対談・講演

経営者保証に依存しない融資促進に向けて税理士の尽力を期待したい

坂本孝司 TKC全国会会長 × 遠藤俊英 金融庁監督局長

金融行政が大転換される中で、金融庁は事業性評価重視の取り組みや顧客企業と共に成長する持続可能なビジネスモデルの実現を地域金融機関に促している。今後さらに重要度を増す中小企業金融における地域金融機関と税理士の連携のあり方を中心に、金融庁遠藤俊英監督局長とTKC全国会坂本孝司会長が語り合った。

進行:TKC全国政経研究会事務局長 内薗寛仁
とき:平成30年5月9日(水) ところ:金融庁監督局長室

巻頭対談

金融行政改革の総括として検査局を廃止し総合政策局が設置される予定

 坂本 遠藤監督局長には公務ご多忙の中、対談をお引き受けいただきありがとうございます。本日は、地域金融機関と税理士等外部専門家の連携のあり方について、示唆をいただければと思います。はじめに、非常に大きな変化のあった金融行政と今日の金融行政方針の要点をあらためてお伺いできますか。

金融庁監督局長 遠藤俊英氏

金融庁監督局長 遠藤俊英氏

 遠藤 ご承知のように、金融庁(金融監督庁)は、バブルが崩壊して金融機関の不良債権が日本経済における最も深刻な問題だった1998年に、大蔵省から独立してできた役所です。したがって、その不良債権問題をいかに解決するのかが金融庁に課されたミッションでした。さまざまな施策を通じて、不良債権問題は2000年代半ばには一応の収束を見たわけですが、その後、2007年ごろにイギリスのFSA(金融サービス機構)などが掲げていた、プリンシプル・ベースのベター・レギュレーション(金融規制の質的向上)を日本でも取り入れて、新しい金融行政の枠組みを作るべきではないかという議論が起こりました。
 ところが2008年にリーマンショックが起きて、そういう新しい枠組みの議論は滞りました。それでも2012年の第二次安倍内閣発足に伴ってアベノミクスが開始され、それと軌を一にするように、新しい金融監督の枠組みを議論し直そうではないかということになりました。それ以来、金融行政の改革を模索してきたところです。
 そうした改革の総括として、この夏から検査局を廃止して、総合政策局(戦略立案・総合調整機能の強化)が設置される予定です。

 坂本 その発表を聞いて、私も驚きました。

 遠藤 また、各金融機関の不良債権問題について検査局が中心となって対応してきた基準の一つが「金融検査マニュアル」だったわけですが、これも平成30年度終了後を目途に廃止します。従来は、ルールとチェックリスト中心で、方針に示された結論の適用となっていたものを、今後はプリンシプルと考え方・進め方を中心に、金融行政の目的に遡って判断することで、金融機関が地域においてよりよい方向の金融仲介業を行っていけるよう後押しさせていただくというのが、いまの金融行政の方針の要点といえます。

 坂本 金融庁が発足して今日に至るまで、極めてダイナミックな動きをされているのがよく分かりました。そのような背景の中で、われわれ税理士の社会から求められる役割も大きく変化してきています。
 私は、税理士には、税務・会計・保証・経営助言の四つの業務が今日的にあると考えています。税理士はもとより税務に関する唯一の専門家ですが、TKC全国会では昭和46年の創設以来、税理士は会計の専門家でもあるという立場から、「職業会計人集団」を標榜してきました。
 また、保証業務については公認会計士による法定監査がその最たるものでしょうが、中小企業には会計監査が義務づけられていません。われわれは税理士法に規定されている書面添付制度によって、税務申告書の信頼性を税理士資格を懸けて担保するという税務申告書に関する保証業務にも力を入れてきました。確定決算主義のもとで書面添付が行われれば、間接的にではありますが、決算書にも信頼性が与えられるという一般的な理解のもとで、これを中小企業金融にも活用していただこうとしているところです。
 さらに、経営革新等支援機関による経営改善計画策定支援事業や早期経営改善計画策定支援などを含めた経営助言業務への期待も高まっています。加えて告示は、資金調達力の向上を促進させるために、中小会計要領等に拠った信頼性ある計算書類の作成及び活用の推奨を支援機関に求めています。
 以上の四つの業務を正しい会計帳簿をベースとしてしっかり展開して、中小企業のため、ひいては地域経済、日本経済の発展のために貢献していきたいと思っています。

