これまでなかった「光を採り入れる」コンセプトのブラインドが、大手企業を中心に急速に普及しつつある。あかりカンパニーが製造販売する「アカリナ」だ。内装工事の下請けからメーカーへの変貌を実現させた渡辺勝利CEOに、製品の特長や今後の戦略を聞いた。

プロフィール
わたなべ・かつとし●1963年岡山県岡山市出身。85年わたなべ内装舎(現・あかりカンパニー)入社。88年取締役、2007年社長に就任。
渡辺勝利社長

渡辺勝利社長

 あかりカンパニーが製造販売する「アカリナ」は、直射光を透過して光を拡散させるというコンセプトで生まれた新しいブラインドである。従来のブラインドは「光を遮る」機能を追求してきたが、アカリナは逆転の発想で「光を採り入れる」ことを目的とした。直射光は直線的で影ができやすく、まぶしさを感じさせるが、アカリナを通した光は上下左右に拡散するため、明るくやさしい光に感じるのが特徴だ。渡辺勝利社長は言う。

「新素材のスラット(はね)により、太陽の直射光を透過・拡散します。窓全体で拡散させるので部屋の奥まで明るくなり、オフィスのなかで日中照明を消灯しても暗く感じません。ムラや影を作らない柔らかな光で作業効率もアップします」

 光を通しつつ、熱くならないのもアカリナの特徴だ。従来型ブラインドは直射光が金属製スラットにあたり、輻射されることによって蓄熱され、その熱が室内に向かって放出されることが室温上昇の原因となっていた。一方アカリナは熱を持たない樹脂製なので輻射熱が発生しない。

「金属製ブラインドに比べた窓際の体感温度は3~4度低くなり、エアコン効率が大幅に向上します。遮熱性能を示す日射熱取得率は0.17ηA(イータエー、数値が小さいほど日射熱の侵入を防ぐことができる)と現存する遮熱機能を持つ製品としては最上位クラス。金属製ブラインドの0.4、ガラスに使用する遮熱フィルムの0.5~0.6などと比べるといかに性能が良いか分かります」(渡辺社長)

前期は売上高が約2倍へ拡大

 3点目の特徴は長寿命であること。スラットの素材として採用している樹脂は高速道路の壁面パネルなどに使われるポリカーボネートで、耐光性や耐衝撃性に優れている。アルミ製ブラインドは一度折れると復元が困難だが、アカリナは屈曲性に優れるので形がすぐに戻る。また帯電防止加工によりほこりが付きにくく日常の手入れも楽々。長期間にわたり美しい状態を維持できることが大きなメリットになっている。スラットは可視光線透過率や紫外線遮蔽率の割合を変えた「ミルキー70」「ミルキー50」、再生材料を使用した「eco35」、遮熱効果を最大限追求した「リフレクト」、因州和紙100%使用の「きなり」の5タイプを展開。これらの異なるタイプを組み合わせたオーダーメードのブラインド「アカリナハイブリッド」(特許取得済み)もある。

 こうした特徴から、アカリナは環境配慮型ブラインドとして急速に注目が高まっている。エアコン効率の向上や照明の数を減らせるため消費電力の削減につながるからだ。製造時の二酸化炭素排出量は従来型ブラインドよりも少なく、折れや曲がりが生じにくいため長期的な使用に耐えうる。「一般的なブラインドと比べると1台当たりの価格は2倍以上」だが、長持ちすることや省エネ効率の向上によるエネルギーコストの削減を考えると、「早期に元は取れる」という。特にビル1棟丸ごとなど台数が多い場合は大きなエネルギーコスト削減効果が出る。

 実際、大手自動車メーカーや電力会社など日本を代表するそうそうたる大企業がクライアントに名を連ね、海上保安庁や外務省、国税庁など公共機関の庁舎や大学などの校舎でも導入が拡大中だ。高層ビルや大規模工場リニューアル工事では、省エネ効率を大幅に引き上げる切り札としてアカリナを指名するケースが相次いでいる。業績にも反映され、2023年8月期決算では前年度200%近く売り上げが伸びた。

