- プロフィール
- ふじた・ひであき●1975年、東京都生まれ。明治学院大学社会学部社会福祉学科卒業。97年に社会福祉法人に介護職兼生活相談員で就職、99年に施設長・理事に就任。2001年に混合介護による夜間対応型高齢者デイサービスを手掛ける福祉企業を起業。16年に株式会社CARE PETS(現アニスピホールディングス)を設立、17年からペット共生型障害者グループホーム「わおん」「にゃおん」の運営をスタートする。著書に『介護再編』(共著、ディスカバー・トゥエンティワン)などがある。
藤田英明 氏
当社は精神障がい者や知的障がい者の方が犬や猫とともに暮らせるペット共生型障がい者グループホーム「わおん」「にゃおん」を全国で900施設以上展開しています。保護猫や保護犬を各施設で1~3頭くらい飼育するのが基本ですが、もともと飼っていたペットと一緒に入居することも可能です。また従業員がペットと一緒に通勤することもできます。
さまざまな研究を通じ、ペットとの暮らしには高血圧が改善したり、血中コレステロールが低下したりするなどの生理的効果があることが明らかになりつつあります。欧州の複数の国ではアニマルセラピーが診療報酬の対象になっており、精神的にも癒やし効果が得られ、抑うつ症状に効果があることが分かっています。
社会的な効果も期待できます。障害のある方は、どちらかというと支援を受ける対象として人生を送ってきたので、自己肯定感が低いケースが多い。そうした方が、自分たちより弱いペットという存在を認知し、食事やトイレの世話、散歩に連れていくなどの日常を重ねることによって、「自分が彼らの面倒を見なければならない」という責任感が芽生え社会性を獲得していくのです。グループホームの入居者はどうしても個室にこもりがちになりますが、動物と触れ合うためにはリビングに出てこなければならないので、入居者同士のコミュニケーションのきっかけにもなります。
空き家問題の解決策にも
ペット共生型のグループホームはこのようにさまざまな効果がありますが、生活に困難を抱えた障がい者へのハウジングサービスの提供、飼育放棄された動物の殺処分数の低減、空き家問題の解決という3つの社会課題に対するソリューションとなる事業でもあります。
まずは障がい者へのハウジングサービスの提供。80代の高齢者が50代の子の面倒を見るという「8050問題」という言葉はおなじみのものになりましたが、いまや「9060問題」と呼ばれることも珍しくなくなりました。障がい者の子と親がいつまでも同居を続けるのはさまざまな問題を生みますが、かといって40~50代まで親に扶養してもらってきた障がい者がいきなり一人暮らしをするのは非現実的。そうした障がい者が暮らす受け皿の場として期待されているのが、支援を受けながら複数人で住宅に暮らすグループホームで、ここ数年毎年1万人ずつ利用者が増えているといわれています。
2番目は空き家問題の解決。明治学院大学の社会福祉学科を卒業した私は20年前、26歳のときに起業しました。当時は高齢者施設に入りたくても入れない「待機高齢者」が40万人を超え、介護疲れによる家族のメンタル不調や虐待などが社会問題化していました。そこで私は空き家で高齢者の方をお預かりする駆け込み寺のようなサービスを始めたのです。
業界の常識を覆す事業だったため、「空き家で老人介護とは何事か」と多くの批判も浴びましたが、私から見れば空き家という余っているリソースを介護に利用して価値を生み出す事業は、シュンペーターのいう「既存のものと既存のものを組み合わせて新しい価値を生み出す」イノベーションそのものでした。この手法を「わおん」と「にゃおん」でも取り入れ、借り手のつかない貸し家をグループホームに活用することで日本の空き家率低減に貢献しています。
最後は動物福祉の向上。私は犬8頭、猫4匹、フェレット1匹、鳥82羽など多くの生き物と一緒に暮らしている大の動物好きです。現在日本では飼い手のいない保護猫や保護犬が年間約2万頭殺処分されていますが、「わおん」や「にゃおん」で引き取ることで、保護動物の命を1頭でも多く救うことができます。
現在日本には介護事業施設30万、障害者福祉施設11万の計41万の事業所が運営されています。私たちの事業が先鞭(せんべん)をつけることで他の福祉施設にもこの取り組みが広がれば、仮に1カ所1頭でも41万頭の動物の命を救える計算になります。
レベニューシェア方式で拡大
毎月のように新規施設がオープンしており、現在44都道府県に936カ所のグループホームを展開しています。そのうち直営店が57で、残りは当社独自のレベニューシェア方式で協力企業が運営をしています。
あえてフランチャイズ展開せず、あらかじめ利益の一定割合を配分しあうこの方式を採用したのは、フランチャイズ方式の①5~10年など契約期間が長期にわたる②高額な違約金が設定される──などの点がグループホームの運営にそぐわないと考えたから。レベニューシェア方式の契約期間は2年で違約金はゼロ、「わおん」「にゃおん」を使用せず独自の名称を付けることができるなど自由度の高い運営ができるのが特徴です。
さらに他社ではまねできない種類と量がある教育コンテンツを有していること、当社のスーパーバイザーが多角的に関与し企業の指導を的確に行えること、不動産やマーケティング、人材紹介、システム開発などの分野にグループ子会社があり、グループホーム運営にかかわる後方支援を行う体制が整っていることが優位性となっています。
福祉事業の根本は「困っている人がいたら支援する」。まだグループホームは全然数が足りていません。着実に供給体制を構築していくとともに、障害者デイサービスや訪問看護事業などの周辺サービスの提供にも乗り出したいと考えています。
(インタビュー・構成/本誌・植松啓介)
名称 | 株式会社アニスピホールディングス |
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所在地 | 東京都千代田区九段南3-1-1 久保寺ビル3階 |
設立 | 2016年8月 |
従業員数 | 250人 |
URL | https://anispi.co.jp/ |