事業継続計画(BCP)というワードは、昨今、徐々に浸透しつつあるが、いまだ「敷居が高い」と考える中小企業経営者は多い。日々の業務に手一杯で、万が一の準備にまで気が回らないというのが正直なところかもしれない。
昨年来の新型コロナ感染症は言うに及ばず、日本は地震や台風、大雨の災害大国であり、被災すれば企業の息の根が止まってしまう危険性をはらんでいる。しかし、中小企業では、敷居が高いという直観的な忌避感だけでなく、人手不足やノウハウ不足もあってBCPの策定が進んでおらず。策定率は2割程度という低い水準にとどまっている。
このような背景から政府は中小企業の事業継続に向けた取り組みを後押しするべく2019年7月施行の「中小企業強靱化法」を契機に、「事業継続力強化計画」(ジギョケイ)の策定をサポートする「事業継続力強化支援事業」を展開している。
マンパワーやノウハウ不要
ジギョケイのポイントは、防災や減災の事前対策に特化しているところ。BCPは会社を取り巻くリスクの整理、重要業務の絞り込み、復旧計画の策定など網羅すべき範囲が広く、計画書のボリュームも多くなりがちだが、ジギョケイは「事前対策の検討と実行」が目的なので、4~5ぺージ程度と内容的にもシンプル。そして、何よりも大きいのが、中小企業基盤整備機構(中小機構)による支援体制が充実していることだ。しかも、すべてのサービスが無料である。マンパワーやノウハウが不足していても、気兼ねなく計画づくりに取り組むことができる。
もちろん実務的なメリットもある。策定した計画を国が認定することで、日本政策金融公庫による低利融資や、中小企業信用保険法の特例による信用保証枠の拡大、防災・減災設備に対する税制優遇措置、ものづくり補助金等の優先採択などのメリットが受けられる。認定ロゴマークも使えるようになるので、これを名刺等に印刷することで取引先や金融機関からの信用力向上も期待できる。
では、ジギョケイの認定を受けるにはどうすればよいのか。
まずは、「BCPはじめの一歩事業継続力強化計画をつくろう!」という中小機構のサイトを見て欲しい。そこには、「計画に必要なもの」から「計画のつくり方」「申請の仕方」あるいは「認定事例」まで掲載されている。作成の際には、中小企業庁のHPに掲載されている「事業継続計画策定の手引き」や、中小機構で作成している手引きの解説書を参照されるとよいだろう。
「単独型」と「連携型」
読んだだけでいきなり計画づくりというのは難しいという方には、中小機構で随時開催されている「実践セミナー」(オンライン)がお勧めだ。ここでは、講義や演習、グループディスカッションを通じて実際に計画を策定することができる。セミナー中に計画を仕上げ、そのまま申請することも、あるいは、時間内に完成しなかった場合は後日、個別に専門家の支援を受けることも可能だ(1回限り)。セミナーを受けずに、いきなり専門家による「ハンズオン支援」のもとで計画を策定することもできる。
計画には、自社だけで策定する「単独型」と、組合や地域、サプライチェーンといった複数社のもとで策定する「連携型」の2つのパターンがある。とくに連携型は最近特に注目されてきており、単独型と比べてより効果が上がるケースもある。複数企業が連携することによって一方が稼働不能になった場合の代替生産や資材・物資の融通が可能になるうえ、場合によっては、防災の観点のみならず、平時における業務の棚卸も見込めるからだ。
というわけで、本特集では、まず、令和3年度中小企業強靱化シンポジウム(中小企業基盤整備機構主催)における、西松屋チェーンの大村浩一代表取締役社長の基調講演で防災対策の必要性を実感していただいてから、後欄で具体的なジギョケイ策定事例を提示する。参考にしていただければ幸いである。