「長い」「大人数」「結論が出ない」という三重苦に長らくさいなまれている日本企業の会議。生産性向上の最大の障壁とも言われる会議の非効率を、さまざまなアングルから紐解き、その解決策を考察してみた。
- プロフィール
- さかまき・りょう●大学卒業後、ダイワハウス工業株式会社に入社。住宅の設計業務に従事すると同時に、業務改善活動に携わり、改革をやり遂げる大変さと大事さを痛感する。ケンブリッジ入社後は「現場を変えられるコンサルタント」を目指し、金融・通信・運送など幅広い業界で業務改革、新サービス立ち上げ、プロジェクトを通じた人材育成などを支援。ファシリテーションを生かした納得感のあるプロジェクト推進を得意としている。一級建築士。
──ダメな会議とは?
榊巻 「目的がはっきりしない定例会」「情報を共有するだけの講演会」「すでに決定している結論に参加者を誘導する会議」ですね。とくに三つ目の「誘導会議」は「あなたたちがポンコツだからかみくだいて説明するね」という主催者の高飛車な意図が透けて見え、また、効果がまったく期待できないので「無駄の極み」だと思います。どういう状態を創り出したいのか、あるいは、行う前と後ではどういう変化が起きるのか、そこが明確にできていない会議はやる意味がありません。
「やるべきこと」を確認する
──具体的に何から始めればよいのでしょう。
榊巻 ここからは、会議の主催者が中小企業経営者だとして説明します。会議の冒頭、主催者が参加者の一人に「今日の会議で、〝決まったこと〟と〝やるべきこと〟を、最後にみんなに確認してほしいんだよね」と依頼してください。たとえば「確認します。今日の結論は、『××のクレームについて、客先に出向いて説明を行う』。今後やるべきことは『Aさんが〇日までに過去の説明資料をBさんに送り、Bさんは〇日までに客先への打ち合わせ日程を調整する』で間違いないですよね」といった具合です。そして、この役割を必ず自分以外の人に任せるようにしてください。経営者が仕切ってしまうと、社員に依存心が出て参加意識がそがれてしまうからです。
──そのような確認を行うとどうなりますか。
榊巻 当たり前ですが、決まったこととやるべきことが明確になります。参加者が「結局何も決まってない気がする」「決まったけど誰が何をすればよいのかわからない」という状態のままで会議を終えてしまうのが一番まずいわけですから。
──わかります。
榊巻 誰が何をいつまでにやるのかを確認することを習慣づけることができれば、参加者の姿勢が自然と変わってきます。会議中の話を真剣に聞かなければならなくなるし、決まったこと、やるべきことが気になるようになる。一気に〝締まった〟会議になります。これが会議を変える入り口です。
板書で参加者に共通認識が
──次に行うべきことは?
榊巻 確認を行う人とは別の参加者に「議事録の代わりにしたいので、会議の内容をホワイトボードに書き移してくれる?」と依頼してください。
──板書ですか。
榊巻 われわれは「スクライブ」と呼んでいますが、これを行うと、議論が「見える」ようになります。この時に留意すべきは「発言をそのまま書く」「質問や議題を〝問〟として明記する」「決まったことを〝結〟として明記する」(『戦略経営者』2020年3月号12頁参照)ことです。すると、どのような問いが出て、どのような結論が出たのかが整理され、参加者に共通認識ができるので、劇的に議論が楽になります。
──そういえば、板書のない会議では何が何だか分からなくなることがあります。
榊巻 盤面を見ずに将棋を指すようなものですからね。話題がどんどん移っていったり、発言が言いっぱなしになったり、意見と質問と話題が錯綜(さくそう)したり、同じような話が繰り返されたり、過去の議論を覚えきれなかったりといったことが起こりがちになります。スクライブはそのような迷走状態に陥ることを防止します。おまけに、スクライブされたホワイトボードを写真にとって、それを議事録代わりにすることもできる。一石二鳥にも三鳥にもなります。
──「確認」と「スクライブ」を、参加者に依頼する際の留意点は?