全国のさまざまな金融機関を訪問 高い志の外部専門家との連携こそ有効

TKC全国会会長 坂本孝司

TKC全国会会長 坂本孝司

 坂本 金融庁が公表されている「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」には、顧客企業のライフステージ等に応じて提案するソリューションとして、外部専門家や外部機関等との連携が具体的な方法として記載されています。そこには、随所に税理士が外部専門家として明記されており、かねてから大変ありがたく思っております。

 遠藤 外部専門家や外部機関等との連携のことが追記されたのは、平成23年の監督指針からです。これは、私が監督局担当の審議官のときに作成したものです。当時の監督指針を改正するに当たって、金融機関が顧客企業に対してどのような対応をしているか、そのありのままの姿を知るために、全国のさまざまな金融機関を何人かの課長補佐とともに訪問して回りヒアリングしました。
 そこでいろいろ分かったことがあったのですが、特に印象的だったのは、金融機関が単独で顧客企業の課題を特定し、それに対する適切なソリューション(経営目標の実現や経営課題の解決を図るための方策)を提供するのは難しいのではないかということでした。どういうことかというと、ある地域では極めて優れた税理士さんがいる。またある地域では極めて優れた商工会議所の経営相談員さんや地方公共団体の中小企業担当の方がいる。そういう方々が、非常に高い志を持ちながら、中小企業金融についてもライフステージ等に応じて適時に最適なソリューションを提案するなどの力を発揮されていました。金融機関にはそういう顧客企業の一番助けになってくれる方々とのネットワークを作っておく努力がもっと必要なのではないかと感じました。

 坂本 税理士との連携例で印象的なお話はありましたか。

 遠藤 ある信用金庫の方が「中小企業の悩みを受け止めて、それに対するソリューションを提供する力は、日常的に密着している顧問税理士さんにはかないません」「顧問税理士さんの協力を得て経営者の本音を聞かないことには融資はなかなかできません」と言われたのがとても印象に残っています。それを聞いて、「なるほど、税理士さんというのは、中小企業の経営にかなり食い込んでいて、相談相手として信頼されている方が多いのだな」ということをあらためて知りました。
 やはり一番大切なのは、中小企業の経営改善であれば、いかに問題点を正しく認識し、それに対してソリューションを提供できるかということです。それが金融機関だけでは十分に行えないのであれば、税理士をはじめとする外部専門家等とパートナーシップを築いていくことが必要です。その方向で地域の企業のために貢献することをより明確にしようという趣旨でまとめたのが、このときの監督指針でした。それが今日に至っています。

金融機関はリスクを取って融資すべき そのための事業性評価を監督指針で提起

 坂本 TKC全国会としていま最も力を入れているのは、中小企業金融において税理士がいかに貢献していくかということです。それには、健全な中小企業金融のボトルネックになっている金融機関と企業との間の「情報の非対称性」を正しい会計で解消しなければなりません。また、金融庁が掲げている事業性評価においても会計が果たすべき役割は極めて大きいと思っています。この事業性評価の促進についてお聞かせ願えますか。

 遠藤 金融機関が担保・保証に依存しない融資を実現するためには、やはり企業そのものにしっかりと向かい合い、経営者と対話しながら、どういうビジネスモデルを展開しようとしているのか把握しておく必要があります。必ずしも十分に担保・保証がなくても、リスクを取りながら融資するという、金融機関の金融仲介機能の本質を追求し直してほしいということで、それまでのリレーションシップ・バンキングの延長線上に、より金融機関の仕振りを意識した概念として事業性評価を提起したわけです。
 この事業性評価の促進については、平成25事務年度から金融庁としてモニタリングを始めました。まず、地域金融機関が顧客企業の事業を適切に評価できているのかどうか、どのように顧客企業の問題を認識してそれに対してどういうソリューションを提供したのかという、個別事例を素材にして、われわれと金融機関との間で具体的な議論をしました。平成26事務年度には、金融機関が顧客企業の事業を適切に評価してその活性化を促しているケースがいくつかあるということが分かったので、そのような金融機関に共通する組織や態勢の共通点を浮き彫りにするような検証も行いました。さらに、平成28事務年度には、地域金融機関が自らの事業性評価に基づく取り組みや、目利き力の向上に資する取り組みなどを自己評価するための「金融仲介機能のベンチマーク」を策定しました。こうした指標を活用して金融仲介機能がきちんと果たされているのかを知るのは、われわれ金融当局と金融機関との対話に欠かせません。
 さらに、それ以上に重要なのは、金融機関自身がどれだけ金融仲介機能を発揮できているのか、どれだけ事業性評価ができているのか、どれだけ地域経済に対して役に立っているのかということを情報開示して、それを顧客企業に見てもらえるようにするということです。

