前列中央が前嶋公崇社長。右端が水島栄司顧問税理士。
水島税理士の後ろに立つのが金子涼子監査担当。
その左側は上條美香氏
前嶋工務店は30年をこえる業歴を持つ内装工事会社。前嶋公崇社長が主導するきめ細やかな人材育成により、若手従業員が定着し、成長の原動力となっている。TKCシステムの導入を機に月次決算に移行。業績を現場ごとに把握し、強固な財務管理体制を築きつつある。業績管理の変貌ぶりについて、前嶋社長と経理業務を担当する上條美香氏を中心に語ってもらった。
成果に応じた報酬体系で若手従業員の意欲を高める
──業容を教えてください。
前嶋公崇社長
前嶋 積水ハウスの指定工事店として、住宅の内装工事をメインに手がけています。内訳は一戸建て住宅が4割、集合住宅が6割ほどで、新築物件が中心です。おもに事務所のある八王子市から、半径25キロ圏内のエリアで業務を請け負っています。
──コロナ禍で仕事の進め方は変わりましたか。
前嶋 積水ハウスが主催する会議や研修会は、もっぱらウェブ上で行われるようになりました。オンライン会議ソフトを活用して、工事の進捗(しんちょく)状況を打ち合わせたり、人材教育をテーマとした研修会に参加したりしています。ウェブ会議なら移動時間ゼロで、場所を問わず参加できるのが利点です。それと従業員にタブレット端末が配布され、現場での作業効率が高まりました。専用アプリによる現場管理や写真撮影に活用しています。
──ペーパーレス化が進んでいるわけですね。会社の強みと特徴は?
施工を担う若手大工職員
前嶋 若手の従業員が定着しつつあるところでしょうか。15名の大工さんを雇用しており、平均年齢は35歳ぐらい。利益をやみくもに追求するのでなく、会社の将来を担う従業員に少しでも多くの賃金を支給し、モチベーションを高めていきたいと考えています。各自が1カ月単位で目標を決めて、計画どおりに仕上げれば手当てがつく。そんなやり方を採用しています。
また、積水ハウスからの指導もあり、作業現場で発生した端材の分別に力を入れていて、木材やビニール、石膏(せっこう)ボード等、廃棄物を細分化して処理しています。
──ご自身が施工されることもありますか。
前嶋 ほぼ毎日、どこかの現場に赴いています。現場では作業のフォローや若手従業員への声がけなど、アシスタント役に徹しています。立派な親方についたからといって、一人前の仕事ができるようになるわけではありません。最も大切なのは本人のやる気。30歳を過ぎて建築業界に飛び込んだ人でも、意欲と興味があれば技能は身につくものです。不得意な分野を手伝ってあげるなどして、仕事のしやすい環境を整え、成長を促すのが社長の役割だと思います。
──ところで、事務所の表札にあるエムスタイルとは?
前嶋 われわれと同じく、積水ハウス指定工事店からなる有志のチームです。40名ほどのメンバーが所属していて、以前は旅行イベントを定期的に開催するなどして、親睦を深めていました。前嶋工務店は父と2人で立ち上げ、2011年に私が会社を引き継ぎました。
精緻な現場別業績管理で決算の見通しがクリアに
──『DAIC2』を導入された経緯を教えてください。
前嶋 税理士法人オンリー・ワンさんと顧問契約を結んだ直後は『FX2(戦略財務情報システム)』を利用していました。まもなく顧問税理士の水島先生から、もっといいシステムがあるよと。施工した物件ごとの粗利率を知りたいと考えていたので、『DAIC2』を提案してもらったのは渡りに船でした。監査担当の金子さんに『FX2』からのデータ移行を支援してもらい、今では『DAIC2』から出力した帳表で業績を確認するのが習慣になっています。
──自計化する前の記帳方法は?
上條 現金出納帳に日々の取引を手書きで記入していました。月次決算ではありませんでしたから、決算申告前は大変でしたね。帳簿上と手元の現金残高に数百万円単位の差異が生じるときもあり、社長が1年分の請求書を取り出して確認作業に追われていました。
金子 当時は現金主義で管理されており、計上すべき売り上げが漏れていたり、材料費を余分に支払っていたりして、齟齬(そご)が生じる要因になっていました。まずは現金主義から発生主義に転換してもらうべく、ご支援しました。
上條 私自身、『FX2』を利用する前まで経理の実務経験がなく、会計システムを使いこなせるか不安だったんです。金子さんが事務所に毎週足を運んで、システムの操作方法を丁寧に教えてくれ、また税理士法人オンリー・ワンさん主催の簿記の勉強会にも参加させてもらい、経理の知識を身につけることができました。『DAIC2』に移行する際、水島先生に「誰でも入力できるので大丈夫」と励ましてもらったのも、心理的な支えになりました。
──システムの移行はどのように?
