2023年10月号Vol.132
【トレンドビュー1】「システム標準化/ガバメントクラウド移行」最新動向
株式会社TKC 自治体システム標準化対応プロジェクト リーダー 井上 伸
全国の市区町村では、2025年度末に向けて「システム標準化/ガバメントクラウド移行」準備が本格化しているところと思われます。しかしながら、『地方公共団体情報システム標準化基本方針』が改定されるなど、今後も対応計画の見直しが必要になることが想定されます。そこで、今号では基本方針の改定ポイントとともに、ガバメントクラウドとネットワークの最新動向について解説します。
*本内容は、23年9月8日時点で公表されている情報に基づきます。
移行困難な場合は別途期限を設定
9月8日に基本方針の改定案が閣議決定され、同日、デジタル庁から新たな方針が発出されました。改定の主なポイントは、以下のとおりです。
まず、「移行の難易度が極めて高いシステム」は、〈省令において所要の移行完了の期限を設定する〉とされました。例として、「メインフレームで構成されている」や「事業者が標準準拠システムの開発から撤退し、代替事業者が見つからない」場合などが挙げられています。詳細はデジタル庁から別途、案内するとされていますが、移行困難な場合でも、新たな国民向けサービスの迅速な提供を担保するため、〈25年度末までにデータ要件には適合〉することが求められます。
また、標準化期限において、各業務システムは〈23年3月末時点に公表された標準仕様書に適合〉すればよいと明記されました。ただし、それ以降の改定でも法制度改正などシステム対応が必須なものがあるため、注意が必要です。さらにデータ連携仕様についても、法制度改正による項目の追加・変更が想定されます。そのためマルチベンダーでシステムを構築する団体では、「どの版に準拠し、いつから連携するのか」などの事前調整が肝要です。
そのほかにも、「ガバメントクラウドの利用料は地方公共団体が負担する」、「デジタル庁に『標準化リエゾン』を設置して、総務省や都道府県と連携して地方公共団体の支援を行う」──ことなどが示されました。
団体負担となるクラウド利用料
埼玉県美里町を筆頭に、これまでに複数団体がガバメントクラウド上へ基幹業務システムを移行し、運用が始まっていますが、いまのところ大きなトラブルもなく安定稼働しています。
またデジタル庁は、引き続き「ガバメントクラウド先行事業」に取り組むほか、今年度からは「マルチベンダにおけるシステム間連携の検証事業」にも着手しました。
このように実現に向けた環境整備が進む一方、今回の改定でガバメントクラウドの利用料負担が示されたことで、「実際にどの程度の利用料が発生するのか」に関心が集まっています。
先行事業では、現行の運用費と比較して〈必ずしも安価にはならない〉という結果も出ています。そのためデジタル庁では、基幹業務システムを「モダンアプリケーション」(*)として構築することで運用費を削減する方向性を示しています。しかし、その場合は大規模なシステム改修が必要となるため、いずれの事業者も標準化のタイミングでの対応は困難と思われます。まずは、デジタル庁が示すガバメントクラウド利用料のボリュームディスカウントの実現が待たれるところです。
なお、一部報道では国内事業者のガバメントクラウド参入の可能性も伝えられ、今後、事業者間の競争戦略による利用料の引き下げも期待されます。
*最新のテクノロジーやアーキテクチャ、運用プロセスなどを組み合わせたアプリケーションのこと
次期LGWANも利用可能に
ガバメントクラウドへの接続については、〈原則利用すること〉とされていた「ガバメントクラウド接続サービス」が、24年度から利用できなくなるという大きな方針変更がありました。
そのため、24年度中にガバメントクラウドの利用を開始する団体は、ネットワークの選定・調達を急ぐ必要があります。一部では、県域でガバメントクラウド接続ネットワークを整備する計画も進んでおり、該当地域の団体は最優先で検討することになるでしょう。
一方で、「次期LGWAN」が25年4月までに構築され、ガバメントクラウド接続に利用できるようになる計画が明らかとなっています。稼働時期の前倒しも検討されており、25年度に標準準拠システムへの移行を予定する団体にとっては有力な選択肢となります。
また、24年度にガバメントクラウドへのリフトを予定する団体は、計画を延期して次期LGWANを選択することも考えられます。基本方針に示された〈運用費3割削減〉には、ネットワークの選択も重要になっています。
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TKCでは標準化対応プロジェクトを発足し、①標準仕様に完全準拠したシステムを提供し、「最適な業務プロセスの実現」、②標準準拠システム/ガバメントクラウドへの移行支援で、「最小限の職員負担での移行実現」、の支援に取り組んでいます。今後もさまざまな活動を通じて、全てのお客さまの〝期限内の円滑な対応〟をご支援してまいります。