千葉県銚子市で特別養護老人ホーム「松籟(しょうらい)の丘」を運営している社会福祉法人銚子市社会福祉事業団。少人数単位で1人1人のニーズに寄り添ったユニットケアの取り組みで知られ、待機者が続出する地域でも人気の施設になっている。施設の運営を会計面で支えるTKCシステムの活用などについて、笹本博史理事長を中心に聞いた。
──事業概要を教えてください。
笹本博史理事長
笹本 当法人はかつての社会福祉事業法に基づいて銚子市が1981年に設立し、翌82年から特別養護老人ホーム「外川園」の運営を受託しました。
その後介護保険制度もスタートし、民間企業の参入も相次ぐなど介護をめぐる環境が大きく変わる中、老朽化により外川園の建て替えの話が持ち上がったタイミングで、市から介護保険事業(特別養護老人ホーム外川園の経営)を譲り受けるとともに、法人の運営体制を一新。未利用地だった市立銚子西高校跡地の一部を活用し、2012年にここ野尻の地に松籟の丘が完成しました。
私はもともと銚子市役所に勤務していて、都市整備課長や産業観光部長を担当し昨年3月に退職しました。3カ月後の昨年6月に理事長に就任し1年余が経過しました。
──松籟の丘の特徴は?
鈴木真理子施設長 1階と2階が主に従来型の4人部屋96床(24室)とショートステイ4床(4室)、3階が個室ユニット型の40床(40室)という配置になっています。外川園は110床でしたので30床の増床となりました。その他居宅介護支援事業もそのまま受け継ぎ、「ケアマネージメントハウス松籟の丘」として再スタートしました。
「看取り介護」で最期まで自分らしく過ごせるように
──サービスの特徴について詳しく教えてください。
鈴木真理子施設長
鈴木施設長 1階と2階は1室4人部屋の多床室が12室ずつあり、それぞれ食堂を2つずつ設置しています。3階の個室ユニット型は基本的に1ユニット10人の単位で介護サービスを提供しています。単位を小さくすることで入居者と職員が顔なじみの関係になり、1人1人に寄り添った対応を可能にしています。特に3階の個室は1ユニット10人のスペースが4つあり、それぞれ施設内に玄関を設けて「自分の家」のように感じられる造りになっています。居室にはなじみの家具や持ち物を運び込んでいただけるので、引っ越し感覚で入居できます。
──看取り介護にも積極的に取り組まれているとか。
鈴木施設長 かつては身寄りのない入居者の方がたくさんおり、結果的に亡くなられるまで介護を行っていたケースが多々ありました。その後介護保険制度がスタートし、そうした方々は減少したのですが、介護報酬をプラス加算にするなど国が施設の重要な役割の一つとして看取り介護を位置づけたので、2013年に方針転換をして看取り介護を積極的に打ち出すことにしました。医療を望まれない終末期の方が最期まで自分らしく過ごせるよう見届けるお手伝いをさせていただいています。
笹本 入居者の方が亡くなられたときにご家族の方から「ここで最期を暮らせてよかった」「みなさんに本当によくしていただきました」と心を込めた感謝の言葉を耳にしたことが何度もありました。本当にうれしい思いでいっぱいになるとともに、スタッフの日頃の頑張りを強く感じています。広報活動やピーアールは特にしていませんが、地域の方からも評価いただき、「家族をぜひ入居させたい」と希望される方が大勢いらっしゃるとうかがっています。
左から施設周辺の桜の木は地域住民がボランティアで植樹、施設内に玄関があり自宅のような感覚で過ごせる、
自宅で使っていた家具を持ち込める、畳の上でくつろげる共有スペース
正確な収支予想で借入金の早期返済を実現
──『FX4クラウド(社会福祉法人会計用)』を導入された経緯について教えてください。
加瀬昇一税理士
加瀬昇一税理士 もともと私は銚子市の監査委員の任についていました。その後新体制へ移行するタイミングで理事に就任し、銚子市社会福祉事業団を支える側に回りました。その際課題となったのが、財務書類が制度として定められた社会福祉法人会計と大きくかけ離れていたこと。そこで当事務所と契約していただき、『FX4クラウド』を導入してゼロから会計業務を立て直しました。
鈴木敏子前事務局長 市職員として財務会計、企業会計業務を担当してきた経験から退職後、2013年4月に事務局長に着任しました。当時は固定資産台帳が整備されていない状態で、新設した松籟の丘も建設仮勘定のままで、資産勘定に含まれていないなど会計システムが確立されていませんでした。これではまずいということでTKCシステムを導入して固定資産台帳を整理するところからはじめました。すべて正確に登録するまでは大変でしたが、予算の策定から決算まで全て『FX4クラウド』で行うようになってからは、収入と支出、資金繰り、キャッシュフローなどの数字をスムーズにチェックできるようになりました。
──特にメリットに感じたのは?
