え、財務状況が悪化してしまっている例は多く見受けられます。『DAIC2』を活用しつつ、借入金を完済された末永産業さまの取り組みは、他の中小企業にとって一筋の光明になると思います。

永吉 一時は2億円の借り入れがあり、これを返済できるとは、当初思っていませんでした。完済までの10年間を振りかえると、5年目あたりが一番厳しかったです。

──自計化する前の経理体制は?

永吉 以前の顧問税理士さんは、私が手書きで起票した振替伝票や出金伝票を事務所に持ち帰り、翌月に試算表を持参するという監査スタイルでした。期中においてもうかっているか、手元資金が足りているか、ざっくりとしかわかりませんでしたね。そんな状態でしたから、負債が徐々に増えていきました。

──『DAIC2』を日ごろどう活用していますか。

永吉《現場別工事台帳》をもとに実行予算との差異を確認しながら、現場ごとに利益が出ているかチェックし、利益が見込めないときは原因を掘り下げるようにしています。例えば、担当者が現場でせっかく値引き交渉を行っても取引先から後日送られてくる請求書に、値引き額が反映されていないケースなど、以前は請求書に記載された金額どおりに支払ってしまうこともありましたが、請求書の内容を精査してから支払うよう改めました。

──期中の業績を把握して、手を打てるようになったと。

永吉 ええ。人員配置や重機のやりくりなど、数カ月先まで見通しを立てやすくなりましたね。現場の段取りを決められるようになったので、重機をリースで借りる際には最少台数に抑えたりして、費用をなるべく圧縮するよう心がけています。『DAIC2』は単なる入力マシンでなく、会社の見える化を実現するツールであるとの認識に変わりました。

──施工担当者と経理担当者は日々どのように連携を図っていますか。

「工程会議」で活用している工事月報など

「工程会議」で活用している工事月報など

末永 部署間の連絡はかなり密に行っている方だと思います。事務所の中央にあるテーブルを挟んで、工務部と経理部に分かれていますが、双方の従業員がテーブルに集まり、請求書の内容について話し合っているのをよく見かけます。工務部の従業員は日中現場に出ていますから、コミュニケーションをとるのはたいてい朝と夕方。加えて、現場責任者も出席して毎月開催しているのが「工程会議」です。

──会議で話し合う内容を教えてください。

末永 自社で作成している現場概況報告書や工事月報、月間シフト表などを用いながら、各現場の進捗と利益率を確認しています。これらの書類を作成する際に参照しているのが『DAIC2』の《現場別工事台帳》です。期末の目標売上高の達成がむずかしい場合は、材料費の削減等、粗利額を減らさないために現場でできる打ち手を話し合います。
 この会議を始めたのは、久保先生から原価管理の大切さを教えてもらったのがきっかけです。従業員が計数意識を持つだけでなく、お互いが現場の状況を知り、助け合う雰囲気を醸成するのに役立っています。

──ところで、税務調査はこれまでにありましたか。

社屋

社屋

末永 書面添付()を毎期実践しており、前回の税務調査では修正すべき点がなく、税務署から「申告是認通知書」が発行されました。久保先生と顧問契約を結ぶ前は、3年に1回ぐらいのペースで調査があったんです。当時、税務調査はこわいものというイメージがありましたが、今では何でも見てくださいという気構えに変わりました。

──目標をお聞かせください。

末永 うちの強みは、経験豊富な従業員が多く在籍しているところ。人材の力を生かして一つひとつの現場を着実にこなし、従業員が安心して仕事に打ち込める環境を整えるのが私の役割だと考えています。

※書面添付制度(税理士法第33条の2)…
申告書作成のプロセスにおいて、計算、整理、相談に応じた事項を明らかにした書面を申告書に添付し、税務の専門家である税理士が、その申告が誠実に行われていることを示す制度。この書面添付を行うことで、顧問税理士が税務署から意見聴取を受けた上で企業への税務調査が省略されることがある。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 株式会社末永産業
設立 1973年3月
所在地 鹿児島県鹿児島市小山田町8969番1
売上高 2億円
社員数 18名
URL https://www.big-advance.site/s/189/1355
顧問税理士 顧問税理士 久保武徳 
久保武徳税理士行政書士事務所
鹿児島県鹿児島市荒田1-42-2
URL: https://takenori-k.tkcnf.com/

掲載:『戦略経営者』2022年7月号