金型設計・製作や電子ファイリングソフトの開発・販売を手がける枚岡合金工具株式会社は、透明性の高い業績開示や全社員を巻き込んだ経営計画の策定など、会計情報を積極活用している中小企業だ。古芝保治会長、古芝義福社長、IT事業部の田原健次氏、尾中寿顧問税理士に経営・財務戦略の勘どころを聞いた。

金型製造業の枠を超えた多彩な事業を展開

──1949年創業と豊富な業歴をお持ちですね。

古芝義福社長

古芝義福社長

古芝義福社長(以下社長) 創業以来、主に冷間鍛造金型の設計と製作をなりわいにしてきました。当社が手がけているのはねじ、ボルトといった締結部品の金型で、自動車や建築金物、建設機械等の部品を作る際に用いられています。

──強みは?

社長 耐久性に優れた長寿命の金型を短期間で製作できるところでしょうか。当社では3D鍛造解析ソフトウエアを導入しており、機械が金属素材に与える力加減や打撃回数などを事前にシミュレーションしてから製造に入るので、顧客の要求どおりの形状、強度の製品を短い納期で納品できています。

──現在は金型製作にとどまらない多彩な事業を展開しておられます。

古芝保治会長

古芝保治会長

古芝保治会長(以下会長) 2003年に販売を始めた文書管理ソフト「デジタルドルフィンズ」はペーパーレス化やリモートワークの普及により引き合いが相次ぐようになりました。ユーザーの多くは製造業ですが、なかには保険代理店や士業のお客さまにもご利用いただくなど業種に限定されない使い勝手の良さが売りです。

──詳しく教えてください。

田原「デジタルドルフィンズ」は設計図、製造指示書、注文書といった紙の文書をパソコン上で管理する電子ファイリングソフトで、上場企業5社、中堅・中小企業220社でご利用いただいています。ありがたいことに、「図面が探しやすくなり迅速な顧客対応が可能になった」「サポート体制が充実しており安心して利用できる」などの声を多く頂戴するなどユーザーの評判も上々です。

──中小製造業が業務管理ソフトを手がけているのは珍しいですね。開発に至った経緯を教えてください。

会長 もともとは社内の文書管理を効率化するために開発したものです。今でこそきちんと管理できているのですが当時は図面が社内のいたるところに散乱しており、取引先から問い合わせを受けたときも該当の図面を探すだけで30分~1時間ほどかかっていました。連絡が来るたびに業務がストップしていましたし、何より課題に感じていたのが資料を探す間お客さまを待たせてしまうこと。この無駄をどうにか解消できないかと思い、開発したのが「デジタルドルフィンズ」でした。文書の名前や図面番号を検索すれば該当の図面を瞬時に確認できるので、以前のように問い合わせを受ける、資料を探す、電話を折り返すといった手間がかからず、1回のやり取りで完結するようになりました。

──商品として販売を始めたきっかけは?

会長 いろいろありますが、背中を押したのはパナソニックの幹部社員さんの一言ですね。パナソニックさんが工場見学に訪れた際に当社の業務改善の事例を説明したところ「なぜ商品化しないんですか。ニーズはありますよ」とコメントされたんです。その後、03年に経営革新支援法の認定、関西IT百選の受賞を機に、自社ブランドとして商品化を目指して取り組むことにしました。

(上)社内では整理整頓が徹底されている

(上)社内では整理整頓が徹底されている

──工場見学会も積極的に開催されておられるとか。

会長 01年から取り組みを始め、これまでに1万6,000人の方がお見えになりました。中小製造業はもちろん、先ほどお話ししたパナソニックさんなど大手企業の方が見学に来られることも多いです。

──見学客の興味を引いている取り組みは何でしょう。

会長 日々実践している"心に火がつく"3S(整理・整頓・清掃)活動が特に参考になっているようです。

社長 見学会では社内の清掃体験をプログラムに盛り込んでいて、実際に2分間の床磨き清掃を体験してもらっています。ゲストの反応も良く、ある外国人の方は「日本の素晴らしい文化に触れた」と喜んでいましたね(笑)。

全社員参加の会議で1年間の経営計画を策定

尾中寿税理士

尾中寿税理士

──尾中先生からみた枚岡合金工具さんの印象は?

