初めて製品輸出する計画を立てていますが、代金回収に不安があります。中小企業も利用できる貿易保険について教えてください。(産業用機械製造業)
貿易保険は、航海中の事故などで貨物に生じる物的損害をカバーする「海上保険」とは異なり、不可抗力的な事由(「非常危険」)かバイヤー責任による事由(「信用危険」)により製造中の貨物が船積みできなくなった場合、または輸出代金が回収できなくなった場合に、輸出者が受ける損失をカバーする「取引の保険」です。具体的な事由には、輸出先国の戦争や外貨送金制限・貨物輸入制限、バイヤーの破産や資金繰り悪化による不払いなどがあります。
輸出契約を対象とした保険には、「貿易一般保険」や中小企業の海外展開を支援するため創設された「中小企業輸出代金保険」などがありますが、カバーする範囲や損失に対する保険金の支払い割合(てん補率)などは商品により異なります。
中小企業輸出代金保険では代金の回収不能による損失のみをカバーし、保険事故で支払われる保険金は、「非常危険」「信用危険」によるいずれのケースでも損失額の95%となります。また貿易一般保険では、船積不能と代金回収不能両方による損失をカバーし、てん補率は、「非常危険」で損失額の97.5%、「信用危険」で90%となります。
中小企業は、日本貿易保険のすべての保険を利用できますが、なかでも中小企業輸出代金保険は、毎年4~6億円前後の引受実績があります。この保険は、契約金額が1000万円以下、貨物の船積日から決済期限までの期間が180日以内の輸出契約を対象とし、特に中小企業支援の観点から、(1)貿易保険の申込みと金融機関等による保険金請求権等への質権設定申請を同時に行うことができる、(2)保険金請求後、原則として1ヵ月以内に保険金を支払う――などの特徴があります。保険料率は、中国向けの決済期間60日の取引の場合で契約金額に対し0.6~1%程度で、バイヤーや取引条件によって異なります。詳細は日本貿易保険にお問い合わせください。
貿易保険は、日本在住の企業と海外のバイヤーとの間で合意された売買契約であれば引受け出来ますが、契約上のトラブルが原因の不払いなどは保険金が支払われない場合があるため、バイヤーとの間で契約条件(貨物の名称や数量、船積時期、決済時期や決済方法など)を確認した両者のサイン付契約書を取り交わすなど、形式的にも有効に成立した輸出契約であることが必要です。
保険の引受け可否判断は、輸出先国の「国別引受方針」や、バイヤーの与信審査結果により行います。一度与信審査を行ったバイヤーは「海外商社名簿」に登録し管理していますが、登録済みバイヤーの中には、財務内容が悪く「信用危険」による損失がカバーされないものもありますので気をつける必要があるでしょう。
名簿に登録されていない場合は、バイヤーの信用調査報告書を取得して日本貿易保険に登録依頼をして下さい。なお、中小企業の貿易保険利用を支援するため、1社あたり3バイヤーを上限として日本貿易保険が信用調査書取得費用を負担するサービスも行っています。
このほか日本貿易保険では昨年から、商工組合中央金庫と業務協力を開始しました。審査結果にもよりますが、貿易保険付輸出代金債権を担保とすることによって、(1)輸出代金債権の金額に見合った融資が受けられる、(2)決済方法が為替手形でなく送金ベースのものでも輸出債権の資金化ができる、(3)貸出利率に優遇した金利が適用される――などのサービスを利用することができます。