優れたデザイン性と品質の高さで「次世代に残る家」を作り続けている楽縁。菊地宏幸税理士事務所のサポートのもと緑川亮社長は徹底的に黒字経営にこだわっている。『DAIC2』や『継続MASシステム』を活用した業績管理や今後の経営戦略などについて聞いた。

──家づくりのこだわりについてお聞かせください。

緑川亮社長　自分たちで建てた家にできるだけ長く住んでもらいたいので、「次世代に残る家」を一番の目標にしています。例えば当社では高機能な断熱材を標準にしているので、壁の中については35年間無結露保証をしています。躯体内部への水の侵入を防ぎ構造材を腐らせなければ家は長持ちしますが、それを実際に行うのはとても難しいこと。リフォームの現場で実感していることですが、防水シートなどをしっかりと施工していても15年もたてばほとんどの家は水が内部に侵入してしまっています。「断熱材はもっと安くできないの？」と言われることもありますが、結露を防ぐためには必要なものであることを丁寧に説明して納得してもらっています。

──アイアン製の階段もおしゃれですね。

社長　実はリフォームするときに一番の難所になるのが階段です。先に付けてしまうと階段の場所を工事で移動することは難しいですが、後付けでアイアン製にすれば取り換えるのは比較的簡単です。このように家づくりは建てる前より建てた後が大切だということをお客さまにしっかりとお伝えてしています。またポリ系の部材ではなくメラミン系のものを多用するなど耐久性を考慮した部材選びにもこだわっています。雨どいには10年もたてば取り換え時期がきてしまうプラスチック製が一般的ですが、当社では金属製のガルバリウムを使用しています。

──ほかに家づくりで工夫されていることはありますか。

社長　私は20歳で大工になり、修行後に28歳で独立しましたが、今でもモノづくりが大好きです。なので「そんなところまでこだわっているの？」と言われるようなところまで気を配っています。湿気を呼び込むコンクリート基礎と土台の間にパッキンを入れたり、雨漏りを防ぐ軒先の雨仕舞いを工夫したり、壁内部のサッシの周りにも水切りを付けたり、外壁には水に強くて軽いガルバリウム鋼板を標準採用したり……など、他の会社ではしていない当社独自の施工をたくさん行っています。

最初から「すべてコミ」の適正価格で見積もり提示

──「エアコン1台で暖かく涼しい家」と評判です。

社長　パソコンで計算した性能値と実際にかかる電気代は違います。断熱材が濡れてしまったり、施工の精度が低かったりすると断熱性能が落ち、エアコンの効きが悪くなりますからね。したがって当社では実データを一番大事にしています。施工した家10軒以上で記録をとらせてもらい、相談に来られたお客さまに公開しています。年間を通じて平均1万3,000～4,000円になりますが、事実を正直にお伝えする姿勢も評価していただけていると思います。

──建設業界では人手不足が言われていますが、若手人材などの採用はうまくいっていますか。

社長　最近入社した新入社員が野球部出身で、「体を動かす仕事がしたい」と当社に入社してきてくれました。私は写真が好きでよく大工の作業中の写真を撮影するのですが、どこから撮っても本当にかっこいい。福利厚生がしっかりしていて、安全性が高い職場環境を整えるなど、建設業の「3K」のイメージを払拭できれば、大工は憧れの職業として若者からの人気が高まると思います。現在そのための社内体制の抜本的な整備を進めています。

──建築価格はどれくらいですか。

社長　外構工事も入れると3,300～3,500万円程度ではないでしょうか。値段的には少し高めだと思います。ただ全体的に建設価格が高騰しており、同じような規模のハウスメーカーの住宅価格との差は縮まっているように感じます。

──見積価格の提示で工夫されていることは？

社長　最初の見積価格で、外構工事や太陽光発電設備、エアコン一式、カーテンなどすべてが完備されたすぐに住める状態での価格を提示しています。「こんなにかかるの？」といって他社の方に行かれてしまう方もいますが、最初はお得な価格に見えても、オプションを選んでいくと最終的には結構な額になってしまうといったことも少なくありません。結局当社の価格が適正価格だということが分かり結果的に戻ってきたというケースもあります。最近では最終的に他社に決断された方が、住宅完成後にごきょうだいを当社に紹介してくれたといった例もありました。

TKC経営指標『BAST』で優良企業の財務内容を参照

──菊地宏幸税理士事務所と顧問契約を結んだ経緯は？

社長　農業を営んでいる同級生から菊地先生を紹介されたのがきっかけです。その同級生は、現状維持に甘んじることなく水耕栽培にチャレンジするなど積極的に経営に取り組んでいた人物。彼から紹介されたのなら間違いないと思い菊地先生と顧問契約を結ぶことにしました。