上條 どの取引先から材料を仕入れているか、あるいはどの取引先に請求書を発行すべきか、過去の書類を整理して特定することから着手しました。以前は着工時に取引先からファクスで届く、明細書の中身をあまり確認せず処分していました。その後、材料費などが掲載されている重要な書類であると指摘され、『DAIC2』に仕訳入力する際の資料として活用しています。
水島『DAIC2』を活用する上で、経理担当の方と現場で働く職人さんとの情報共有が欠かせません。その連係プレーがうまくいっているところが、システムの活用が軌道に乗った要因であると思います。
従業員社宅を完備
──自計化され、どんな点が変わりましたか。
前嶋 劇的に変わったのは、決算申告に対する心構えです。TKCシステムを導入する前は、利益が出ているか手探りの状態で、期末間際になって1期分の請求書等の内容を振りかえり、業績を予測していました。『DAIC2』移行後は期中に業績の推移がリアルタイムでわかるし、問題があれば手を打つこともできる。決算申告前のあわただしさから開放され、業績の見通しがクリアになった点が大きいです。
──ふだん重点的にチェックしている経営指標を教えてください。
前嶋 月次巡回監査時に〈現場別工事台帳〉を出力して、施工物件ごとの粗利額と原価率を確認しています。現場ごとに利益が出ているか、おおよそのイメージはありますが、システムで実際に確かめると材料費が多額にのぼるなどして、利益を圧迫しているケースもあります。通常、10カ所前後の現場を同時並行で請け負っており、現場ごとの詳細な数字を把握できるので重宝しています。
書面添付(※)の連続実践で会社の信用力を高める
──TKCシステム利用に対する金融機関の評価は?
社内に掲示している書面添付実践の表敬状
前嶋「TKCモニタリング情報サービス」(MIS)を用いて、2行の取引金融機関に決算書データを送信しています。金融機関から財務資料の提出を求められた場合、自計化する以前は会計事務所に問い合わせて送付してもらう必要がありました。現在はパソコンに最新の業績データが保存されているので、迅速に対応できます。
あわせて書面添付も毎期実践しており、会社の信用力向上につながっていると感じています。税務調査前に八王子税務署から税理士法人オンリー・ワンさんに意見聴取が行われた結果、調査が省略になったこともありました。当時授与いただいた表敬状を額に納め飾っています。
上條 水島先生から手渡される決算書類の体裁がバインダーでとじられ、立派であるところもありがたいです。建築許可更新のため、行政機関に決算書類を提出する際に特にありがたみを感じます。取引先とやり取りする領収証が多いので、スキャナーによる電子保存化が今後の課題です。電子化できれば業務引き継ぎの際、スムーズに行えるはずです。
──将来の目標と方向性を。
前嶋 会社を背負って立つ若い従業員が公的資格取得などの目標を立て、夢の実現を後押しする会社でありたいと思います。私の使命は従業員をバックアップし、応援すること。若手の職人も育ちつつあり、確かな手ごたえを感じています。
※書面添付制度(税理士法第33条の2)
申告書作成のプロセスにおいて、計算、整理、相談に応じた事項を明らかにした書面を申告書に添付し、税務の専門家である税理士が、その申告が誠実に行われていることを示す制度。この書面添付を行うことで、顧問税理士が税務署から意見聴取を受けた上で企業への税務調査が省略されることがある。
(本誌・小林淳一)
名称 | 有限会社前嶋工務店 |
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設立 | 2005年8月 |
所在地 | 東京都八王子市美山町1784-1 |
売上高 | 2億5,000万円 |
社員数 | 6名 |
URL | https://www.maejimakoumuten.com/ |
顧問税理士 |
税理士法人オンリー・ワン
顧問税理士 水島栄司 東京都八王子市中野上町4-23-4 URL: https://www.tax-8.com/ |