2019年9月号、11月号に続く〝資金繰り新時代〟第3弾。さらにケーススタディを取材し、短期継続融資で正常運転資金をまかなう“中小企業にとっての正しい資金繰り”の実践例をレポートする。

資金繰り新時代

 筆者の手元に、カワイデンキの直近の経営分析報告書がある。

 2013年3月期の債務超過、単年度赤字の状態から、見事に反転。6年後の19年に売上高は約40%増加、数千万円単位の最終利益を計上している。もちろん債務超過は解消、自己資本比率はゼロから20%近くまで上昇した。まさにV字回復である。

 この絵に描いたような展開の背景には西田裕司社長の幅広い人脈と発想豊かな営業力、京都税理士法人による会計支援と財務システムの構築、加えて京都信用金庫の資金面でのサポート、という三位一体の取り組みがあった。

 15年間、国会議員の秘書をつとめていた西田氏が、ひょんないきさつから同社に営業マンとして入社したのは09年1月(正式な社長就任は15年)。大型自動車の電機まわりの配線修理やカー用品の販売・取り付けを主業務とする河合電機工業所(カワイデンキの前身)が、オーナーの高齢を理由に解散。残された社員が社名をカタカナに変更し新社屋と工場をオープン、心機一転再出発したタイミングでの入社だった。

新規事業を積極的に開拓

 しかし、状況は芳しくなかった。設備や新規事業への投資がじわじわと財務を圧迫。折からのリーマンショックの影響も重なって債務超過へと転落する。危機感を抱いた西田氏は、せっかくの高い技術とノウハウを生かし切れていない現状を突破すべく激しく動き始める。まずは売り上げの目減りをなんとかしなければならない。営業力の向上である。

 西田社長の営業活動のベースはその豊富な人脈と行動力、そして議員秘書時代に培った交渉力にあった。そこで、従来の取引先の硬直性に風穴を開けるべく、大手メーカーへの働きかけを行う。その成果は燦燦(さんさん)たるものだった。富士通の1次下請けとして消防の分野ではデジタル無線機・指令システム情報端末機、道路の分野では高速道路位置情報システム端末機の取り付け業務を受注。また、経済産業省の事業がらみで、大型自動車へのデジタルタコメーターの装着の仕事も獲得。さらに珍しいところでは、JRAの施設、栗東トレーニングセンターからサラブレッドを運ぶ「馬運車」の製作をデンソーやボディーメーカーと連携して手掛けたりもしている。

「どれも新規で専門性が高い仕事ですが、当社のスタッフたちが持ち前の技術力を発揮してくれたおかげで、大きな実績へと結びつきました」(西田社長)

 心配された現場スタッフとの〝ぎくしゃく感〟も西田社長の行動力と熱意、そして実績によって次第に溶解していく。

会計事務所との二人三脚

 管理面でも動いた。顧問の会計事務所を変更したのである。

「とても厳しい状況だったので、迅速に会社の現状がつかめ、かつ将来が見通せる緻密な会計の仕組みを構築したかった」という西田社長。金融機関に紹介された京都税理士法人(代表・江後良平税理士)に財務管理を託すことにした。13年のことだった。

 その京都税理士法人から派遣されてきたのが山本聡経営支援部長。前職がバンカーで、金融機関との交渉を得意とする山本部長は、まず、「金融機関との向き合い方が分からなかった」西田社長への詳細な聞き取りを行い、会社の業務全体を視覚的にとらえることができるチャートを作成。それを持って銀行を訪れ、会社の現状と将来性を説明することからスタートした。カワイデンキと京都税理士法人の二人三脚のはじまりである。

 京都税理士法人の江後良平代表はこう言う。

「巡回監査、月次決算、経営計画の策定などTKC方式の会計を着実に履行しつつ、その内容を社員の方々にも公開。また、毎年、ステークホルダーを招待して決算報告会を挙行。西田社長の決意表明とともに、内外に経営状況を共有化し、意思統一をはかりました」

 なかでも徹底したのが、決算報告会後の金融機関との交渉。

「有利子負債の額はそう変わっていませんが、金利レートは当時とはまったく違ってきています。毎年の交渉で平均3%台から0%台へと下がっていますから……」と山本部長。会社の業績を引き上げ、その分、しっかりと金利低減へと結び付ける――この活動が、キャッシュフローを増大させ、さらなる飛躍への燃料となる。

 そのような活動の集大成といえるのが、19年夏のメインバンクの変更だった。

 きっかけは、京都信用金庫とTKCの共同開発商品「TKC絆ローン」。概要は『戦略経営者』2020年2月号P56図表1の通りで、「TKCモニタリング情報サービス」(MIS=『戦略経営者』2020年2月号P57図表2)導入などの条件を満たす企業に1000万円以内の「当座貸越枠」を設定できるというもの。MISは、企業の年次決算書(電子申告と同じもの)や月次試算表が、オンラインでタイムリーに金融機関に届けられるというサービスで、もちろんその内容はTKC方式の会計を経た信頼性の高いものである。

 山本部長は言う。

「カワイデンキさんのメインバンクは、創業期からの付き合いがある他の金融機関でしたが、昨年の決算報告会後の金利見直し依頼に対し、あまり満足のいく回答がいただけなかった。そこで、絆ローンで取引実績ができた京都信金さんに話を振ってみたのです」

