【特集】『自治体DX推進計画』の意義 デジタル化で実現する行政も、住民ももっと便利な社会
2021年4月号Vol.122
【特集】『自治体DX推進計画』の意義デジタル化で実現する
行政も、住民ももっと便利な社会
総務省地域力創造グループ地域情報政策室長 神門純一氏
インタビュアー 本誌編集人 飛鷹 聡
いま、社会のあらゆる局面でデジタル・トランスフォーメーション(DX)が加速している。
行政分野も同様で、“誰一人取り残さない、人に優しい”デジタル社会の実現には、
住民に身近な市区町村の取り組みがカギとなる。
そこで『自治体DX推進計画』をもとに具体的にいつまでに何をすべきか
総務省地域力創造グループ地域情報政策室の神門純一室長に聞く。
──昨年末に『自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画』が公表されました。
●神門純一(ごうど・じゅんいち)
1995(平成7)年、自治省(現、総務省)入省。浜松市企画部長・財務部長、内閣府企画官、岐阜県清流の国推進部長・副知事などを経て、19年7月より現職(同年9月よりマイナポイント施策推進室長を併任)。情報セキュリティー対策のほか、行政手続きのオンライン化、個人情報保護、マイナポイント施策の推進・広報などを担当。
神門 推進計画策定に至る経緯として、三つの段階があったと考えています。
一つは〈電子自治体〉の流れです。2001年に「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)」が施行されて以来、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(マイナンバー法)」「官民データ活用推進基本法」「情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律(デジタル手続法)」などが相次いで制定され、国も取り組みを後押ししてきました。その結果、基幹系システムのクラウド利用は1,000団体以上となり、主な行政手続きのオンライン化は5割を超えています。
第二が、人口減少・少子高齢時代における〈スマート自治体〉の検討です。日本の高齢者人口は40年頃にピークを迎え、生産年齢人口も6,000万人を割り込むことが見込まれています。こうした現状を踏まえ、総務省「地方自治体における業務プロセス・システムの標準化及びAI・ロボティクスの活用に関する研究会」は、報告書の中でスマート自治体の実現に言及しました。報告書では〈行政手続を紙から電子へ〉など三つの原則が示され、その具体策の一つに〈システムの標準化〉が掲げられました。
このように、自治体のデジタル化は着実に進められてきましたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が取り組みに拍車をかけました。新型コロナ対応において、地域・組織間で横断的なデータ活用が十分にできないなどの課題が明らかとなり、その反省点を踏まえて急浮上したのが〈自治体DX〉です。
『経済財政運営と改革の基本方針2020(骨太の方針)』では新たな日常の実現に向けた具体的施策の一つに〈国・地方を通じたデジタル基盤の標準化の加速〉を掲げました。これを受けて自治体が重点的に取り組むべき事項を具体化するとともに、総務省をはじめ関係省庁の支援策を取りまとめたのが『自治体DX推進計画』です。
──『骨太の方針』で、デジタル・ガバメントの構築を“一丁目一番地”の課題と明記したのは大変驚きました。
神門 そうですね。これまでの自治体のデジタル化というと〈効率化〉や〈コスト削減〉の視点で語られることが多かったのですが、『骨太の方針』からは〈住民の利便性向上〉に重点が置かれるようになりました。
これは大きな変化だと感じています。
昨年12月25日に閣議決定された『デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針』では、目指すべきデジタル社会のビジョンとして、〈デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会──誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化〉が示されました。実現には、自治体の地域住民に寄り添った取り組みが極めて重要で、ここにDX推進の意義があると考えています。
計画的な実施が求められる
六つの重点取組事項
──推進計画では、DXの推進体制の構築や人材の確保・育成とともに六つの重点取組事項が掲げられています。
神門 推進計画では『デジタル・ガバメント実行計画』(20年12月25日閣議決定)で示された施策のうち、自治体が取り組むべき内容を六つに分類し重点取組事項としました(図表1)。ご覧のとおり、国としてもこれまでより踏み込んだ支援策を掲げています。
今後のスケジュールは図表2のとおりです。多くの業務に関わる取り組みを、限られた期間で行うことになるため、早々に推進体制を構築して計画的に実践することが望まれます。
──重点取組事項のうち、「情報システムの標準化・共通化」「マイナンバーカードの普及促進」「行政手続きのオンライン化」は、当社にも多くのお客さまから問い合わせが寄せられています。
