2022年1月1日、改正電子帳簿保存法が施行される。多岐にわたる改正内容のなかでも、実務に大きな影響が見込まれるのが、電子取引データの保存だ。改正の要点とシステム対応について、TKC会計人の岩崎博信税理士に聞いた。

プロフィール
いわさき・ひろのぶ●税理士法人岩崎会計代表社員税理士。1972年生まれ。95年慶応義塾大学法学部卒。同年岩崎会計事務所入社。96年税理士試験合格。2004年岩崎会計事務所所長に就任。07年税理士法人岩崎会計代表社員税理士に就任。
改正電子帳簿保存法に対応せよ

「うちの会社には関係ない」。中小企業経営者に電子帳簿保存法(※)改正について案内すると、たいていこのような反応が返ってきます。しかし、改正の影響を受けるのは、帳簿書類をデータ保存している企業にかぎりません。アマゾンや楽天等のECサイトで物品を購入したり、電子決済により商品を販売したりと、何らかの電子取引を行っている企業、個人事業者は法改正に対応する必要があります。

 そもそも電子帳簿保存法とは、紙での保存が義務付けられている帳簿書類について、電磁的記録(電子データ)で保存するための要件などを定めた法律です。

 電子データによる保存は、図表1(『戦略経営者』2021年12月号P11)のとおり①電子帳簿等保存②スキャナ保存③電子取引という3つの区分に大まかに分類できます。ひと口に電子帳簿保存といっても、①から③を包含する広義の場合と、①の電子帳簿等保存のみを指す狭義の場合があり、注意が必要です。①と②は法律上「任意」であるのに対して、③は法律上「強制」であるため、適切に対応しないと青色申告の承認が取り消される可能性もあります。施行日は2022年1月1日と目前に迫っており、今年中に対応策を検討しておきましょう。

 ①の電子帳簿等保存で対象となるのは仕訳帳、総勘定元帳等の電子的に作成した帳簿書類です。新法では、これらの電子帳簿は「優良な電子帳簿」と「その他の電子帳簿」に分けられることになりました。優良な電子帳簿とは、国税関係帳簿の全部または一部について、訂正・削除履歴の確保、検索機能の確保等の要件を満たした電子データで保存されている帳簿を指します。ちなみに『FX2』(戦略財務情報システム)などTKCの自計化システムから出力される電子帳簿は、優良な電子帳簿に該当します。なお、年内に『FX2』から『FX2クラウド』へ移行する場合、「変更の届出」を提出する必要があります。

電子帳簿保存法…電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律

もともと「紙」か「電子」か

また、総勘定元帳、仕訳帳その他必要な帳簿(得意先元帳や固定資産台帳等)について、優良な電子帳簿の要件を満たして保存している場合、過少申告加算税が5%軽減されます。ただし、適用を受けようとする税目に関わる全ての帳簿を、優良な電子帳簿の要件にしたがって保存する必要があります。そのため、市販の販売管理ソフト、あるいはエクセルで作成した現金出納帳等のデータで要件を満たすのは、現実的に困難だと思います。

 次に②のスキャナ保存では、紙で受領した領収書や請求書、契約書等をスキャナで読み込み、電子データで保存する際のルールが改正されました。書類への自署や検索要件等が緩和され、事務作業の負担が軽減されます。

 具体的には、受領者がスキャンする書類に自署する必要がなくなり、タイムスタンプの付与期間が最長2カ月とおおむね7営業日以内とされました。タイムスタンプとは、ある時刻に電子データが存在していたことと、その時刻以降改ざんされていないことを証明する仕組みをいいます。読み取ったデータの訂正、削除履歴を確認できるなど、一定の要件を満たすシステムに保存する場合には、タイムスタンプが不要とされました。加えて新法では、相互けん制や定期的な検査体制等の要件も廃止されます。

 これらの改正事項は、22年1月1日以降に実施するスキャナ保存に適用されることになります。スキャナ保存された電子データに不正がある場合、重加算税が10%加算されるため注意が必要です。なお、①と②いずれにおいても、新法では事前承認が廃止されます。

