寄稿
新しいビジネスモデルを確立しよう
新政策課題「中小企業の経営基盤強化」と新KFS活動の背景
「中小企業の経営支援者」へと意識転換をはかろう
TKC全国会会長
粟飯原一雄
去る1月18日、TKC全国会政策発表会の場で、TKC全国会創設50周年(2021年)に向けた政策課題と戦略目標を発表させていただきました。
近年の国の中小企業向け施策は、平成11年に中小企業基本法が抜本的に改正され、「中小企業は、日本経済のダイナミズムの源泉である。」とする根本精神のもとに、中小企業新事業活動促進法をはじめ新たな法律や国の助成制度、金融支援等多くの中小企業政策が実施されてきました。
しかし失われた20年と言われる日本経済の低迷の中で、中小企業経営は依然として厳しい状況が続いています。
平成の世になって一貫して毎年廃業率が開業率を上回っており、『中小企業白書』によれば、中小企業はこの20年間で約110万社も減少しています。地方都市を訪れれば、かつての目抜き通りの繁華街が、今やシャッター通りと呼ばれ、多くの店舗が店を閉めており、まさに地域経済の低迷を象徴しています。
このような状況の中で、我々職業会計人が中小企業を支援する役割は従前に増して重要となってきました。そこでこの度の全国会政策課題では従前の5つの政策課題に「中小企業の経営基盤の強化」を加えました。ここで強調したいのは我々自身の心構えとして「中小企業経営者の良き相談相手」という役割から一歩踏み出し「中小企業の経営支援者」という役割へ大きく意識を変えていく必要があるということです。
新KFS活動とは何か
経営支援者としての役割を具体化するために、この機会にKFS(Key Factors for Success)活動を新たに定義させていただきました。
すなわち、【K】は、計画支援としての経営改善支援や経営(事業)再生支援等、【F】は計画の実行段階におけるタイムリーな業績管理体制構築などのフォロー活動の支援を意味します。そして【S】は、決算書の信頼性と証明力を高める活動であり、「税理士法第33条の2による書面添付」、二重帳簿を作成していないという客観的証明力をもつ「記帳適時性証明書」開示、計算書類の信頼性を証明する「中小会計要領」の普及、以上の3点セットの実践は、我々TKC会員の強みとするところです。
新KFS活動はブランド形成に繋がるビジネスモデル
一橋大学名誉教授・野中郁次郎先生は、早稲田大学の遠藤功教授との共著『日本企業にいま大切なこと』(PHP研究所)の中で、おおよそ次のように述べています。
「イノベーションには〔モノ〕と〔コト〕があり、〔コト〕のイノベーションの多くはビジネスモデルのイノベーションである。〔モノ〕が導入された時は、市場との関連性を絶えず認識し、意図的に広げていく視点をもつことで新たなビジネスモデルが形成される。〔コト〕を見出すには、それを《見よう》とする強い目的意識を支える経験と教養が必要である。それが鋭い洞察力を養ってくれる。多くの発見や発明は、論理的な分析がもたらす形式知から生まれるのではなく、経験から得た不確定多様な暗黙知とビジョン達成への強い思いを持ち、新たな関係性を考え抜くことから生まれるのである。〔コト〕を言葉や物語に変換し、さらに〔モノ〕へと結実させる能力が賢慮のリーダーに求められる。さらに言えば、みずからが得た気づきの本質をわかりやすい言葉で概念化し、他者に伝えていく能力も重要である。」
我々TKC会員で言えば、〔モノ〕は最新テクノロジーを駆使し時代に適合しているTKCシステムであり、〔コト〕は巡回監査をベースとする新KFS活動です。TKC全国会は、長年に亘って巡回監査を基盤とするKFS活動を通じて中小企業の黒字化を支援してきました。その経験と知識を踏まえた新たなKFS活動こそTKC全国会が築いてきた〔モノ〕と〔コト〕を結合したビジネスモデルであると同時に「TKCブランド」の形成に繋がる活動であると言えます。
ブランド戦略とは、顧客との対話を通じともに価値を作ること
「ブランド」とは、単にシンボルやイメージといったものではないことは当然です。元来ブランドは「商標」という意味で、語源は「burn」(燃える)。家畜などに押す焼き印からきているようで、モノの所有や出自を保証するものでありました。それが商標を通じて商品などの品質保証を担うようになり、特に日本ではブランドと言えば「エルメス」とか「グッチ」等に代表される老舗の高級品(ラグジュアリー)ブランド(luxury brand)を指してきました。
しかし、ブランドコミュニティ構築などを提唱している電通の小西圭介氏は、その著書『ソーシャル時代のブランドコミュニティ戦略』(ダイヤモンド社)において「今日のブランドは、広告で創られた架空の人格イメージではなく、より多様な個性をもった生身の人格としての、ブランド関与者と生活者とのダイアログ(対話)によって形成されるようになってきた。ブランドは、顧客との『価値共創』を駆動するエンジンであり、その面で企業におけるブランド戦略の役割はますます重要になってきている。」などと述べているように、新しい時代における「ブランド」は、商品等の販売を着地点とせず、その使用価値をユーザーと共に創り出すことで顧客とのより強い絆を形成する時代になってきたと言えます。
会員一人ひとりの力でTKCブランドを形成しよう
我々TKC会員が中小企業の支援者として中小企業を元気にしていくことは、関与先企業経営者とのダイアログ(対話)から生まれるものであり、新たなKFS活動の取組みは顧客との価値共創そのものです。
すなわち【K】は、経営計画策定支援の場において最新の『TKC経営指標(BAST)』を駆使して、経営者と対話をしながら気づきを与え経営者を賢くし、経営者のやる気を向上させます。【F】は、巡回監査の実施を通して経営者とタイムリーに業績管理を語ることで、経営の羅針盤としての価値を共創します。さらに【S】の活動は、金融機関や国税当局等への決算書・申告書の信頼性を向上させるものです。
以上の3点セットへの取り組みがTKC会員のビジネスモデルとして確立されることで、「TKCブランド」が形成されると確信します。
あと8年で、TKC全国会は創設50周年を迎えます。悔いのない輝かしい時代を創るために、今一人ひとりのTKC会員が、中小企業の支援者という立場への、発想・姿勢・行動の転換を求められています。
今後は、戦略目標達成に向けたロードマップを年内に策定してまいりたいと考えています。これからの全国会活動に対して、会員諸兄のご理解と積極的な参画を是非お願いいたします。
新たな定義
すなわち、KFSの、「K=計画支援」「F=フォロー」「S=証明力」とし、この3つのキーワードの各項目の取り組むべき内容を以下のように定義する。
(会報『TKC』平成25年4月号より転載)