中小企業のみの力では、できることは限られる。かといって従来型経営に終始すれば、じり貧は避けられない。今後は、金融機関と税理士とタッグを組み、三位一体で経営を盛り上げる姿勢が生き残りのキーポイントとなる。
岡山県の西端、笠岡市の中心部にシステム・エムズはある。
専門学校時代は税理士を目指していたという横田慎也社長。卒業後、創業まもないITベンチャーに経理マンとして採用された。ところが、新入社員共通のコンピューター研修を終えると、なぜかシステムエンジニアとして東京に派遣される。そこで汎用(はんよう)機の設計・開発に携わり、コンピューターの奥深さに目覚めた。
「就職するまではコンピューターなんて触ったこともありませんでした。むしろ嫌いでしたね」と横田社長は述懐する。
しかし不思議なことに、IT業界との〝縁〟はその後も続く。
6年後に退職、他業界への転職を目指そうと準備していた時、前職で付き合いのあった会社から年賀状の宛名自動レイアウトシステムの開発依頼が舞い込んだ。その仕事をSOHOとして請け負い、約3カ月で納品。フィーとして400万円が転がり込む。1997年のことである。
「当時の年収を超える金額に驚きました。その後も工場の品質管理システムなどを立て続けに受注し、独立前の年収の数倍が口座に振り込まれました。私はもともと税理士志望なので〝このままでいいの?〟と……。慌てて友人の宇野(元浩)税理士に連絡しました」
横田社長と宇野税理士は専門学校時代の同窓生。気の置けない仲である。宇野税理士は、25歳で税理士資格をとり、26歳で税理士登録、現在は税理士法人エフ・エム・エスの所長をつとめる。
「税理士をあきらめたのは彼(宇野税理士)のせい(笑)。最初は高校時代に簿記をかじっていた僕が教える立場だったのですが、あっと言う間に抜かれてしまったのです。いったい、いつ勉強してるんだと(笑)」
しばらくは宇野税理士の無償アドバイスを受けながら青色申告を行っていた横田社長。2000年、スタッフ3名を雇用し有限会社システム・エムズとして法人成り。正式に宇野税理士を顧問として迎え入れる。さらに2004年には株式会社に組織変更、8名体制とするなど右肩上がりの路線を走り始めた。
同社の強みは「ユーザーのニーズに対し合理的解決策を提示する能力の高さ」だと横田社長は言う。
「要望に対して〝できない〟と否定的見解を述べるよりは、常にお客さまの立場に立ち、〝経験で得た知恵〟と〝発想の転換〟や〝創意工夫〟の中でどうすればできるかを検討・提案することを心がけています」
技術的には、常に最新のフレームワークを整備し、業界の状況にアンテナを立てている。早い段階からクラウドに目をつけ、より高度なウェブシステム構築を手掛けてきた。なかでもAmazon Web Service(AWS)上のクラウド開発における実績は多く、MICE関連のウェブエントリー系システムや公共土木積算システムの利用者には、国内外の名だたる企業が名を連ねる。
当座貸越枠を獲得
宇野税理士は言う。
「横田社長は税理士志望だっただけあり、数字に明るく、当初からTKCの自計化ソフトを導入。月次決算、業績検討会を実践してきました。創業以来、赤字になったのは東日本大震災の影響を受けた2011年だけです。それまではほぼ無借金経営でした」
無借金経営にこだわりを持っていた横田社長だが、7年前の赤字の経験を契機に、発想の転換を余儀なくされる。
「ただ仕事を漫然とこなすだけで、必要な投資を怠れば、必ず頭打ちがおとずれると感じました。たとえば今後、人材の採用・教育の部分にある程度のお金をかけていかないと、成長はおぼつかないでしょう。私に何かあっても回るような組織づくりも必要です。それらを可能にするためには〝どれだけのお金を借りることができるかも会社の実力〟との考え方も大事だと、次第に感じるようになってきました」
そのような横田社長の心理の変化を敏感に感じ取っていた宇野税理士は、リリースされたばかりのある融資商品を紹介する。玉島信用金庫の「TKC特別融資制度」(『TMサポート』)である。これはTKCの財務会計システムを利用しながらTKC方式の会計(巡回監査、月次決算、書面添付等)を実践する企業を対象とする商品で、最大の特徴は当座貸越(100万円~5000万円)であること。「TKCモニタリング情報サービス」の導入や「記帳適時性証明書」の内容(◎が直近の決算期において6個以上)などによって融資限度額が変動する。ちなみに、同社では両条件ともクリアしている。
「同社のメインバンクは玉島信金さんではありません。しかし、取引金融機関は多いにこしたことはないし、玉島信金さんは、非常に元気があって独創的な取り組みを実践されています。『TMサポート』はまさにそんな取り組みのひとつ。システム・エムズさんにぴったりの商品だと考え、お勧めしました」(宇野税理士)
一方の、横田社長も「当座貸越なので、煩雑な手続きや印紙代も要らないし、自由な借り入れ・返済ができる。とても利便性が高い商品だと思います」と〝渡りに船〟といった反応。さっそく、玉島信金に融資枠の設定を申請、承認された。限度額は2000万円。
さて、この商品には、もう一つ特徴的な要件がある。年1回、企業、玉島信金、税理士の3者による「モニタリング会議」が融資条件のひとつとなっていることだ。このようなスタイルの融資制度は全国で初の試みだという。
ではモニタリング会議とはどのようなものなのか。現場の雰囲気を切り取ってみる。
年に1度の3者会議に密着
5月22日早朝、システム・エムズの会議室に横田社長、宇野税理士、そして、玉島信金笠岡支店の塚本経重支店長、太田桂一支店長代理、本店融資部の宇野将太さん(ビジネスサポート課)が集まった。あいさつもそこそこに5人が着席。なごやかな雰囲気のなか、宇野税理士が説明をはじめる。