尾中 若い社員が多く、チャレンジ精神の旺盛な会社ですね。あと、社内がとても美しい。いつお邪魔しても塵(ちり)一つ落ちていません。3Sに取り組む会社は多くありますが、枚岡合金工具さんのように机の中や書類の配置までルールを決めて徹底されているところは少ないです。

──2003年4月に尾中先生が顧問に就いたと聞きました。『FX2』を導入したのもこの時期ですか。

社長 はい。

尾中 事務所の方針として「法人の顧問先にはすべてTKCの会計ソフトを導入する」ことを掲げているので、枚岡合金工具さんも例にもれず税務顧問に就いたタイミングで『FX2』を入れていただきました。

──特に重宝されている機能は?

社長 部門別に業績管理できるところです。当社は「金型事業部」「IT事業部」「教育事業部」の3つの事業部があり、『FX2』でも3部門それぞれで損益計算を行っています。部門ごとの最新業績が手に取るようにわかるので意思決定のスピードが格段に上がりました。

──『FX2』の帳表はどのように活用していますか。

経営理念や目標業績等が掲載された『枚岡手帳』

経営理念や目標業績等が
掲載された『枚岡手帳』

社長 当社では全社員が参加する全体会議を毎月第1土曜日に開催しており、《変動損益計算書》をベースに予算の達成度合いや業績目標の進捗(しんちょく)状況を確認し、打ち手を議論しています。さらに、全社会議の4~5日前に各部門でも会議を開いているのですが、ここでも《変動損益計算書》を確認しながら翌月の活動方針の棚卸しや全社会議の報告内容などを詰めています。
 そのほか、毎月の最新業績や予算の達成状況を社内に掲示したり、毎年社員に配っている『枚岡手帳』に今期の業績目標や5カ年の利益計画表を掲載するなど、会計データが身近にある環境を構築しています。

尾中 枚岡合金工具さんではガラス張りの経営を目指しておられ、売上高や限界利益はもちろん、役員報酬も包み隠さずオープンにしておられます。ここまで透明性の高い会社は他に見たことがありません。

──ガラス張り経営の効果は?

社長 1人1人が常に業績を意識しながら仕事に取り組むなど、社員の「経営感覚」が研ぎ澄まされたと感じています。特に変動費の影響を受けやすい金型事業部では「限界利益率55%」を目標の一つに掲げていて、部門スタッフ全員が限界利益率を念頭に置きながら材料の調達や無駄な経費の節約などに取り組んでくれています。

田原健次氏

田原健次氏

田原「経営者感覚」は経営者でないと分かりませんが、「経営感覚」は経営者でなくても身に付きます。私も最初は《変動損益計算書》の勘定科目や指標の意味を理解できていませんでしたが、常に会計情報に触れる環境にあるので、次第に「これだけ売れば目標利益を確保できる」とイメージできるようになりました。

──経営計画も全社員の意見を吸い上げて策定しているとか。

社長 当社では決算月である3月の第1土・日曜に経営計画策定会議を開催し、翌期の定性目標と業績目標を全社員で議論しています。かれこれ20年ほどこのやり方を続けているでしょうか……。相変わらず人の集まりにくい状況が続いていますが、会議室のこまめな換気やアルコール消毒、オンライン参加など工夫を施しつつ、今年も全員で経営計画を立てました。

──今後の抱負をお聞かせください。

社長 いろいろありますが、まずは私が常に問題意識を持っている「社員満足度(ES)」の向上に取り組みたいと考えています。社員の成長なくして組織の成長はあり得ませんからね。全員が「枚岡合金工具で働いてよかった」と思ってもらえるよう、人事考課制度や社員の成長を後押しする仕組みを構築し、モチベーションを高く持って働ける職場環境を整備することが当面の目標です。

(本誌・中井修平)

会社概要
名称 枚岡合金工具株式会社
設立 1950年4月
所在地 大阪府大阪市天王寺区烏ヶ辻2-1-2(本社)
大阪府大阪市生野区巽中2-7-22(大阪事業所)
売上高 3億2,000万円
社員数 25名
URL http://www.sg-loy.co.jp/
顧問税理士 尾中税理士法人
所長 尾中 寿
大阪府東大阪市下小阪2-14-9 YANO八戸ノ里駅前ビル3F
URL: https://onakakaikei.net/

掲載:『戦略経営者』2022年5月号