 坂本 その「金融仲介機能のベンチマーク」には、「事業性評価に基づく融資を行っている与信先数」や「外部専門家を活用して本業支援を行った取引先数」の指標が盛り込まれていますね。

 遠藤 これらの指標について、直近2期の金融機関の開示状況を見ると、事業性評価に基づく融資を行っている与信先数は約5割増しています。また、外部専門家の活用数は約2割増加しています。このように、金融機関の事業性評価に対する取り組みは深化してきており、外部専門家との連携についても拡大しているところです。

金融行政の目標

  • 本来、金融行政の究極的な目標は、企業・経済の持続的な成長を支え、また、国民の安定的な資産形成に寄与することを通じて、国民の厚生の増大化に貢献することと位置づけられる。
  • 金融庁発足から数年は、金融システムの安定、利用者の保護、市場の公正性・透明性の確保に注力していたが、究極的な目標を達成するためには、金融システムの安定と金融仲介、利用者の保護と利用者利便、市場の公正性・透明性と市場の活力について、各目標のバランスの取れた実現を目指していくことが重要である。

(金融庁提供資料から)

世界に誇る日本の会計帳簿を共通言語に事業性評価などで税理士の活用を

 坂本 われわれ税理士は、法人の約9割に関与しています。ですから金融機関の皆さんには、事業性評価などにおいても税理士をもっと活用してほしいと思っています。例えば、顧客企業において決算報告会が開かれたときに、金融機関の担当者の方もその場に参加して、社長自身からの決算状況の説明を受けていただく。また、金融機関の支店長や担当者と、顧問会計事務所が連携して企業を支援する仕組みを構築していただく。そのためには、企業側の了解のうえで、適時・適切な財務情報開示、利益計画の検討などを通じたモニタリングなどが、適切に行われるような関係を築いていくとよいのではないかと思います。
 そのときに、なくてはならないのが正しい会計帳簿です。私は、日本の会計帳簿は、世界に誇るべき社会的インフラだと考えています。付加価値税(消費税)の計算を帳簿方式で行う制度を採用している国は世界で日本だけです。この会計帳簿を金融機関の皆さん、われわれ税理士、そして経営者の方々の共通言語にして、事業性評価にも取り組んでいただけたら、これほどありがたいことはありません。

 遠藤 金融機関が事業性評価を通じて、顧客企業に最適なソリューションを提案する際に、金融機関自身のノウハウやマンパワーが不足しているというのは往々にしてあるわけです。そういった場合に、税理士さんなどの外部専門家との連携を図って、その顧客企業の主体的な取り組みを支援していくということは非常に有用だと私も考えております。また、金融機関と顧客企業の間では利害がぶつかるようなケースもあるため、税理士さんなどの外部専門家の方には、中立的な第三者の立場から、金融機関がなかなか言いにくいような辛口の意見も顧客企業に言っていただくことは非常に重要です。
 逆に、顧客企業が金融機関に対してなかなか遠慮して言えないということもあると思いますので、税理士の皆さんが代わりに伝えていただくといった、金融機関によるコンサルティング機能の発揮を側面からサポートしていただく役割が期待されると思っています。

 坂本 中小企業支援の現場から見て申し上げたいのですが、事業性評価を進める際の一つの課題として、金融機関の人事評価制度の問題があるのではないかと思っています。事業性評価のために長期間、お客さんを見守っていきますと言いながら、人事評価では、過去3カ月や半年の貸し出しがどれだけ伸びたか、あるいは、新規のお客さんをどれだけ獲得したかという項目のウエイトが大きいと聞いています。そうなると、現場では既存のお客さんをじっくり支えるよりも、新規の貸し出しのほうが優先されてしまうと思います。金融機関として短期利益を上げられないのは困るというトップの判断もネックになっている気がしてならないのですが、いかがですか。