 そして、最も大きな影響が見込まれるのが③の電子取引です。

 紙で受領した書類をデータ化する②に対して、こちらは電子データとしてやり取りされる領収書や請求書などを指します。旧法では、書面に出力して保存する方法も認められていました。しかし、この規定は新法で削除され、申告所得税および法人税において、電子取引データのデータ保存が義務付けられ、印刷した書面を保存することは認められなくなります。電子帳簿保存およびスキャナ保存を実施しているかどうかは関係ありません。ちなみに、消費税の仕入税額控除を受けるためには証憑書類を書面で保存することが原則ですが、「適格請求書保存方式」いわゆるインボイス制度が施行される23年10月以降は、書面に加え電子の請求書等も認められます。

 今回の電子帳簿保存法改正は、電子取引のあるすべての事業者が対象となります。ネット上での取引が当たり前となるなか、無縁でいられる企業はほぼないはずです。仮に現在、電子取引を一切行っていなくても、取引先が電子取引を導入すれば対応せざるを得ません。新法が適用されるのは、22年1月1日以降に発生する電子取引であり、事業年度の途中であっても対応する必要があります。

多岐にわたる電子取引

 では、電子取引データのデータ保存という課題に、どう対応すればよいでしょうか。まず着手すべきは、社内における電子取引の洗い出しです。TKCが提供している「電子取引チェックシート」(『戦略経営者』2021年12月号P12図表2)等を活用して、もれなく確認してください。例えば、ECサイトで物品を購入した際、メールに添付される領収書をはじめ、さまざまな取引が当てはまります(『戦略経営者』2021年12月号P12図表3)。ちなみに私の事務所では、月次巡回監査で証憑書類を確認する際、電子取引に該当する証憑書類には小文字の「e」マークを付し、関与先企業の経理担当者と認識を共有するようにしています。

 次に、誰が、いつ、どのように電子取引データを保存するのかを検討します。電子取引データは、最長2カ月を経過したあと、1週間以内に保存する必要があります。つまり、22年1月1日に発生した電子取引データなら、同年3月第1週までに保存しなければなりません。保存方法には、一定のルールを定め任意のフォルダーに格納する方法と、専用のソフトウエアを用いて管理する方法の2つがあります。前者の方法を採用する場合、電子取引データの訂正、削除の防止に関する事務処理規程を作成し、備え付ける必要があります。国税庁のウェブサイトに規程のひな型「電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」が掲載されています。

 実際の運用方法としては、請求書データ(PDF)のファイル名に日付、取引先名、金額を明記するなど規則性をもたせ、取引先別あるいは月別等に区分したフォルダーに保存します。もしくはこの方法の代わりに、請求書等のデータを日付、取引先、金額で検索できる索引簿を作成して管理することも可能です(『戦略経営者』2021年12月号P13図表4)。

 中小企業の実務の現場を月次巡回監査で目の当たりにしてきましたが、ここまで述べた運用方法を継続するのは、よほど几帳面な経理担当者でないかぎり、むずかしいでしょう。電子取引を1件ごとにファイル保存する作業が煩雑であるのに加え、保存、削除の権限を誰に持たせるのか等々、ルールを決めて運用するのも容易ではありません。エクセルで索引簿をつくり、管理する方法も同様です。

証憑保存機能で簡単管理

 そこで、業務効率を鑑みておすすめしたいのが、法的要件を満たしたソフトウエアの利用です。法的要件を満たしているかどうかは、日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)の「電子取引ソフト法的要件認証」で判断できます。「FXシリーズ」をはじめとするTKC自計化システムには、「証憑保存機能」が22年1月に搭載されます。

 この機能を活用し、メールで受け取った請求書等のPDFファイルや、画面ハードコピー等の画像ファイルを読み込めば、要件を満たした電子データとして保存できます。具体的には、受領したPDFファイルをFXシリーズの画面上にドラッグ&ドロップしてアップロードするだけで、簡単にファイルを登録できます。アップロードした証憑書類は、システムに入力した仕訳と共に画面表示されるので、突合する手間がかかりません(詳細は『戦略経営者』2021年12月号P14)。電子取引データの保存期間は最長10年間とされていますが、TKCのデータセンター(TISC)でバックアップされるので安心です。

 このようにFXシリーズに搭載される証憑保存機能を活用すれば、電子取引データの保存作業が格段に楽になり、運用に頭を悩ませることはまずなくなるでしょう。会計事務所側にとっても、月次巡回監査での証憑書類突合に要する時間を削減できるので、監査効率が一挙に高まります。従来、書類の確認にあてていた時間を経営助言や経営計画の立案等に割くことができ、巡回監査の質の向上につながるものと期待しています。

(インタビュー・構成/本誌・小林淳一)

掲載:『戦略経営者』2021年12月号