新規事業でコメの生産など農業に参入しました。J-クレジット制度を活用することで収益アップなどのメリットがあると聞きましたが、詳細について教えてください。(印刷業)

 J-クレジット制度は、温室効果ガスの排出削減や吸収量を「クレジット」として国が認証し、それを売買可能にする仕組みです。経済産業省、環境省、農林水産省によって運営され、省エネルギー機器の導入や再生可能エネルギーの利用、森林管理などによるCO2削減を促進し、国内での資金循環を通じて環境と経済の両立を目指すことを目的としています。

 クレジット創出には、省エネルギー設備の導入、再生可能エネルギーの利用、適切な森林管理などの他、今回のご質問のように農業分野に関する方法論があります。これらの活動はプロジェクト単位で登録され、クレジットとして認証されます。

 中小企業が同制度を活用するメリットとしては、ランニングコストの削減、クレジット売却による収益、環境対策への取り組みに対するPR効果などがあります。しかし、制度の複雑さや手続きの煩雑さが普及の障壁となっていました。これに対応するため、経済産業省は、中小企業支援機関がプログラム型プロジェクトの運営・管理者になる際の要件を明確化し、審査費用支援の要件を柔軟化するなどの改定を進めてきました。

 制度を活用するためには、プロジェクト計画書の作成、審査機関による妥当性確認、モニタリング報告書の作成、クレジットの認証申請などが必要で、各段階で書類提出や審査が行われます。これらのプロセスはJ-クレジット登録簿システムを通じて電子申請され、口座開設が必要です。

 J-クレジットの取引は、東京証券取引所の取引プラットフォームなどで行われています。これにより、企業は削減した温室効果ガスの量をクレジットとして認証し、それを市場で売却することで収益を得ることができます。また、GXリーグ(グリーン・トランスフォーメーション・リーグ)でもJ-クレジットは取引されています。GXリーグは、カーボンニュートラルや環境関連の取引を促進するために設立された市場で、J-クレジットを含む各種の環境クレジットが取引されます。GXリーグの設立により、より多くの企業が環境クレジットを活用して持続可能な経営を推進できるようになりました。

 農業分野における方法論については、例えば水稲栽培における中干し期間の延長が挙げられます。中干し期間の延長によってメタン排出を抑制し、温室効果ガス削減を実現する方法です。この方法論はJ-クレジット制度の一環として新たに承認され、実際にクレジットを創出しています。またバイオ炭を農地に施用し、炭素を長期間土壌に固定することで炭素貯留を促進する方法もあります。この方法もJ-クレジット制度に基づき、クレジットを既に創出しています。

掲載:『戦略経営者』2024年9月号