神門 まず、システムの標準化・共通化については、「(仮称)Gov-Cloud」の活用に向けた検討を踏まえ、それぞれの自治体において、25年度までに基幹系17業務システムについて標準仕様に準拠したシステムへ移行していただく計画です。その推進のため、今国会に「地方公共団体の情報システムの標準化に関する法案」を提出しました。
なお、小規模団体でも円滑にシステムを移行できるよう、今夏をめどに『(仮称)自治体DX推進手順書』を提供します。手順書では、推進計画を踏まえて業務プロセスの見直しや関連する業務システムの最適化、標準的な手順などを提示する予定です。
もう一つ、マイナンバーカードの普及促進と、行政手続きのオンライン化は密接不可分なテーマです。
私はマイナポイント施策推進室長を併任している立場でもありますが、カードの普及と利用はまさに“鶏と卵”の関係だと思います。22年度末までにほとんどの住民がカードを保有することを目指してカードの普及促進をはかるとともに、利用シーンの拡大策として今春から健康保険証利用をスタートします。そのほかにも、22年度中にスマートフォンへのカード機能の搭載を目指すなど、さまざまな施策が講じられています。
その点では、行政手続きのオンライン化も利用者にカードの利便性を実感していただく機会の一つといえます。22年度末を目指し、全ての自治体で31の手続き(子育て、介護、被災者支援、自動車保有)をマイナポータルからマイナンバーカードを利用して手続きできるようにします。
その他の手続きについても、『地方公共団体におけるオンライン利用促進指針』を踏まえ、積極的にオンライン化を進める方針です。
──なるほど。
神門 利便性を実感するという点では、“分かりやすい・操作しやすい”なども重要です。
そのため、マイナポータルのUI(ユーザーインターフェース)/UX(ユーザーエクスペリエンス)を改善します。具体的には、①入力誤りのない、二度同じ項目を入力させない仕組みの構築、②スマートフォンでの操作に最適化したサービス──などで、可能なものから順次取り組みます。
同時に自治体側の利便性向上も必要と考えており、フロント(申請受付)からバック(業務システム)まで“エンドツーエンド”でデジタル処理できるようにします。そのため、基幹系システムとマイナポータルのぴったりサービスとの接続にかかる標準仕様を作成し、夏頃までに提供する予定です。そのほかにもさまざまな支援策を計画しており、これらを通じて自治体の皆さんにもデジタル化のメリットを実感していただきたいと考えています。
──情報システムの標準化・共用化には、当社も積極的に対応する方針です。ところで、そのサービス基盤は、Gov-Cloudの活用が必須なのでしょうか。
神門 Gov-Cloudは「デジタル庁」(仮称)が構築・運用を担当し、自治体システムでの活用に向けた具体的な議論はこれからとなります。現時点で決定しているのは、主要な17業務システムの標準仕様を示し、それを利用してもらうことで、Gov-Cloudの活用は努力義務となります。
ただ、特に支障がなければ、やはりGov-Cloudを活用していただくのが基本になると考えています。
──先進的な自治体では、すでに行政手続きのオンライン化を進めているところもありますが。
神門 推進計画で行政手続きのオンライン化に取り組む最大の狙いは、小規模団体でも円滑に対応できるようにすることです。そのためには、少なくともマイナポータルからの回線設備を通じて自治体のシステムにデータが流れる仕組みの整備が必要で、既存のオンライン手続きのシステムをどうするかは、その上で柔軟に考えていくことになると思います。
重要なのは全団体が
足並みを揃えて取り組むこと
──市区町村にとっては、まさに“待ったなし”といえ、全力でデジタル化を加速させていく必要がありますね。
神門 今回の推進計画で首尾一貫しているのは、自治体全体で“足並みを揃えて”取り組むということです。
自治体のデジタル化ということで「自治体DX」と表現していますが、その目指すべきところは、新たな日常の原動力として、制度や組織のあり方等をデジタル化に合わせて変革(トランスフォーメーション)していく、いわば社会全体のデジタル・トランスフォーメーションです。
デジタル化は手段に過ぎません。しかし、例えばデータ様式が統一され社会全体で円滑な流通・活用が進むことで、新たな価値が創出され、ひいては日本の持続的発展や国際競争力の強化につながることが期待されます。そのためにも、これまでのように特定の分野・組織ごとにシステムや制度を最適化するのではなく、国が主導的に必要な統一化・共通化を図り、国と地方が一緒になってデジタル化に取り組む必要がある──ということをご理解いただきたいと思います。
この前例のない変化によって、短期的には市区町村の皆さんに多くの苦労をおかけするでしょうが、その先に実現される“デジタル社会”を見据え、協力をお願いします。
なお、推進計画で掲げた内容は、デジタル庁の発足など今後の国の施策等を踏まえながら適宜見直しを行います。また、推進にあたっては実際に現場で業務にあたる職員の皆さんの意見を伺い、一緒に取り組むことが重要と考えています。われわれとしてもできるだけ早期に情報を提供し、皆さんとしっかり共通理解を醸成しながら支援に努めてまいります。ぜひ、今後にご注目ください。
掲載:『新風』2021年4月号