榊巻 依頼した後に「使う」「ほめる」を行ってください。確認した事柄を確実に実行することを徹底し、また、スクライブを最大限使って議論を進め(使う)、さらに、「決まったことややるべきことが明確になってすっきりしたよ」「今日の板書はとても良かった。助かったよ」と依頼した人に声をかけてあげてください(ほめる)。すると当事者のモチベーションがみるみる上がります。さらに、スクライブを議事録代わりにすれば、それに見合うような書きかたを工夫するようになる。次々と良い循環が生まれるわけです。
ちなみに、依頼された参加者のことをわれわれは「ファシリテーター」と呼びます。ファシリテートは「促進する、容易にする」という意味の英語で、ファシリテーターはあるゴールに向かう活動を促進する、容易にする役割を持つ人のこと。これまで見てきた2人は、「隠れたファシリテーター」で、参加者は誰も彼らをファシリテーターとは思っていません。なぜ隠れているのかというと、ファシリテーターを宣言してしまうと無用な期待が生まれハードルが高くなってしまうからです。一方「隠れないファシリテーター」が必要なこともあって、それについては後述します。
いずれにせよ、「確認」と「スクライブ」という二つの作業を行うだけで、会議の質は劇的に向上します。これだけで十分だと言っても良いくらいです。少なくとも「何の話をしているんだ?」「早く終わらないかなあ」などという参加者のもやもや、主催者への依存心は確実に減ります。
「終了条件」を決める
──次は何をすれば?
榊巻 どういう状態になったら会議が終了するのかという「終了条件」を決めることです。要するに「会議の目的」のことですが、目的というのはあやふやな言葉なので使わない方が良いと思います。たとえば、終了条件が「課題を出し切った」状態なのか「出した課題に優先順位をつけた」状態なのか「課題への対応方法と担当者がきまった」状態なのかで、議論の進め方は全然違ってきます。また、ここがあいまいだと際限なく会議が長引いてしまうことにもなりかねません。
──「状態」という言葉がたくさん出てきますね。
榊巻 「数字を報告する」「情報を共有化する」だけではなく、数字を報告する、情報を共有化することで、どういう状態までもっていきたいのかがポイントです。つまり「する」という動詞ではなく「状態」を終了条件にしないと具体的成果に結びつきません。
──ところで、終了条件はどうやって決めたらよいのですか。
榊巻 「確認」「スクライブ」と違って少し高度になるので、主催者である経営者が終了条件を決めてください。ここからは経営者が「隠れない(表に出る)ファシリテーター」となります。もちろん、終了条件をみんなで話し合って決めてもいいのですが、中小企業の場合は、経営者が事業のグリップを握っている場合が多いので、経営者の意向をダイレクトに反映させた方がよいと思います。
──どうすれば、目指す終了条件の状態にすみやかにもっていけるのでしょうか。
榊巻 「プレップ(Prep)シート」(『戦略経営者』2020年3月号13頁参照)というものを使えばスムーズに行きます。つまり終了条件までのプロセスを準備するわけです。終了条件(Purpose)、参加者(People)、議題の進め方(Process)、必要なもの(Property)という四つのPをこのシートに書き込みながら、議題ごとの時間配分を決め、全体の流れをデザインします。もちろんこれは「隠れないファシリテーター」の役割ですが、いきなりつくるのは少し難しいかもしれません。しかし、このプレップシートをあらかじめ参加者に渡しておけば、全員の意識が統一され会議の進行がとても楽になります。ぜひ挑戦してみてください。
「いないと困る人」だけを集める
──参加者の意見を引き出すコツはありますか。
榊巻 三つあります。まず「名指しで振る」。そして、「どうしてその意見なのかを聞く」。たとえばA案が良いという意見なら、なぜA案なのかを聞くのです。さらに、「根気よく聞く」。よくやる間違いは、「わかってねえな」「どうしてそうなんだよ」といった頭ごなしの否定です。これをやってしまうと言われた方は委縮してしまい、二度と意見を言わなくなってしまいます。根気よく「なぜA案なのか」と発言を促すことで、活気のある会議を維持することができます。それと、経営者が先に意見を言わない方が良いかもしれません。社長イコール正義の思い込みが参加者にあると、違う意見を言いにくくなるからです。
──参加者の選択はどう行うべきですか。
榊巻 「いないと困る人」だけを集めてください。多くの会社が「いた方がよい」人を集める会議になっています。それだと、誰にとっても情報は多い方が良いわけですから、結果的に膨大な人数に増えてしまう。一概にはいえませんが、まともに議論するなら人数は5~6人が限度だと思います。
──ほかに留意点は?
榊巻 まずはやってみることです。最初からあれもこれもと欲張る必要はありません。どこでも誰でもできることから始めてください。前述した「決まったこと、やるべきこと」の確認だけでも十分です。大事なのは継続して習慣にすること。そうすれば必ず会社に底力がついてきます。力がついてきたと実感したら、次のステージへとチャレンジする。そのように段階を踏んで確実に前に進んでいってください。
(構成/本誌・高根文隆)