 遠藤 もしそうなら、自分たちの時代だけよければいいということですから、好ましい話ではありませんね。特に、地域における金融機関経営というのは、中・長期的な視点に立つべきだと思います。それには事業性評価をしっかり行って、地域の企業をじっくり下支えする。そのことによって、地域経済は活性化して地方創生も実現するわけです。そのための有力なプレイヤーとして、金融機関があるはずです。

巻頭対談

「経営者保証ガイドライン」が求める資格要件は、TKC全国会運動の集大成

 坂本 中小企業金融における地域金融機関と税理士による連携は、以前よりもかなり進展してきているのは明らかです。とはいえ、双方にはミスマッチも多く、まだまだ信頼関係の醸成等が必要だとも捉えております。この点について、ご意見をいただけますか。

 遠藤 金融機関と税理士の皆さんが、これからどういう観点で連携していくのがよいのかということに関して、われわれがいま力を入れている「経営者保証に関するガイドライン」(以下、「ガイドライン」という。)の積極的な活用が有効だと考えています。
 ご承知の通り、ガイドラインを活用するに当たり一番肝になるのは、「事業者において法人と個人の一体性の解消」を図ることであり、これができていれば、ガイドラインの充足要件を満たす企業が増え、経営者保証に依存しない融資がより一層促進されるのではないかということです。したがって、税理士さんにぜひともお願いしたいのは、このガイドラインの内容をよくご理解いただいたうえで、計算書類の作成などの経営支援や検証を実施していただきたいということです。顧問税理士のご指導の下で、法人と個人の一体性が解消できれば、ガイドラインの浸透・定着がさらに進むと思います。

 坂本 遠藤局長からガイドラインの活用の話をしていただいて、わが意を得た思いがいたします。経営者が経営者保証なしの融資を受けるための要件は、法人と経営者との関係の明確な区分・分離のほかに、財務基盤の強化と財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等が掲げられています。これらの要件は、TKC全国会がこれまで取り組んできた中小企業支援の運動そのものであると言えます。

新規融資で経営者保証を求めない金融機関の事例等を示していきたい

 坂本 いずれにしましても、われわれTKC会計人は、「租税正義の実現」を目指しているわけですから、顧問先企業の公私混同を許しません。もちろん、公私混同している企業に適正納税はあり得ないので書面添付は実施できません。ですから頑張っている経営者には、できれば金融機関の皆さんの側から、「社長、申告書に税理士法上の添付書面が付けられていて、公私混同していないし、情報開示もしっかり行われていますね。内部留保も自己資本比率も申し分のない数値なので、経営者保証を外しましょう!」と言ってもらえるような環境が作られればいいと思っています。

 遠藤 そう思います。本当の意味で、経営者保証が金融機関にとってどれだけ役に立っていて、それが顧客企業に対してどういう影響を与えているのか、真剣に考えていただかなければいけません。特に、企業が経営を行ううえで、経営者保証があるのは相当なプレッシャーになっていると思います。待ったなしの中小企業の事業承継の障壁にもなっています。そうした中で、特に新規融資に際して、経営者保証を要求しないという金融機関も出てきています。そういう事例を広く示していきたいと思います。

 坂本 日本中で、そのような金融機関がどんどん増えるとありがたいですね。微力ではありますが、そういう土壌が作られるようにわれわれも税理士の立場から頑張ります。TKC全国会には20の地域会があり、各地で地域会会長が率先して、事業性評価にも役立つ「TKCモニタリング情報サービス」の活用等に向けた協議を目的として地域金融機関トップの皆さんと対談するという全国規模の運動を進めています。その効果がだんだん出始めていますので、さらによい関係が金融機関と作れるように、現場での実績を積み重ねてまいります。

 遠藤 税理士の皆さんにおかれましては、経営者保証に依存しない融資を一層浸透・促進させるためにも、顧問先へのガイドラインの周知を含めて、事業者におけるガイドラインの活用がより一層図られるようご尽力いただくことを期待しております。

(構成/TKC出版 古市 学)

遠藤俊英(えんどう・としひで)氏

山梨県出身。1982年東京大学法学部卒業。金融庁検査局総務課長、総務企画局総務課長、総務企画局参事官(監督局担当)、同局審議官(監督局担当)、同局審議官(企画・市場・官房担当)、検査局長等の要職を歴任し2015年7月7日監督局長に就任。

(会報『TKC』平成30年6月号より転載)