寄稿
新しいビジネスモデルを確立しよう(2)
今こそ「K=計画支援」実践の最大チャンス
認識が変われば行動が変わる
TKC全国会会長
粟飯原一雄
前月号の巻頭言において、巡回監査を基盤とする新KFS活動を通して新しいビジネスモデルの構築をしようと提言しましたが、今月号はこれを少し補足したいと思います。
KFSの新たな定義の眼目は、会員の認識を変え行動を変えることにあります。
P・F・ドラッカーは『イノベーションと起業家精神』(ダイヤモンド社、上田惇生訳)の中で、イノベーションには、人々の認識の変化を捉えることが重要であるとして、例えば「コップに半分の水が入っている」と言うのと「半分空である」と言うのとでは、事実は同じでも、重点のおきかた(認識の仕方)が違っており、人々の認識が「半分入っている」から「半分空である」に変わるときにイノベーションの機会が生まれる、と指摘しています。
表現の違いは重点付けの違いであり、認識の仕方の違いは行動の違いに繋がります。
従来のKFSの定義は、「継続MASシステム」によって経営計画の策定を支援する。「自計化システム(FX2シリーズ)」によって業績管理の構築を支援する。「税理士法第33条の2の書面添付」によって決算書の信頼性を確保する──との3つでした。
この課題を掲げて、平成11年から「第1次成功の鍵(KFS)作戦」を展開して以来、多くのTKC会員が、関与先企業の経営計画の策定支援から始まって経営革新支援、経営改善支援などに積極的に取り組み、大きな成果を挙げることができました。
今回のKFSの新たな定義は、事務所としての業務内容を上位におき、その具体的な推進手段としてシステムや法制度への対応を位置づけています。いわば目的と手段を明確に分けたことが特徴と言えます。
- K=計画支援
- 経営計画策定支援、経営改善・企業再生等の支援
- F=フォロー
- タイムリーな業績管理体制の構築(PDCA)の支援、モニタリング等
- S=証明力
- 決算書の信頼性の確保(適正申告の実現)
すなわち、関与先の発展に不可欠な、これらの業務を、全会員事務所が基本業務の中に定着させていただくことを切に願っています。
「TKC経営指標」によるベンチマーキングこそ最大の強み
飯塚毅全国会初代会長は、未来計算すなわち経営改善計画の助言ができない会計人は、やがて脱落することになると予見されました。
「モンゴメリー先生が言われたように『経営方針の健全性』に関する最高の助言者になれるのかどうか、会員先生は自問自答してみて下さい。経営の各条件を種々に変化させるだけで、無数に近い未来計算のモデル像を提供できないような会計人は、はっきりと脱落者になります。」(『職業会計人の使命と責任』TKC出版)
経営計画は企業にとって一つではなく、おかれている状況に応じて複数あってもよいものですが、会員事務所が最低限行うべき経営計画策定支援は、関与先企業の単年度経営計画策定とその予実管理だと言えるでしょう。その際に、各業種において、目標とすべき優良企業について、客観的で信頼性の高い「経営指標」のデータが入手できればベンチマーキング資料として有効です。
『ドラッカー365の金言』(ダイヤモンド社、ジョゼフ・A・マチャレロ編、上田惇生訳)では、「自らの競争力を知るには、ベンチマーキングの手法が必要である。この手法こそグローバルな競争力を明らかにするものである。基本にある考え方は、誰かにできることは他の者にもできるというものである。最高の仕事ぶりは、自らの組織内に、または競争相手に、あるいは別の産業に見つけることができる。」とあり、常に一流であるために、ベンチマーキングのための分析をし、仕事の水準を高く設定しなければならないと述べています。
国内の「経営指標」には、中小企業庁発行の約80万社を母集団とする「中小企業の財務指標」があります。これはCRDデータと言われる信用保証協会や政府系金融機関から融資を受けている企業の経営数値をデータベース化したものであり、赤字企業が多く含まれているためその点を割り引いて使用しなくてはなりません。
これに対して、「TKC経営指標(BAST)」は、法人企業約23万社が日本標準産業分類に従った業種別、売上規模別、更に黒字決算企業と優良企業に分類されているため、戦略的に活用しうる貴重な資料と言えます。なお優良企業の定義については、色々な見解がありますが、産業能率大学の宮田矢八郎教授は、その著書『収益結晶化理論』(ダイヤモンド社)の中で、「利益は技術的要因が生み出し、技術的要因は人間的要因が生み出し、人間的要因の中心に経営者が位置するなら、モデル化の最終は卓越経営者のモデル化でなければならない。」とその実証研究から明らかにしています。
戦略的な経営計画は、経営者とのダイアログ(対話)の中で生まれます。
その際に「TKC経営指標(BAST)」を、我々TKC会員が活用できるということは、まさに絶大なる強みと言っても過言ではありません。
関与先の経営計画策定支援と予実管理を
どんなすばらしい経営計画を策定しても、計画実行段階のフォロー体制を構築していなければ絵に描いた餅になります。
「フォロー」である業績管理は「PDCA」が確実に実践できる体制をつくることであり、特に年度計画のタイムリーな予実管理ができていなくてはなりません。
残念ながら会員の予実管理の実態は低い状況にあります。会員関与先企業数推定70万社超、TKCシステム利用企業数50万社超のうち、最近のデータによれば予算登録企業数は、その1割にも満たない48,000社程度に止まっている状況です。
ドラッカーは、その著書『明日を支配するもの』(ダイヤモンド社、上田惇生訳)の中で「最高のキャリアは、あらかじめ計画して手にできるものではない。自らの強み、仕事の仕方、価値観を知り、機会を掴む用意をした者だけが手にできる。」と述べています。我々会員には、「TKC経営指標(BAST)」を活用できる「強み」があり、「仕事の仕方」では経営管理システムとも言えるTKCシステムを活用することができ、また関与先企業への貢献という「価値観」をもち、中小企業を支援する法環境という「機会」まで用意されています。
3月末現在、中小企業経営力強化支援法に基づく経営革新等支援機関に対して、4,000名超のTKC会員が申請を行い、約3,400名が認定されています。認定支援機関となった会員には、格付けアップに繋がる経営改善計画や事業再生計画の策定支援が求められていることは、ご承知の通りです。
いまこそ、「K」の活動に取り組む最大のチャンスです。そして関与先の業績管理体制構築を支援していくために経営計画の予算登録を積極的に進めていただきますよう、会員諸兄姉の奮起を期待してやみません。
─TKC会員数の拡大と関与先企業数100万社を目指して─
(会報『TKC』平成25年5月号より転載)