「お手元の変動損益計算書の10期比較表をご覧ください。赤字は東日本大震災の際の一度だけ、あとは全部黒字です。従業員も平成21年度は6名でしたが現在は13名。いまや笠岡の駅前を牛耳ろうという勢いです」との一同の笑いを誘う発言に「それはないですよ」と手を振る横田社長。
続けて「直近の貸借対照表を見ても、流動性の預金が○千万円、定期預金も○千万円と十分です。自己資本比率は56%。十分な経常利益を計上。不良債権ゼロで、棚卸しも毎年行っています。賞与引当金も積んでおり、会計も中小会計要領にのっとっている。倒産防止共済も満額積み立てており、退職金の積み立ても行っています」と、宇野税理士が矢継ぎ早に同社の経営状況を解説。
すると、塚本支店長が「率直に、とても堅実な経営だと思います。とかく利益が上がっている会社は役員賞与を増やしてみたりしがちですが、それもない」と応答。
さらに、太田支店長代理が「長期借入金が少し増えているのが気になるといえば気になりますが、さきほど説明があった現預金の額と比較すれば問題ないレベルです」と発言。
それを受けて「有利子負債はトータルで○千万円ですが、これは明日にでも返すことができます」と宇野税理士が補足。
横田社長が加える。
「金融機関に泣きついたり、相談したりといったことは従来は想像もできませんでした。ところがここ数年、金融機関から経営の中身への支援の話が増えてきた。実は、玉島信金さんからも、ある企業とマッチングの話をいただき、近く顧客管理システムの開発案件を受注できそうです」
塚本支店長は言う。
「取引先の販路支援のために、全店舗挙げて情報を収集しています。そんななか、横田社長と面談し、ニーズに合うマッチングの相手を紹介させていただきました。相手の方も遠方の会社だと気軽に相談できないので、地元で探してほしいとのこと。そのようなご希望に沿えるのも、地域金融機関だからこそだと思います」
ここで宇野税理士が、モニターにシステム・エムズのローカルベンチマーク(※)による分析表を映し出し、財務面での健全性の高さを裏付けるとともに、非財務面での課題を浮き彫りにする。その課題とは請け負い仕事による非安定性。
これに関して横田社長が「イニシャルを抑えてでも、保守、要するに継続的な収益を増やしていきたい。そうすることで、リスクが減少し経営が安定しますから」と発言。さらに〝安定性〟という観点から人材教育の重要性について触れるなど、横田社長の将来的なビジョンが明確にされる。
基本的に宇野税理士と横田社長が説明し、玉島信金の3名が聞き役に回る形で会議は進んだ。それもそのはず。この会議の目的は、システム・エムズの内実を玉島信金に「分かってもらう」こと。単に試算表や決算書を提出するだけでは果たし得ない、莫大(ばくだい)な効果が見込まれる。
塚本支店長はこう言う。
「取引先に提案をしても、〝顧問税理士に相談してみます〟という回答が結構多い。だったら税理士と当庫がタッグを組んだら強いのではとのイメージは以前からありました。『TMサポート』はその良い試金石になりそうです」
太田支店長代理も「担当者ベースで経営者に決算の話を聞く機会はなかなかないし、しかも税理士先生に入っていただければより詳細な経営状況が分かる。われわれの良い勉強の機会にもなります」
ビジネスサポートを担当する宇野さんが続ける。
「ここまで将来を考えておられる経営者は少ないと思います。自社の強みと弱みをしっかり理解されているからこそでしょう」
モニタリング会議の最大の目的は相互理解。横田社長は「親密度が増し、印象が変わった」と玉島信金を評価し、一方の塚本支店長も「社長の堅実性と独創性、将来ビジョンなどがよく分かりました。あと、宇野先生の指導のもと、巡回監査、月次決算、書面添付、記帳適時性証明書の発行などを地道に実践されていることがベースとして大きいですね。その意味でもTKC会員の先生方とのコラボレーションは、ぜひ進めていきたいと思っています」と応える。
企業、金融機関、税理士の三位一体化が、『TMサポート』の目的。その目的の早期成就が、今回のモニタリング会議で垣間見えた気がした。
※ローカルベンチマーク
金融機関などが、企業の経営状態の把握、いわゆる「健康診断」を行うツール(道具)として活用できるもの。「財務情報(6つの指標)」と「非財務情報(4つの視点/商流・業務フロー)」をもとに会社の経営状態を分析できるところに特長がある。
(本誌・高根文隆)
名称 | 株式会社システム・エムズ |
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創業 | 1997年9月 |
所在地 | 岡山県笠岡市中央町15-20 |
社員数 | 13名 |
URL | http://msap2.jp/emuzu/ |
名称 | 玉島信用金庫 |
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創立 | 1914年11月 |
本店 | 岡山県倉敷市玉島1438 |
会員数 | 3万4,202名 |
出資金 | 9億8,200万円 |
預金・積金 | 3,640億円 |
店舗数 | 21店舗 |
名称 | 税理法人エフ・エム・エス |
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開業 | 1980年5月 |
所在地 | 岡山県岡山市南区豊成1-5-3 |
従業員 | 16名 |
URL | http://www.fmsinc.co.jp/ |