価格転嫁や従業員の確保など経営課題は山積していますが、今年も冬季賞与を支給したいと考えています。中小企業における相場を教えてください。(電気めっき業)
今年の冬季賞与は、前年に比べ増加すると考えられます。民間企業では、今冬の1人あたり賞与支給額は40万2,000円と、賞与としては過去最高額を更新すると予想されます。前年比は+2.4%と鈍化するものの、3年連続の増加となる見込みです。
この背景には、賞与支給の原資となる2023年度上期の企業収益の回復が挙げられます。財務省「法人企業統計調査」によると、23年4~6月期の経常利益(季節調整値)は、全規模・全産業で26兆9,000億円と過去最高水準に達しました。業種別にみると製造業では、世界的な需要低迷を受けて営業利益は伸び悩んだものの、円安を背景に、海外子会社からの受取配当金など営業外収益が増加しました。非製造業では、サービス業を中心に増益となりました。インバウンド需要の回復や国内家計のサービス消費の増加など、コロナ禍からのリバウンド需要が追い風となっています。
加えて、賞与算定のベースとなる基本給の増加も賞与の押し上げに作用します。総務省「毎月勤労統計調査」によると、9月の正社員の所定内給与は前年比+2.0%と伸びを高めています。
支給額の差が拡大
中小企業についても、大企業に見劣りしない伸びが見込まれます。その理由として、以下の3点が挙げられます。第一に、中小企業の賞与は、支給時期の直前の収益状況が反映される傾向があります。4~6月期の経常利益は、大企業で前年比+9.7%の増加であったのに対し、中小企業では同+23.5%の大幅増を記録しました。中小企業でも価格転嫁が進展したことが大幅増益につながっています。第二に、労働需給のひっ迫です。日銀短観の9月調査の雇用人員判断DIをみると、中小企業における人手不足は、大企業以上に深刻です。人材確保や離職阻止のためにも、賞与を含めた待遇の改善が必要になっています。
第三に、物価高への対応です。総務省「消費者物価指数」によると、消費者の生活実感に近い「持家の帰属家賃を除く総合指数」は、前年比+3.6%(9月)と高い伸びが続いています。資源高や円安などに起因する輸入インフレ圧力が根強いほか、人件費上昇を価格転嫁する動きも広まっており、幅広い品目の価格が上昇しています。足元では、賃金の上昇が物価上昇に追いついておらず、家計の購買力を示す実質賃金は、9月まで18カ月連続で減少しています。特に、相対的に賃金水準の低い中小企業の従業員は、生活水準の引き下げを余儀なくされている可能性があります。物価高から従業員の生活を守るためにも、賞与の増額が求められる状況です。
以上を踏まえると、多くの中小企業は業績の改善分を従業員に還元すると予想されます。もっとも、業績の改善度合いは個々の企業で大きく異なります。全体としてみれば業績は改善しているものの、原材料高を価格転嫁できず倒産する企業も増えています。東京商工リサーチによると、23年度上期に物価高を理由とする倒産件数は、前年の2.7倍に増加しました。十分な賞与の原資を確保できない企業も相応に増えていると考えられます。そのため、中小企業でも支給額のばらつきは、大きくなると予想されます。