 京都信金栗東支店の反応は早かった。平尾勝則支店長は言う。

「TKC方式の会計は信用の裏付けになりますし、MISによって申告された決算データとそっくり同じものを迅速に入手できるということは、われわれ金融機関にとっていわゆる〝事業性評価〟を後顧の憂いなく行える条件がそろっているということです。さらに言えば、西田社長は経営に対する熱意が高く、業績も良い。当金庫のモットーは〝共通価値の創造〟であり、企業の課題解決に普段から取り組んでいるという自負もある。そんななかで、お二人から話があり、今できることを提案させていただいたわけです」

メインバンクを大転換

 山本部長が考える融資の形は、「必要運転資金は短期継続融資(専用当座貸越)」「設備投資は長期資金」という資金繰りの大原則(『戦略経営者』2020年2月号P57図表3参照)。この原則が金融検査マニュアル(99年)の適用以来ないがしろにされ、多くの中小企業が「営業キャッシュフローは黒字なのに、なぜか資金繰りが苦しい」という状況に陥ってしまっている。運転資金をまかなうために、その都度、安易に長期の借り入れを重ねていくという手法が、そのような状況をつくりだしたのだ。

 さて、京都信金栗東支店の提案とはどんなものだったのか。

「絆」での当座貸越を皮切りに、プロパーで8000万円の当座貸越枠を提供。計9000万円で、短期資金需要をカバーする。さらに、5000万円の長期融資をプラス。これで、従来のメインバンクからの融資をほぼすべて京都信金に移し替えた。約10本あった融資本数が、4本に簡素化され、金利も大幅に引き下げられた。結果、年730万円の返済が、半分以下の約300万円に。キャッシュフローが大幅に改善された。リスクを最小化した絶妙な借入金ポートフォリオの完成である。

 とはいえ、メインバンクはそう簡単に変更できるものではない。長年の取引金融機関との取引を停止し、新たな金融機関と契約を結ぶわけだから、そこには少なからずフリクションが発生する。ここでは「(そのプロセスは)ドラマのようだった」という、山本部長の言葉を記述しておくにとどめておこう。

 さて、平尾支店長の言葉に戻る。

「このような条件でのご融資ができたのも、西田社長と京都税理士法人がタッグを組み、しっかりと経営を立て直してきた実績があったからです。そこにわれわれが加わることで三位一体の体制ができつつあると思っています」

 京都信金のみならず金融機関は、企業経営者に寄り添いながら経営をサポートすることが主要な事業目的である。とはいえ、マンパワーやコストの問題などから、取引歴の浅い企業の場合、内情の深いところまではどうしてもリサーチの手が届かない。つまり、リスクが量りきれないケースも少なくないのである。しかし、経営者の至近距離にいて企業の内情を知る顧問税理士とコラボレーションすれば、そのような課題は解決する。将来キャッシュフローをしっかりと割り出し、適切な事業に適切な資金を供給することが可能になるというわけだ。

組織の全体最適を模索

 3者の努力によって、資金繰りの理想形へと近づける形がまがりなりにも出来上がった理由について、京都税理士法人の山本部長は「西田社長の経営者としての能力とがんばり、そして妥協しない姿勢が大きい」と強調する。

 前述の通り、ここまでの西田社長の新規事業へのチャレンジと実績は出色だが、よりすごいところは、営業活動以外のマネジメントの質の向上を追求する謙虚さと実直性だろう。西田社長は言う。

「私ひとりの力では到底ここまでたどり着けなかったと思います。山本部長をはじめ、さまざまな方から経営ノウハウを教えていただきながら何とか進めてきたというのが実際のところです」

 西田社長は既述の通り、適時・正確な会計を実践しつつ、中長期の経営計画を策定し、毎春、全社員を集めて決算報告会も開催。就任当初は人員整理も断行し、同時に作業の効率化対策、緩みがちだった従業員の規律づくり、また、優れた技術者である前社長が本領発揮できるような環境づくりにも奔走した。地域との連携にも熱心に取り組み、マルシェの開催、オリジナルかごバッグの販売などで、近隣の学校や取引先に名前を知ってもらう活動も並行して行った。最近では、京都信金のコミュニティーサークルにも積極的に参加し、経営者としての幅を広げる努力も行っている。

 トップが単に売り上げを上げることだけに没頭していては、企業としての成功はおぼつかない。組織としての全体最適を常に模索する姿勢が、サステナブルな事業活動を担保するのだとすれば、西田社長のこれまでの活動は、カワイデンキの次世代をも見据えた長期戦略の発露だといえるだろう。加えて同社と会計事務所、金融機関が、今風に言う〝ワンチーム〟となることで、その経営力を倍加させている現状は、資金繰りのみならず中小企業支援の理想に近い形と言えるのではないだろうか。

(本誌・髙根文隆)

会社概要
名称 カワイデンキ株式会社
設立 2007年4月
所在地 滋賀県栗東市小野733-1
売上高 約2億円
従業員 10名
URL http://www.kawaidenki.net/
顧問税理士 京都税理士法人(江後経営グループ)
京都本社 京都府京都市南区吉祥院九条町30-1
滋賀支社 滋賀県草津市野路1-4-5
大阪支社 大阪府大阪市北区梅田1-1-3
URL:https://ego-kcc.com/

掲載:『戦略経営者』2020年2月号