──最近の業績の推移について教えてください。

菊地宏幸税理士・行政書士　前年の建築件数は13棟でした。ここ数年はわかりやすい右肩上がりの伸びで、棟数は増え、売り上げも伸び、利益率も安定しています。利益率が下がらないのは、見積もりの精度が高く、部材の値上がりをきちんと吸収できる適正価格を提示しているからです。値下げをして売っていないのはとても素晴らしいと思います。

社長　臆病な性格なので、見積もりソフトで概算予算を出すだけでは不安になります。必ず取引業者すべてに見積書を提出してもらい作成する実行予算で進めるようにしています。

──TKC経営指標『BAST』もよくチェックされているとか。

社長　目標の利益率を設定する際にとても参考になりますね。当社と売上規模の近い年商3～5億円規模の建設会社のうち優良企業の数字を常に確認にするようにしています。やはり今後競争を勝ち残っていくであろう優良企業がどれくらいの利益率で、宣伝広告費をどのくらい使っているのかは気になりますからね。

菊地主査（巡回監査担当）　緑川社長に一度「経営者として何に一番こだわっているのか」と尋ねたところ、「利益」という答えが返ってきたことを今でも覚えています。実は赤字に慣れてしまっている中小企業の経営者は意外に多く、「黒字」にとことんこだわる緑川社長の姿勢に学ぶべきところは大きいと思います。

──創業当初から『DAIC2』を利用されているとお聞きしています。

菊地主査 『DAIC2』は建設業に特化した会計システムで、未成工事支出金など建設業特有の会計処理を正しく行うことができます。また会計伝票の入力時に工事ごとの明細を入力するので現場ごとの建設原価を適切に管理することが可能です。実は楽縁さんのように、現場の工事ごとにどれくらい利益が出ているかタイムリーに把握できている企業はそう多くありません。

来夏の新社屋建設でさらなる知名度向上目指す

──予実対比はされていますか。

社長　はい。予算の策定ではまず必要な利益を定め、それに必要な売上高を設定します。決算の半年くらい前から、予算の着地点予測を1カ月ごとに行い、決算に向けて精度をあげていく作業を続けます。

菊地税理士・行政書士　要するに『継続MASシステム』を着実に実践しているということですね。TKCは王道を行く会計システムですが、楽縁さんも王道を行く経営者です。『DAIC2』活用を通じた自計化に加え、TKC企業防衛制度、書面添付の実践、中小会計要領の適用、3共済（小規模企業共済、中小企業倒産防止共済、中小企業退職金共済）制度すべてへの加入、リスクマネジメントの導入などTKCのサービスをフルラインアップでご利用いただいています。

菊地主査　楽縁さんの特筆すべきところは、自社だけのことを考えているのではなく、地域の業界全体の未来を考えていること。取引業者など約30社が加盟する縁結会という業者会を組織し、定期的に情報交換の場を設けています。一昨年に開催された同会主催のセミナーでは、メンバーでもある当事務所が講師役を務めインボイス制度の概要を説明させていただきました。

緑川弘美さん　会計事務所との関係は非常に重要で、会社の業績を左右する要因にもなります。菊地先生の事務所には疑問点を何でも聞けるし、かといって甘い言葉だけでなく、経営リスクの存在や課題など厳しい意見も伝えてくれるので本当にありがたいと感じています。

──今後の抱負を。

社長　当社は毎年7月に、会社に隣接する森林でマルシェ「RAKUEN de Marche」を開催しています。音楽の演奏や飲食店の出店などもあり、若い方に楽しんでいただいていますが、来年夏をめどに社屋を新設する予定です。マルシェのおしゃれな雰囲気と新社屋を体感してもらい、「楽縁で家を建てたい」と思ってもらえるような、自然に当社に人が集まってくる場にしたいですね。マルシェには昨年約1,200人に来ていただきましたが、今後もさまざまな仕掛けをして知名度を上げていきたいと考えています。

（取材協力・菊地宏幸税理士事務所／本誌・植松啓介）

会社概要

名称	株式会社楽縁
業種	新築一戸建ての設計施工管理、設計、デザイン、 リフォーム＆リノベーション、 エクステリア（外構工事）、家具コーディネートなど
設立	2011年2月
所在地	福島県西白河郡中島村大字滑津字大池向南6-8
売上高	約4億円
ＵＲＬ	https://rakuen-ark.com/
顧問税理士	菊地宏幸税理士事務所 福島県白河市結城55番地3 URL： https://www.tkcnf.com/kikuchikaikei

掲載：『戦略経営者』2023年12月号