米トランプ政権による関税措置などで将来を見通すのがむずかしい状況ですが、今夏も賞与を支給したいと考えています。賞与額の目安を教えてください。(米麦卸売業)

 民間企業全体の賞与相場を展望すると、今夏の1人当たり支給額は前年比+2.2%の42万5,000円と、夏季賞与としては4年連続の増加となります。

 賞与増額の主因として、算定のベースとなる所定内給与(基本給)の引き上げが挙げられます。連合の第5回回答集計結果によると、今年の春闘賃上げ率(定期昇給含む)は、+5.32%と、昨年の+5.10%を上回る高い伸びとなりました。春闘で妥結された賃上げが夏場にかけて適用されることで、所定内給与の伸びは今年も堅調に推移する見込みです。

 今年の春闘の特徴は、大企業だけでなく中小企業でも積極的な賃上げがみられた点です。中小企業(組合員数300人未満)の春闘賃上げ率は+4.93%と、昨年の+4.45%を上回る結果となりました。物価高などによる労働者の生活苦や人手不足の深刻化などを受けて、中小企業では大企業以上の賃上げを目指す機運が高まっていたことが、高い賃上げ率の妥結に寄与しました。

 こうした春闘の結果を受けて、中小企業の夏季賞与が増額される見込みです。増額の結果、平均支給額は、一般労働者の所定内給与の約1カ月分となる30万円が目安になるでしょう。

輸出企業に下振れリスク

 ただし、トランプ政権の関税政策による業績悪化を通じて、中小企業の賞与支給額が下振れする可能性には注意が必要です。以下の2点の理由から、中小企業は支給時期直前の経営環境を賞与に反映しやすい傾向があるためです。

 第一に、労働組合組織率の低さです。厚生労働省「労働組合基礎調査」によると、労働組合の推定組織率は、100〜999人の企業で9.9%、100人未満の中小企業に至っては0.7%にとどまっています。これは、推定組織率が40%にのぼる1,000人以上の大企業とは対照的です。労働組合がある企業では、春闘で前年の経営環境をもとに賞与額が妥結されることが多い一方、労働組合がない企業では、賞与の決定に際して労使交渉が行われないことが多く、直近の経営環境の悪化が賞与額の引き下げを招くケースもみられます。

 第二に、賃上げのための経営資源が相対的に乏しいことです。多くの中小企業は大企業に比べて収益性が低いほか、経営体力が乏しい傾向にあります。このため、中小企業は経営悪化の兆候やリスクに対して敏感にならざるを得ません。これは、経営が悪化しても、企業収益の蓄えを取り崩しながら事業活動を継続できる大企業と異なる点です。

 今次局面においては、4月にトランプ政権が自動車をはじめ多くの輸入品を対象に関税を大幅に引き上げたことで、製造業を中心に4月以降の受注の減少や先行きの経営不安が賞与に反映される可能性があります。米国への輸出が多い企業を中心に、賞与支給額が下振れる可能性があることには注意が必要です。

掲載:『戦略経営者』2025年6月号