2023年10月号Vol.132

【特集】「3ない窓口」本格普及へ先進事例に見る推進のポイント

TKCは今夏、14都市において「TASKクラウドフェア2023」を開催した。
全国で1,100名を超える職員の皆さまにご来場いただいた中
最も注目を集めたのは「3ない窓口」だった。
本号では、来場者アンケートなどから見えた
現状の課題と推進のポイントを整理する。

 対面形式では4年ぶりの本格開催となった今回の「TASKクラウドフェア」は、一方的に説明を聞く展示会形式ではなく、来場者自身の体験を通じて行政デジタル化を〝自分事〟として捉えるきっかけとしていただきたいとの思いで企画した。
 このため、各会場では来場者が住民役となり、「書かない窓口」(かんたん窓口システム)で転入手続きとこれに伴う福祉関連の申請を体験したほか、スマートフォン等からオンライン申請(スマート申請システム)を体験。また、「遠隔窓口支援システム」では、住民役と職員役に分かれて、出先機関と本庁窓口をつないだ〈対面による申請手続き〉の疑似体験も試みた。

転入手続きとそれに伴う福祉関連の申請の“書かない”窓口体験は、多くの来場者の注目を集めていた

転入手続きとそれに伴う福祉関連の申請の“書かない”窓口体験は、
多くの来場者の注目を集めていた

部分最適で高コストとなる例も

 「行かない・待たない・書かない窓口(3ない窓口)」は、これまでも市区町村の耳目を集めてきた。今年のフェア来場者へのアンケートから見えてくるのは、多くの団体にとって、3ない窓口はすでに取り組みを検討する段階から実行段階へとシフトしているということだ。
 その中で、3ない窓口を導入準備中の担当者から聞こえてくるのは運用面の不安だ。一例が「窓口デジタル化の妥当な範囲が分からない」、「書かない窓口では専任職員の対応が必要では」など。「業務改革にどこから手を付けたらいいか分からない」という声も目立ち、後回しになりがちな改革への担当者の焦りや不安も見てとれる。
 また、「引越し手続オンラインサービスの開始で業務が煩雑化した」という意見もあった。デジタルと紙の混在が要因と考えられ、実際に引越し手続オンラインサービスは3ない窓口を推進させる一つのきっかけとなっている。一部には、転入手続きも窓口に行かないよう政府が必要な法令の見直しに着手したという報道もあり、今後はフロントからバックオフィスまでのスムーズな連携で〝業務の効率化〟を図ることがますます重要となるだろう。
 一方、TKCシステムであるかを問わず3ない窓口を導入済みの団体の担当者からは、十分な成果が出ていないという悩みが聞かれた。例えば、「書かない窓口を導入したが、待ち時間短縮につながっていない」、「オンライン申請できる手続きの登録が進まない」、「利用率が伸びない」などだ。
 導入済み団体の意見で注目されるのが、部分最適という阻害要因だ。「各部署で個別対応を進めた結果、DX担当部門の制御が効かなくなっている」ケースでは、結果的に「コストアップになっている」との指摘もあった。そのため「取り組みの整理・統合」を考える担当者の声も聞かれ、この点はDXを推める上で大きな留意点となろう。
 さらに、多文化社会への対応という点では「高齢者や障がい者、外国人も含めて誰一人取り残さないDXをどう進めるか」という意見が挙げられた。書かない窓口の多言語化や障がい者を支援する機能への要望も寄せられ、当社としても将来に向けた重要なテーマと捉えている。

先進団体の取り組みに学ぶ

 3ない窓口を導入済み・準備中のいずれの団体にも共通する〈推進上の課題〉が、「いかに職員の意識・モチベーションを高めるか」ということだ。
 今回のフェアでは、実際にDXを推進する4市の担当者を講師にお招きして、事例発表を実施した。いずれの講演でも、3ない窓口の効果に加え、職員の意識改革やモチベーション向上に向けた取り組みなどが紹介され、発表者と参加者の間で活発な質疑応答・意見交換が行われた。なお、今回ご講演いただいた兵庫県伊丹市様の事例発表は、10月5日~6日に幕張で開催される「地方自治情報化推進フェア2023」でも予定している。ご興味がある方は、ぜひ会場にお運びいただきたい。
 本特集では、東京都青梅市様の講演要旨とともに、先進事例として栃木県下野市様の取り組みをご紹介する。いずれも、引越し手続オンラインサービスを機に3ない窓口を導入した例だ。
 青梅市では、情報システム課とは別に、多様な職歴を持つ職員で構成されたDX推進課を設置。市民課など各課と連携して窓口改革に取り組む。全庁的な推進へ、ノンコア業務の見直しを進めるほか、管理職のマインドセット研修やDX人材育成にも積極的だ。
 下野市では、職員の負担軽減を狙い、一気に3ない窓口をスタートしたという。登録手続きの拡大に向けた工夫のほか、注目していただきたいのが推進の過程で各課の自主的な取り組みを尊重していることだ。市の担当者はこれを「緩やかな縛り」と表現する。
 アプローチは違っても2市に共通するのは、地道に職員の意識・モチベーションの向上へ取り組み、多様なメンバーを巻き込みながら、一歩ずつ変革に挑み続けていることだ。
 DX推進はトップダウンだけでは決してうまくいかない。目指すべき〝ミッション〟を全庁で共有しながら、各部門・職員が自律的にそれぞれの〝ビジョン〟を実現していくことが肝要だ。その挑戦はいま全国に広まっている。

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