左から、ブラインドで暗くなっていた室内を柔らかい光で室内を明るくする、急速に売り上げを伸ばした商品「アカリナリフレクト」、曲げても折れないですぐに元に戻る

左から、ブラインドで暗くなっていた室内を柔らかい光で室内を明るくする、
急速に売り上げを伸ばした商品「アカリナリフレクト」、曲げても折れないですぐに元に戻る

個人向け通販サイトも好調

オフィスや店舗、工場などで導入が相次いでいる

オフィスや店舗、工場などで導入が相次いでいる

 法人向けに加え、リニューアルしたばかりの個人向け通販サイト「あかりラボ」も着実に売り上げを伸ばしている。アカリナのほか採光カーテン「ネフライト」、採光クロス「サンパティエ」、採光フィルム「サントレノ」を展開中だ。

「電気料金の値上げが続き、『とにかく電気台を下げたい』と考えている方から注目を集めており、最近では採光カーテンの売れ行きが好調です。一般的に住宅ではレースのカーテンとドレープのカーテンを二重で設置しますが、両方閉めると部屋の中は薄暗くなってしまいます。ところがネフライトは部屋が明るいまま外から中の様子は見えません。ネフライトを使えば1枚で窓際をすっきりとさせることができます」(渡辺社長)

 もともと当社は、壁紙やタイルなどインテリア工事を施工する会社で、ゼネコンの下請けとして住宅やビル、病院、アウトレット施設などさまざまな現場で工事を行ってきた。現場の職人として勤務していた渡辺社長が2代目として社長に就任したのは2007年。以降、しばらくは順調なかじ取りが続いたが、2010年ごろに事態は暗転する。

「景気後退にともない取引先で不渡りが出てしまい、大赤字に陥ったのです。金融機関の支援等でなんとか事業を継続することはできましたが、このままのビジネスモデルではダメだと痛感しました。そこでいろいろと新規事業を模索したところ出会ったのが、明かりを取り入れるためのブラインドというアイデアでした」

 光拡散技術をもつある企業と縁があり、採光ブラインドの開発をスタート。東日本大震災後に東京ビッグサイトで行われた展示会に出展したところ、一躍脚光を浴びた。「節電」が盛んに呼びかけられ、多くの企業で日中の照明をオフにしていた時期だ。アカリナを使えば消灯していても部屋を明るくできると評判になったのである。

パート入社の女性が常務に

自由にプリントすることも可能

自由にプリントすることも可能

 こうしてメーカーとして生まれ変わったあかりカンパニーの強みは、ブラインドの取り付け工事を長年施工してきた現場ノウハウがあることだ。今でも現場、現物、現実の3現主義を大切にしている。

「内装工事はクライアントから依頼があり、現場を見て見積もりを行い、その後契約が成立します。アカリナの販売も同様です。営業社員が現場を直接見て、顧客の要望を取り入れながら商談を進めるので、商談の自由度が圧倒的に高い。生産から施工まで一気通貫で行えることから利益率が高いのも強みになっています」(渡辺社長)

 ビルの新築やリニューアル、オフィスや工場の省エネ工事などで一括受注するケースがメインなので、工事情報のいち早い入手が何よりも重要だ。その点、販売を代理店に一任するのではなく、営業担当者がエンドユーザーと日々接触している同社の情報入手力は群を抜いている。現在生産拠点は東日本と西日本の2拠点。需要増に対応して生産能力も拡大する計画で、イノベーション機能を兼ねた自社工場を本社敷地横に建設するプロジェクトを進めている。

 人事面では、一人一人の頑張りに応じた上限を設けない給与水準の実現を目標としている。一時7割近くに達するなど女性比率も高く、常務取締役の女性は当初パート社員として勤務。アカリナの成長とともにめきめきと頭角を現し、いまや「大会場での講演も堂々とこなし社長と勘違いする人もいる」ほどの右腕的存在に。渡辺社長は、あかりカンパニーを「社員が夢を見られる」職場にしたいと話す。

「かつて職人として働いていたときは頑張ったら頑張っただけ給料が増える経験をしましたが、若い人はそのやりがいを知りません。やりがいが大きければ会社も成長するし、地域も盛り上がります。給料をもらいに来るのではなく、稼ぎに来る会社にしたいですね」

 国内市場の席捲とともに、海外展開も計画中。韓国では特許を取得して現地法人を設立、来年2月には欧州での販売も開始する予定だ。日本発の採光ブラインドが世界中の窓を飾る日もそう遠くないかもしれない。

(協力・岡山さくら税理士法人/本誌・植松啓介)

会社概要
名称 株式会社あかりカンパニー
業種 採光ブラインド、採光製品の製造・販売
設立 1988年9月
所在地 岡山県岡山市中区国富3-9-4
URL https://www.akari-company.co.jp

掲載:『戦略経営者』2023年10月号