2021年4月号Vol.122
【デジタル・ガバメント ここがポイント!!】行政のデジタル化を加速する法改正
株式会社TKC 地方公共団体事業部 システム企画本部 部長 松下邦彦
昨年12月に『デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針』(以下、改革の基本方針)と『デジタル・ガバメント実行計画』が公表され、行政機関をデジタル化する具体的な工程が明らかになりました。また今年2月にはデジタル改革関連法案が閣議決定され、本誌の発行時点では国会で可決されていることでしょう。
デジタル改革関連法案は、基本方針を定めるデジタル社会形成基本法案や、デジタル庁の設置を定めるデジタル庁設置法案等の五つの新法と、既存の法律を改正する整備法から構成されます。整備法では従来の法律ではできなかった多くの事項が実施可能となります。
本稿では、整備法によって実施可能となる事項の中で、特に自治体のデジタル化に関わるものを紹介します。
1.個人情報保護制度の見直し
現在、個人情報保護制度は国の行政機関、独立行政法人、民間事業者、さらに地方公共団体で別々に運用されています。
国の行政機関、独立行政法人、民間事業者にはそれぞれを対象とした個人情報保護法が定められています。また、地方公共団体やその関連機関は団体ごとに個別の個人情報保護条例を定めており、条例が規定する規律や対象手続きは自治体ごとに異なっています。これは「条例2000個問題」と呼ばれています。また、個人情報保護制度を所管する組織も、国の行政機関と独立行政法人は総務省、民間事業者は個人情報保護委員会、また地方公共団体は自団体となっています。
整備法により3本の法律が1本の法律に統合されるとともに、統合された法律では地方公共団体に対して全国的な共通のルールが規定されます。地方公共団体は、法律の範囲内で、必要最小限の独自の保護措置を設けることも可能です。また、整備法によって、個人情報保護制度全体の所管が個人情報保護委員会に一元化されます。
こうした個人情報保護制度の見直しによって、自治体でも手続き等におけるデータ利活用が全国共通の仕組みで活発化することが期待されます。
2.情報連携の対象範囲拡大
マイナンバー制度の導入以降、行政機関は情報提供ネットワークシステムの情報連携によって、他の機関が保有する特定個人情報の提供を受けることが可能になりました。整備法によって、自治体が所管する情報では健康増進事業関係の情報が連携対象に追加されます。これにより、がん検診や肝炎ウイルス検診等の情報を前の居住地から引き継ぐことができるほか、PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)への展開などが期待されます。
3.カードの利便性の向上
マイナンバーカードは行政のデジタル化において、ネット上で本人を確認するために必須の仕組みです。カードの普及を進めることと、その利便性を向上することは両輪の関係にあります。
整備法によって、まずマイナンバーカードのICチップに格納される公的個人認証(JPKI)電子証明書の発行や更新が郵便局で可能になります。現在、JPKI電子証明書の事務は自治体の窓口でしか受け付けられませんが、自治体が必要な手続きを実施すれば郵便局でも可能になります。
JPKI電子証明書については、スマートフォンに搭載することが可能になります。現状、スマートフォンでJPKI電子証明書を使ってログインする、あるいは電子署名を付与するには、マイナンバーカードをかざして読み取る必要がありますが、将来的にはログインや電子署名もスマートフォンだけで可能となります。本件については、総務省の検討会で実現方式や運用方法が討議されています。
また、マイナンバーカードを使った転出入で転出証明書情報の事前通知が可能になります。現在もマイナンバーカードを使うと転出証明書なしで転入できますが、転入先では転入届を提出した後でなければ転出証明書情報を受け取れません。転入前に受け取ることができれば、住民登録に要する時間を短縮できるだけでなく、国民健康保険や児童手当等の資格の有無を事前に把握し、転入時に必要となるこうした手続きに要する時間を減らすことも可能になります。
4.カードの発行・運営体制の強化
現在、地方公共団体情報システム機構(J–LIS)は地方共同法人であり、自治体から委託を受けてマイナンバーカードを発行しています。『改革の基本方針』では、J–LISを国と地方公共団体が共同で管理する法人に転換し、国のガバナンスを強化することが示されました。
整備法では、J-LISをカード発行主体として明確に位置付けるとともに、マイナンバーカードや電子証明書に関する事務について、主務大臣が目標設定、計画認可、実績評価を行うことが定められました。マイナンバーカードや電子証明書の発行、および、それに関わるシステム運用が強化されます。
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行政のデジタル化は、急ピッチで進められており、法改正も今回限りではなく、今後も状況に応じて実施されると見込まれます。自治体においても国の施策や法改正に基づいて自前のデジタル化を進める必要があり、TKCも動向を把握して適切かつ効果的なサービスを提供してまいります。
掲載:『新風』2021年4月号