鈴木敏子前事務局長
鈴木前事務局長 業績や予算の執行率について対前月、対前年同月の数字との比較を常にできるのがよいと思います。預金残高の水準、収入と利益の現状と将来の予測ができたので、加瀬先生の指導のもと、借入金の早期返済を実現することができました。
加瀬昇一 新施設建設にあたり福祉医療機構から借り入れを行っていたのですが、返済5年目以降に金利が引き上げられることになっていました。そこで早期返済の道を探ったところ、事業計画の内容と資金収支の状況から想定を上回る返済可能額が計算されたので、人件費などを削ることなく、予定を7~8年上回るスピードで完済することができました。
──休暇日数が多いそうですね。
笹本 心に余裕をもって介護サービスを提供するため、職員の休暇は年間123日付与、また日勤の連続勤務日数は原則3日までをイメージしています。他の社会福祉法人と比べても休暇日数が多いため、シフトを組むのにより多くの人数が必要になります。人件費は必然的に高水準になりますが、介護事業で一番の肝は人材ですので、できる限りこの水準を維持したいと考えています。
入力作業の問い合わせは同じ画面を見ながら説明
──財務内容が良い理由は?
笹本 収益に直結する稼働率がここ数年98%を上回る水準を維持しています。また職員が一生懸命頑張ってくれている結果、看取り介護もそうですが、重度化した利用者に対する介護報酬加算がとれていることが好調な業績につながっていると思います。
──システム操作のサポートは?
加瀬綾子税理士
加瀬綾子税理士 『FX4クラウド』の入力についてお問い合わせいただいたときに、システムを立ち上げて同じ画面を見ながらご説明できるので、可能な限りタイムリーな入力作業が実現できていると思います。また昨年12月には給与システムを『PX2』に変更されました。そちらも同様に活用していただけるよう今後もサポートさせていただきます。
──抱負をお話しください。
笹本 今後の経営判断のための資料とするため、入居を希望されたにもかかわらず満床のため待機していただいた方が、1年後にどうなったかをヒアリング調査しました。その結果、約3分の1の方がお亡くなりになっていましたが、その他の方は何らかの形で病院や施設に入っておられました。ということは特別養護老人ホームの絶対数は足りているとも言えるので、これからは「選ばれる施設」にならなければなりません。今年3月に当施設は、千葉県で初めて一般社団法人日本ユニットケア推進センターの実地研修施設としての指定を受けました。職員への研修実施や他の施設からの研修生受け入れを通じ、職員のさらなるスキル向上を目指していきます。
(協力・税理士法人デプロ/本誌・植松啓介)
名称 | 社会福祉法人銚子市社会福祉事業団 |
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業種 | 特別養護老人ホームの運営 |
設立 | 1981年12月 |
所在地 | 千葉県銚子市野尻町1472番地の1 |
職員数 | 106名(2023年7月現在) |
URL | https://www.choshi-jigyoudan.or.jp |
顧問税理士 |
税理士法人デプロ
顧問税理士 加瀬昇一 千葉県銚子市西小川町297-1(銚子事務所) URL: https://dpl.tkcnf.com |